〇龍宮の庭・深夜
龍宮の庭には、見たこともない草花や、リンゴのような紫色の変わった木の実が付いた木が生えている。
石畳が敷かれた道の先に位置する赤い橋。
そこを夾と伊織が仲睦まじく歩く。※夾は、煌びやかな着物姿。伊織は落ち着いたピンクの着物。
夾「伊織、僕今が一番幸せかも」
伊織「私もです」
夾「だからさ、あの子のことはもう良いんじゃない? 放っとこうよ」
伊織「いえ、アンナちゃんは私に唯一優しくしてくれた友達ですから」
夾「でも、伊織を欺こうとしてたんだよ。桜のスパイだよ」
伊織「仮にそうだったとしても」
夾「仮じゃないよ。そうなんだよ」
呆れた様子の夾に対し、伊織は庭園の中をどんどん奥へと歩いていく。
夾「そっちは、金龍の部屋の方だから近付かない方が良いよ」
伊織「ですが、庭園のどこかにあるそうなので、隅々まで探しませんと……」
夾「だから、あの子のお母さんが病気なのって仕方ないことでしょ。伊織がどうこうしてあげることじゃないって」
モノローグ『監禁された時、夾様にアンナちゃんの事情を聞いた』『もちろんショックもあった』『けれど、私はどうにかできないかとずっと悩んでいた』『そんな時、ふと思い出したのだ』
〇回想中
伊織十歳。
神崎神社の庭に咲くクローバーと伊織がおしゃべりをしていた。
伊織「四葉のクローバーって、願いが叶うって本当?」
クローバー「まぁ、願い次第だろうな」
伊織「そっかぁ。じゃあ、おばあちゃんの病気は治らないか……」
クローバー「龍宮の庭に咲く虹色の四葉のクローバーなら、どんな病も一度だけ治してくれるらしいぜ」
伊織「りゅうぐう……?」
クローバー「ま、人間は行けないからな。諦めな」
伊織「そっか。残念」
〇現実に戻る
モノローグ『だから、せっかく龍宮に来ることができたので、私はアンナちゃんのお母さんの病を治してあげたいのだ』
夾「伊織はさ、もっと人を疑うことをした方が良いよ」
伊織はムッとする。
伊織「夾様は、もっと人の気持ちが分かる方かと思っていましたのに、違ったようですね」
夾「はぁ、もう知らないよ。勝手にしたら」
夾は踵を返して、元来た道を帰ろうとゆっくり歩く。
けれど、伊織はそのまま真っすぐ前へと進む。
チラリと後ろを振り返る夾。
夾(こういう時ってさ、普通、旦那様を追っかけてくるんじゃないの? しかも初めての場所だよ。不安で僕から離れないんじゃないの? あんな晴れやかな顔で前に進まれたら僕だって……)
伊織が金色に輝く小さな花に話しける。
伊織「ねぇ、この庭に虹色に輝く四葉のクローバーがあるって聞いたんだけど、知らない?」
金色の花『あー、あるある。深夜にしか輝かないから、中々見つけられないってやつでしょ?』
伊織「そう、それ。今の時間ならあるかなって思ったんだけど」
金色の花『えっとね、クローバーのエリアが、その突き当りを左に曲がったところと、橋の向こうの木の下の方にあったと思うよ』
伊織「ありがとう」
教えてもらったように、伊織は突き当りを目指して真っすぐ歩く。
すると、突き当りにある部屋の障子が、すっと静かに開いた。
そこにいたのは金龍だ※金色の長い髪、切れ長な目の下には泣きぼくろがり、なんとも色っぽい顔付き。
金龍「ほう、こんな夜更けに訪問者とは。上がってゆきなさい」
伊織「え!? わ、私ですか!?」
金龍「さぁ、こちらへ」
言われるがまま金龍の方へ近寄る伊織。顎をクイッと持ち上げられ、間近で顔を観察される。
金龍「まだ幼いが、白くて美しい顔をしておるな」
伊織「い、いえ。あ、あ、あ、あなた様の方が、お美しゅうございます」
酷く動揺する伊織。
腰に手を回されそうになったところで、夾が伊織の腰をクイッと引いて金龍から遠ざける。
夾「金龍殿、おやめください。紹介が遅れましたが、僕の伴侶の伊織にございます」
伊織は戸惑いながらも頭を下げる。
伊織「伊織です。よろしくお願いします」
夾「ばッ、ダメ、伊織」
伊織「え?」
金龍「いくら白龍の嫁と言えど、よろしくと言われたら相手をするしかなかろう」
溜め息を吐く夾。
夾「金龍殿は、いわゆる女たらしだから、何かにつけて誘惑してくるの。だから近付くなって言ったのに」
金龍「近付くなとは無礼な」
金龍は伊織を流し目で見て言った。
金龍「白龍に嫌気がさしたらいつでもおいで」
夾「嫌気など」
伊織「夾様に嫌気はさされるかもしれませんが、私から嫌気をさすことは決してないです。断じてないです。大好きなので!」
凛とした態度で言えば、夾の頬が朱色に染まった。
夾「伊織……」
そして、我に返ったように動揺する伊織。
伊織「わ、私、人前でなに言ってるんだろう。す、すみません! なかったことにしてください!」
夾「なかったことになんて出来るわけないでしょ。五千年経っても忘れないよ」
伊織「ご、五千……いや、もう今すぐに忘れて下さいませ」
金龍「余も新たな伴侶でも見つけようかの」
金龍はつまらなさそうに障子を閉めた。
ホッとする夾。
二人は、クローバーのあるエリアまで歩き、伊織は腰をかがめる。
夾「もう、一人で先々行かないでね」
伊織「ですが、夾様が勝手にしろと」
夾「言ったけどさ、素直に受け取らないでしょ。普通」
伊織はキョトンとした顔で首を傾げる。
溜め息を吐く夾。
夾「ごめん、僕が悪かったよ。伊織は、冗談が通じないほど純粋なんだった」
伊織「じゅ、純粋だなんて」
照れる伊織。
夾「良いから、早く探しちゃお」
伊織「一緒に探して下さるのですか?」
夾「だって、これが済まないと、僕よりあの友達のことしか考えられないんでしょ」
伊織「半分くらいは考えられますよ」
夾「半分じゃ嫌だ。伊織の頭の中、全部僕でいっぱいにしなきゃ」
そこへ、天帝がのんびりと橋を渡って二人の元まできた。
天帝「ほう。あの白龍が色恋に目覚めよったか」
夾は頭を下げる。倣って伊織も頭を下げる。
夾「天帝様、こんな夜更けにどうなされたのですか?」
天帝「ただの散歩だ」
夾「左様ですか」
天帝「そんな厄介者を見るような目で見ぬともよかろう」
夾「そんな目はしておりません」
天帝「ここまで白龍を夢中にさせるとは、其方もやるの」
伊織は、天帝にウィンクされ一瞬固まった。
伊織「こ、こ、こちらには、お美しい人……いえ、お美しい神様しかおられないのですね」
夾(ダメだ。ここにいたら伊織が誘惑されてしまう)
夾「伊織、四葉のクローバーなら僕が見つけとくからさ、先に部屋で休んでて」
伊織「いえ、そういうわけには。それに、私が探さねば意味がありませんので」
意気込む伊織と夾の姿を見て、天帝は愉快そうに笑った。
天帝「では、我は失礼する」
夾「はい、そうして下さると助かります」
天帝は踵を返し、ふと思い出したように夾に言った。
天帝「もしも、もしも……だがな」
夾「はい、なんでしょう」
天帝「一生一緒におりたいというのであれば、魂だけを呼び戻すことは可能であるからな。いつでも言え」
夾「天帝様……」
天帝は静かに橋の向こうへと渡って行った――。
それを見ながら夾が深くお辞儀した。
伊織「夾様?」
夾は、嬉しさのあまり伊織を脇から抱えて抱っこした。
伊織「キャッ」
そして、抱えたままくるくると回る。
伊織「ちょ、目が、目が回ります」
伊織をギュッと抱きしめ、クローバーが咲き乱れる上にごろんと転がった。※夾の上に伊織が乗っている状態。
伊織「きょ、夾様、お召し物が汚れてしまいます」
夾「良いよ。これくらい」
伊織「ですが」
夾が、ふと横を見た。
夾「あ……あった」
夾は伊織を支えながら起き上がり、虹色の四つ葉のクローバーを二人で見つめた。
伊織「夾様! ありがとうございます!」
夾「本当にあるんだね」
伊織「ありましたね!」
夾「さっそく願いを叶えてもらったら?」
伊織「はい。ですが、その前に……」
伊織は沢山咲いてるクローバーを撫でながら、優しく言った。
伊織「ごめんね、お友達もらうね」
三つ葉のクローバー『良いよな。四つ葉は』
虹色四つ葉のクローバー『なんせ、特別だからな』
伊織「ごめん、二人とももらって良いかな?」
三つ葉『え? オレも?』
伊織「うん。二人とも後で、可愛く押し花にするからさ」
三つ葉『良いぜ。物好きもいるもんだな』
伊織は、三つ葉と虹色の四つ葉を一つずつ摘んだ。
そして、虹色の四つ葉にお願いする。
伊織「アンナちゃんのお母さんが元気になりますように……」
すると、虹色の四つ葉は、普通の四つ葉のクローバーへと変わった。
伊織「叶ったのかな……」
夾「今度、見に行ってみよっか」
伊織「はい!」
夾「じゃ、戻ろっか」
ニコリと笑う夾の前に、三つ葉のクローバーを差し出した。
夾「ん?」
伊織「これは夾さんに」
夾「僕に?」
伊織「三つ葉のクローバーの花言葉、『愛情』『私を思って』なんです」
夾「それは……つまり」
伊織は、照れたように言った。
伊織「私のこと、ずっと思ってて欲しいです」
夾「伊織……」
一瞬の間があり、夾は微笑んだ。
夾「もちろんだよ」
その瞬間、周りにあった庭の花がパァッと咲き誇った。
(おしまい)
龍宮の庭には、見たこともない草花や、リンゴのような紫色の変わった木の実が付いた木が生えている。
石畳が敷かれた道の先に位置する赤い橋。
そこを夾と伊織が仲睦まじく歩く。※夾は、煌びやかな着物姿。伊織は落ち着いたピンクの着物。
夾「伊織、僕今が一番幸せかも」
伊織「私もです」
夾「だからさ、あの子のことはもう良いんじゃない? 放っとこうよ」
伊織「いえ、アンナちゃんは私に唯一優しくしてくれた友達ですから」
夾「でも、伊織を欺こうとしてたんだよ。桜のスパイだよ」
伊織「仮にそうだったとしても」
夾「仮じゃないよ。そうなんだよ」
呆れた様子の夾に対し、伊織は庭園の中をどんどん奥へと歩いていく。
夾「そっちは、金龍の部屋の方だから近付かない方が良いよ」
伊織「ですが、庭園のどこかにあるそうなので、隅々まで探しませんと……」
夾「だから、あの子のお母さんが病気なのって仕方ないことでしょ。伊織がどうこうしてあげることじゃないって」
モノローグ『監禁された時、夾様にアンナちゃんの事情を聞いた』『もちろんショックもあった』『けれど、私はどうにかできないかとずっと悩んでいた』『そんな時、ふと思い出したのだ』
〇回想中
伊織十歳。
神崎神社の庭に咲くクローバーと伊織がおしゃべりをしていた。
伊織「四葉のクローバーって、願いが叶うって本当?」
クローバー「まぁ、願い次第だろうな」
伊織「そっかぁ。じゃあ、おばあちゃんの病気は治らないか……」
クローバー「龍宮の庭に咲く虹色の四葉のクローバーなら、どんな病も一度だけ治してくれるらしいぜ」
伊織「りゅうぐう……?」
クローバー「ま、人間は行けないからな。諦めな」
伊織「そっか。残念」
〇現実に戻る
モノローグ『だから、せっかく龍宮に来ることができたので、私はアンナちゃんのお母さんの病を治してあげたいのだ』
夾「伊織はさ、もっと人を疑うことをした方が良いよ」
伊織はムッとする。
伊織「夾様は、もっと人の気持ちが分かる方かと思っていましたのに、違ったようですね」
夾「はぁ、もう知らないよ。勝手にしたら」
夾は踵を返して、元来た道を帰ろうとゆっくり歩く。
けれど、伊織はそのまま真っすぐ前へと進む。
チラリと後ろを振り返る夾。
夾(こういう時ってさ、普通、旦那様を追っかけてくるんじゃないの? しかも初めての場所だよ。不安で僕から離れないんじゃないの? あんな晴れやかな顔で前に進まれたら僕だって……)
伊織が金色に輝く小さな花に話しける。
伊織「ねぇ、この庭に虹色に輝く四葉のクローバーがあるって聞いたんだけど、知らない?」
金色の花『あー、あるある。深夜にしか輝かないから、中々見つけられないってやつでしょ?』
伊織「そう、それ。今の時間ならあるかなって思ったんだけど」
金色の花『えっとね、クローバーのエリアが、その突き当りを左に曲がったところと、橋の向こうの木の下の方にあったと思うよ』
伊織「ありがとう」
教えてもらったように、伊織は突き当りを目指して真っすぐ歩く。
すると、突き当りにある部屋の障子が、すっと静かに開いた。
そこにいたのは金龍だ※金色の長い髪、切れ長な目の下には泣きぼくろがり、なんとも色っぽい顔付き。
金龍「ほう、こんな夜更けに訪問者とは。上がってゆきなさい」
伊織「え!? わ、私ですか!?」
金龍「さぁ、こちらへ」
言われるがまま金龍の方へ近寄る伊織。顎をクイッと持ち上げられ、間近で顔を観察される。
金龍「まだ幼いが、白くて美しい顔をしておるな」
伊織「い、いえ。あ、あ、あ、あなた様の方が、お美しゅうございます」
酷く動揺する伊織。
腰に手を回されそうになったところで、夾が伊織の腰をクイッと引いて金龍から遠ざける。
夾「金龍殿、おやめください。紹介が遅れましたが、僕の伴侶の伊織にございます」
伊織は戸惑いながらも頭を下げる。
伊織「伊織です。よろしくお願いします」
夾「ばッ、ダメ、伊織」
伊織「え?」
金龍「いくら白龍の嫁と言えど、よろしくと言われたら相手をするしかなかろう」
溜め息を吐く夾。
夾「金龍殿は、いわゆる女たらしだから、何かにつけて誘惑してくるの。だから近付くなって言ったのに」
金龍「近付くなとは無礼な」
金龍は伊織を流し目で見て言った。
金龍「白龍に嫌気がさしたらいつでもおいで」
夾「嫌気など」
伊織「夾様に嫌気はさされるかもしれませんが、私から嫌気をさすことは決してないです。断じてないです。大好きなので!」
凛とした態度で言えば、夾の頬が朱色に染まった。
夾「伊織……」
そして、我に返ったように動揺する伊織。
伊織「わ、私、人前でなに言ってるんだろう。す、すみません! なかったことにしてください!」
夾「なかったことになんて出来るわけないでしょ。五千年経っても忘れないよ」
伊織「ご、五千……いや、もう今すぐに忘れて下さいませ」
金龍「余も新たな伴侶でも見つけようかの」
金龍はつまらなさそうに障子を閉めた。
ホッとする夾。
二人は、クローバーのあるエリアまで歩き、伊織は腰をかがめる。
夾「もう、一人で先々行かないでね」
伊織「ですが、夾様が勝手にしろと」
夾「言ったけどさ、素直に受け取らないでしょ。普通」
伊織はキョトンとした顔で首を傾げる。
溜め息を吐く夾。
夾「ごめん、僕が悪かったよ。伊織は、冗談が通じないほど純粋なんだった」
伊織「じゅ、純粋だなんて」
照れる伊織。
夾「良いから、早く探しちゃお」
伊織「一緒に探して下さるのですか?」
夾「だって、これが済まないと、僕よりあの友達のことしか考えられないんでしょ」
伊織「半分くらいは考えられますよ」
夾「半分じゃ嫌だ。伊織の頭の中、全部僕でいっぱいにしなきゃ」
そこへ、天帝がのんびりと橋を渡って二人の元まできた。
天帝「ほう。あの白龍が色恋に目覚めよったか」
夾は頭を下げる。倣って伊織も頭を下げる。
夾「天帝様、こんな夜更けにどうなされたのですか?」
天帝「ただの散歩だ」
夾「左様ですか」
天帝「そんな厄介者を見るような目で見ぬともよかろう」
夾「そんな目はしておりません」
天帝「ここまで白龍を夢中にさせるとは、其方もやるの」
伊織は、天帝にウィンクされ一瞬固まった。
伊織「こ、こ、こちらには、お美しい人……いえ、お美しい神様しかおられないのですね」
夾(ダメだ。ここにいたら伊織が誘惑されてしまう)
夾「伊織、四葉のクローバーなら僕が見つけとくからさ、先に部屋で休んでて」
伊織「いえ、そういうわけには。それに、私が探さねば意味がありませんので」
意気込む伊織と夾の姿を見て、天帝は愉快そうに笑った。
天帝「では、我は失礼する」
夾「はい、そうして下さると助かります」
天帝は踵を返し、ふと思い出したように夾に言った。
天帝「もしも、もしも……だがな」
夾「はい、なんでしょう」
天帝「一生一緒におりたいというのであれば、魂だけを呼び戻すことは可能であるからな。いつでも言え」
夾「天帝様……」
天帝は静かに橋の向こうへと渡って行った――。
それを見ながら夾が深くお辞儀した。
伊織「夾様?」
夾は、嬉しさのあまり伊織を脇から抱えて抱っこした。
伊織「キャッ」
そして、抱えたままくるくると回る。
伊織「ちょ、目が、目が回ります」
伊織をギュッと抱きしめ、クローバーが咲き乱れる上にごろんと転がった。※夾の上に伊織が乗っている状態。
伊織「きょ、夾様、お召し物が汚れてしまいます」
夾「良いよ。これくらい」
伊織「ですが」
夾が、ふと横を見た。
夾「あ……あった」
夾は伊織を支えながら起き上がり、虹色の四つ葉のクローバーを二人で見つめた。
伊織「夾様! ありがとうございます!」
夾「本当にあるんだね」
伊織「ありましたね!」
夾「さっそく願いを叶えてもらったら?」
伊織「はい。ですが、その前に……」
伊織は沢山咲いてるクローバーを撫でながら、優しく言った。
伊織「ごめんね、お友達もらうね」
三つ葉のクローバー『良いよな。四つ葉は』
虹色四つ葉のクローバー『なんせ、特別だからな』
伊織「ごめん、二人とももらって良いかな?」
三つ葉『え? オレも?』
伊織「うん。二人とも後で、可愛く押し花にするからさ」
三つ葉『良いぜ。物好きもいるもんだな』
伊織は、三つ葉と虹色の四つ葉を一つずつ摘んだ。
そして、虹色の四つ葉にお願いする。
伊織「アンナちゃんのお母さんが元気になりますように……」
すると、虹色の四つ葉は、普通の四つ葉のクローバーへと変わった。
伊織「叶ったのかな……」
夾「今度、見に行ってみよっか」
伊織「はい!」
夾「じゃ、戻ろっか」
ニコリと笑う夾の前に、三つ葉のクローバーを差し出した。
夾「ん?」
伊織「これは夾さんに」
夾「僕に?」
伊織「三つ葉のクローバーの花言葉、『愛情』『私を思って』なんです」
夾「それは……つまり」
伊織は、照れたように言った。
伊織「私のこと、ずっと思ってて欲しいです」
夾「伊織……」
一瞬の間があり、夾は微笑んだ。
夾「もちろんだよ」
その瞬間、周りにあった庭の花がパァッと咲き誇った。
(おしまい)



