◯神崎家の納戸・夜
モノローグ『今日は大晦日』『つまりは、明日、私は龍神様の生贄として捧げられる』
キキィと扉が開けば、神職姿の夾の姿。手にはお膳を持っている。※扉の両サイドには、しっかりと監視が二人いる。
夾「ご飯、持って来たよ」
伊織「ありがとうございます」
夾は中にそれを持って入り伊織の前にセッティングする。
夾「伊織は、最後まで強情だよね。どうしてこんな所から出たいって言わないの? いつでも出してあげるのに」
伊織「夾さんには、迷惑かけられませんから」
夾「迷惑だなんて……」
伊織「夾さんには、感謝してるんです」
夾「感謝?」
伊織「異能のこと教えてくれたじゃないですか。私も含めみんなが気付かなかった異能。それを教えてくれたおかげで、あれから誰も私を“無能”って呼ばなくなった」
夾「それでも、無かったことにしたあの人達は、僕は嫌いだよ」
◯回想中
伊織に異能があると発覚した夜のこと。
血相を変えた桜が両親に詰め寄った。
桜「ねぇ! ママ! 私の名前、桜ってさ、無能が付けたの!?」
母「え? 何、急に」
桜「そこの桜の木の下で、無能が『さくら』を連呼して」
母「ああ、懐かしいわね。実は、そうなのよ。でも許してね、あの時はあの子が無能なんて知らなかったから」
父「それがどうかしたのか?」
桜は、冷や汗を流しながら言った。
桜「……お姉ちゃんの異能、植物と話が出来ることなんだって」
両親「「は!?」」
桜「夾君が見つけたの。無能が、無能じゃなかったんだけど! どういうことなのよ!」
母「それは、本当なの? 夾さん」
夾「ええ、間違いありません。あなた方も見たことはありませんか? 伊織様が草花や木々と話をしているところを」
両親は、思い当たる節があったよう。桜同様に顔色を変える。
父「でも、あれは……寂しさを紛らわす為に」
母「そうよ。私たちが相手をしないから、だから……」
夾「そう、そうやって気付かれぬまま十七年の時が過ぎたのです」
母「そんな……」
父「てことは、我々は……」
桜「ねぇ、その場合ってさ、龍神様の生贄問題ってどうなんの!?」
父「既に伊織の情報を龍神様に伝えておるから、今更変えることは難しいが……どうしてもの場合は不可能ではない」
桜「マジで!? まさか、私を生贄になんてしないよね!? ねぇ、パパ!? ママ!?」
両親に縋り付く桜。そんな桜に父が言った。
父「これは無かったことにしよう」
夾「は?」
父「既に周りにも情報がいっている。今更、伊織に異能があると伝えたところで何も変わらん。我が家には桜がいれば十分だ」
母「そうね。今まで気付かなかったなんて恥でしかないもの」
桜「パパ、ママ……それじゃあ、私」
◯現実に戻る
夾「あれは、呆れを通り越して感心したよ」
伊織「はは、分かります。私もそう思うこと多々ありました」
苦笑する伊織の箸は進んでいない。
夾「伊織、ちゃんと食べて」
伊織「食欲なくて」
夾「僕と違って伊織は食べないと死んじゃうんだから」
伊織「どうせ私……」
夾「伊織、生贄っていうのはさ、なにも食べられることだけじゃないんだよ」
伊織「知ってる。人体実験でしょ?」
夾「は? 誰がそんなこと言ったの」
伊織「パンジーが言ってた」
夾(後で引っこ抜いて来ようかな)
伊織は、隣に座る夾に向き直って両手を前について頭を下げた。
伊織「夾さん、短い間でしたが、ありがとうございました」
夾「何言ってんの?」
伊織「私にとっては、幸せな二ヶ月でした」
夾「……」
顔を上げた伊織は、優しく微笑んだ。
伊織「好きでした」
夾「え?」
伊織「最後に伝えたくて。自己満足ですみません」
へへへと笑う伊織だが、夾の頭の中では『好きでした』が連呼され、理解が追いつかない。
そして、やっと言葉の意味を理解できた時、夾の顔は真っ赤に染まる。
夾「え? 好き? 伊織が、僕を?」
伊織「そ、そんな大きな声で言わないで下さい。恥ずかしいので」※動揺
夾「好きっていうのは、男女が愛し合う的な……そういう好き?」
伊織「そ、そういう好きです。改めて言われると恥ずかしいのでやめて下さい」
顔を真っ赤にさせて目を逸らす伊織。
そんな伊織に問い詰める夾。
夾「でもさ、『好きだった』って過去形? 今は好きじゃないってこと?」
伊織「今も……きですよ」
夾「え、聞こえないんだけど」
伊織「今も好きです! けど、明日には……」
伊織は、照れを隠すように早口で言った。
伊織「万が一、万が一にも生贄の意味が花嫁だったとしますよ。ですが、私は夾さんしか好きじゃないので、このまま何も食べずに死にたいなって、そう思っているので、私の命はどの道明日で終わりなんです」
肩で息をする伊織を見て、呆気に取られる夾。
夾「僕って、そんなに愛されてるんだ」
伊織「すみません。こんな小娘が夾さんのような方に惚れるなんて」
夾「本当だよ」
伊織「え」
伊織(そこは、そんなことないよ? では?)
ズキリと胸が痛む伊織。
そんな伊織を夾はふわりと抱きしめた。
夾「僕はさ、同情で伊織を幸せにするって思ってたんだ」
伊織「同情……ですか」
夾「でもさ、今ので分かったよ。僕のも伊織と一緒」
伊織「一緒……?」
夾「愛してる」
伊織「夾さん」
伊織と夾は見つめ合い、キスをした。
◯神崎神社・神殿・翌朝
モノローグ『この世界は龍神様の力で安寧が保たれている』『故に、龍神様の逆鱗に触れてはならない。龍神様が望むものを人間は与えなければならない』『それが、この世界を平穏に導く唯一の方法』
真っ白の着物姿の伊織は、逃げられないように両手を後ろ手に縛られる。そして、神殿の中へと足を踏み入れ、座らされた。
伊織(私の十七年って、何だったんだろ……)
涙すら出ない伊織は、諦めたように俯いた。
伊織(でも、最後の最後に友達も出来たし、恋も出来た。それだけで、私の心は満たされる)
ドンドンと龍神様へ捧げる太鼓の音が聞こえる。
そこに神職の健太郎の声も聞こえて来た。※泣いている。
健太郎「夾さん? どこ行ったんすか? 伊織様との最後ですよ? お別れしなくて良いんすか!?」
伊織(夾さん、来てくれなかったんだ……)
警備の人に止められている高松とアンナの声も聞こえる。
高松「神崎! 諦めんな! 犬神様と助けに行ってやるからな!」
アンナ「伊織ちゃん、ごめんね! 本当にごめんね! 伊織ちゃんと仲良く出来て良かった!」
伊織(二人とも、ありがとう……)
心の中で感謝を述べれば、神殿の中が眩い光に包まれた。
そして、どこからともなくふわりと夾が現れた。いつもとは違って、銀色の長髪を後ろで束ね、煌びやかな着物姿をしていた。
その美しさに声も出ない伊織。
夾「行こう。僕の花嫁」
伊織「え……」
夾「これから、僕と一緒に幸せになろう?」
伊織「これから……?」
伊織(花嫁? それに、これからって……私に未来があるの?)
伊織「てか、その格好って……」
夾「びっくりした? 僕が龍神なんだよね」
小龍「こちら白龍様にございます。龍神様の伴侶を縄で縛るなど、言語道断。厳罰を下さねばなりませんね」
小龍は、伊織の縄をハサミで切っていく。
父と母は慌てて頭を下げる。
父「も、申し訳ございませんでした」
母「何故、教えて下さらなかったのですか!?」
そして、伊織にかけよろうとする桜。けれど、小龍に止められる。
桜「夾君! 私、私の方が優れてるわ! 私を生贄に、花嫁にしてちょうだい!」
小龍「馬鹿なんですか、あなたは」
桜「ばッ、誰に向かってそんな口を聞いてるの? 私に逆らうと」
桜は両手を小龍に翳した。
けれど、何も起こらない。
桜「な、なんでよ! なんで、何も起こらないの!?」
夾「君の異能は、天帝様にお願いして無くしてもらったから。もちろん父親のあなたもね」
焦る父は、桜同様に手を前に翳した。しかし、何も起こらない。
ニヤリと笑う夾。
夾「これで、君らの大好きな“無能”になったね」
呆気に取られる伊織の肩をふわっと抱き寄せる夾。
夾「伊織の能力はそのままにしてもらったから。存分に使って」
伊織「良いんですか?」
夾「もちろん。でも、僕の相手もちゃんとしてね」
伊織「夾さん……」
夾「あ、そうだ」
夾は、高松を手招きした。
高松「え、俺?」
高松はキョロキョロと辺りを見渡し、警備の人にガンを飛ばしながら前に出てきた。
夾「僕ら、この神崎神社に祀ってもらうのやめたからさ、君のところにお願いするよ」
高松「は?」
夾「いわゆる神社合祀」
高松「いや、俺の一存じゃ……」
そこへ巫女姿の瑞希も現れた。
瑞希「案外、根に持つ男だね。そこまでするとは」
高松「犬神様」
瑞希「先日の戦いに負けてしまったからね。神同士の戦いは、負けた方が何でも一つ言うことを聞くという決まりがある。致し方ない」
高松「へぇ、そうなんだ」
夾「じゃ、行こっか。伊織」
伊織「えっと、どこへでしょうか」
夾「龍宮。僕らの新居だよ」
伊織「え!? 龍宮!?」
驚く伊織ににこりと微笑んだ夾は————伊織に遮られた。
伊織「夾さん、あ、いえ夾様、ちょっと待って下さい!」
伊織は、夾の手からするりと抜けて、アンナの元に駆け寄った。
アンナ「伊織ちゃん……」
伊織「アンナちゃん! 助かるかも!」
アンナ「へ?」
伊織「任せて!」
モノローグ『今日は大晦日』『つまりは、明日、私は龍神様の生贄として捧げられる』
キキィと扉が開けば、神職姿の夾の姿。手にはお膳を持っている。※扉の両サイドには、しっかりと監視が二人いる。
夾「ご飯、持って来たよ」
伊織「ありがとうございます」
夾は中にそれを持って入り伊織の前にセッティングする。
夾「伊織は、最後まで強情だよね。どうしてこんな所から出たいって言わないの? いつでも出してあげるのに」
伊織「夾さんには、迷惑かけられませんから」
夾「迷惑だなんて……」
伊織「夾さんには、感謝してるんです」
夾「感謝?」
伊織「異能のこと教えてくれたじゃないですか。私も含めみんなが気付かなかった異能。それを教えてくれたおかげで、あれから誰も私を“無能”って呼ばなくなった」
夾「それでも、無かったことにしたあの人達は、僕は嫌いだよ」
◯回想中
伊織に異能があると発覚した夜のこと。
血相を変えた桜が両親に詰め寄った。
桜「ねぇ! ママ! 私の名前、桜ってさ、無能が付けたの!?」
母「え? 何、急に」
桜「そこの桜の木の下で、無能が『さくら』を連呼して」
母「ああ、懐かしいわね。実は、そうなのよ。でも許してね、あの時はあの子が無能なんて知らなかったから」
父「それがどうかしたのか?」
桜は、冷や汗を流しながら言った。
桜「……お姉ちゃんの異能、植物と話が出来ることなんだって」
両親「「は!?」」
桜「夾君が見つけたの。無能が、無能じゃなかったんだけど! どういうことなのよ!」
母「それは、本当なの? 夾さん」
夾「ええ、間違いありません。あなた方も見たことはありませんか? 伊織様が草花や木々と話をしているところを」
両親は、思い当たる節があったよう。桜同様に顔色を変える。
父「でも、あれは……寂しさを紛らわす為に」
母「そうよ。私たちが相手をしないから、だから……」
夾「そう、そうやって気付かれぬまま十七年の時が過ぎたのです」
母「そんな……」
父「てことは、我々は……」
桜「ねぇ、その場合ってさ、龍神様の生贄問題ってどうなんの!?」
父「既に伊織の情報を龍神様に伝えておるから、今更変えることは難しいが……どうしてもの場合は不可能ではない」
桜「マジで!? まさか、私を生贄になんてしないよね!? ねぇ、パパ!? ママ!?」
両親に縋り付く桜。そんな桜に父が言った。
父「これは無かったことにしよう」
夾「は?」
父「既に周りにも情報がいっている。今更、伊織に異能があると伝えたところで何も変わらん。我が家には桜がいれば十分だ」
母「そうね。今まで気付かなかったなんて恥でしかないもの」
桜「パパ、ママ……それじゃあ、私」
◯現実に戻る
夾「あれは、呆れを通り越して感心したよ」
伊織「はは、分かります。私もそう思うこと多々ありました」
苦笑する伊織の箸は進んでいない。
夾「伊織、ちゃんと食べて」
伊織「食欲なくて」
夾「僕と違って伊織は食べないと死んじゃうんだから」
伊織「どうせ私……」
夾「伊織、生贄っていうのはさ、なにも食べられることだけじゃないんだよ」
伊織「知ってる。人体実験でしょ?」
夾「は? 誰がそんなこと言ったの」
伊織「パンジーが言ってた」
夾(後で引っこ抜いて来ようかな)
伊織は、隣に座る夾に向き直って両手を前について頭を下げた。
伊織「夾さん、短い間でしたが、ありがとうございました」
夾「何言ってんの?」
伊織「私にとっては、幸せな二ヶ月でした」
夾「……」
顔を上げた伊織は、優しく微笑んだ。
伊織「好きでした」
夾「え?」
伊織「最後に伝えたくて。自己満足ですみません」
へへへと笑う伊織だが、夾の頭の中では『好きでした』が連呼され、理解が追いつかない。
そして、やっと言葉の意味を理解できた時、夾の顔は真っ赤に染まる。
夾「え? 好き? 伊織が、僕を?」
伊織「そ、そんな大きな声で言わないで下さい。恥ずかしいので」※動揺
夾「好きっていうのは、男女が愛し合う的な……そういう好き?」
伊織「そ、そういう好きです。改めて言われると恥ずかしいのでやめて下さい」
顔を真っ赤にさせて目を逸らす伊織。
そんな伊織に問い詰める夾。
夾「でもさ、『好きだった』って過去形? 今は好きじゃないってこと?」
伊織「今も……きですよ」
夾「え、聞こえないんだけど」
伊織「今も好きです! けど、明日には……」
伊織は、照れを隠すように早口で言った。
伊織「万が一、万が一にも生贄の意味が花嫁だったとしますよ。ですが、私は夾さんしか好きじゃないので、このまま何も食べずに死にたいなって、そう思っているので、私の命はどの道明日で終わりなんです」
肩で息をする伊織を見て、呆気に取られる夾。
夾「僕って、そんなに愛されてるんだ」
伊織「すみません。こんな小娘が夾さんのような方に惚れるなんて」
夾「本当だよ」
伊織「え」
伊織(そこは、そんなことないよ? では?)
ズキリと胸が痛む伊織。
そんな伊織を夾はふわりと抱きしめた。
夾「僕はさ、同情で伊織を幸せにするって思ってたんだ」
伊織「同情……ですか」
夾「でもさ、今ので分かったよ。僕のも伊織と一緒」
伊織「一緒……?」
夾「愛してる」
伊織「夾さん」
伊織と夾は見つめ合い、キスをした。
◯神崎神社・神殿・翌朝
モノローグ『この世界は龍神様の力で安寧が保たれている』『故に、龍神様の逆鱗に触れてはならない。龍神様が望むものを人間は与えなければならない』『それが、この世界を平穏に導く唯一の方法』
真っ白の着物姿の伊織は、逃げられないように両手を後ろ手に縛られる。そして、神殿の中へと足を踏み入れ、座らされた。
伊織(私の十七年って、何だったんだろ……)
涙すら出ない伊織は、諦めたように俯いた。
伊織(でも、最後の最後に友達も出来たし、恋も出来た。それだけで、私の心は満たされる)
ドンドンと龍神様へ捧げる太鼓の音が聞こえる。
そこに神職の健太郎の声も聞こえて来た。※泣いている。
健太郎「夾さん? どこ行ったんすか? 伊織様との最後ですよ? お別れしなくて良いんすか!?」
伊織(夾さん、来てくれなかったんだ……)
警備の人に止められている高松とアンナの声も聞こえる。
高松「神崎! 諦めんな! 犬神様と助けに行ってやるからな!」
アンナ「伊織ちゃん、ごめんね! 本当にごめんね! 伊織ちゃんと仲良く出来て良かった!」
伊織(二人とも、ありがとう……)
心の中で感謝を述べれば、神殿の中が眩い光に包まれた。
そして、どこからともなくふわりと夾が現れた。いつもとは違って、銀色の長髪を後ろで束ね、煌びやかな着物姿をしていた。
その美しさに声も出ない伊織。
夾「行こう。僕の花嫁」
伊織「え……」
夾「これから、僕と一緒に幸せになろう?」
伊織「これから……?」
伊織(花嫁? それに、これからって……私に未来があるの?)
伊織「てか、その格好って……」
夾「びっくりした? 僕が龍神なんだよね」
小龍「こちら白龍様にございます。龍神様の伴侶を縄で縛るなど、言語道断。厳罰を下さねばなりませんね」
小龍は、伊織の縄をハサミで切っていく。
父と母は慌てて頭を下げる。
父「も、申し訳ございませんでした」
母「何故、教えて下さらなかったのですか!?」
そして、伊織にかけよろうとする桜。けれど、小龍に止められる。
桜「夾君! 私、私の方が優れてるわ! 私を生贄に、花嫁にしてちょうだい!」
小龍「馬鹿なんですか、あなたは」
桜「ばッ、誰に向かってそんな口を聞いてるの? 私に逆らうと」
桜は両手を小龍に翳した。
けれど、何も起こらない。
桜「な、なんでよ! なんで、何も起こらないの!?」
夾「君の異能は、天帝様にお願いして無くしてもらったから。もちろん父親のあなたもね」
焦る父は、桜同様に手を前に翳した。しかし、何も起こらない。
ニヤリと笑う夾。
夾「これで、君らの大好きな“無能”になったね」
呆気に取られる伊織の肩をふわっと抱き寄せる夾。
夾「伊織の能力はそのままにしてもらったから。存分に使って」
伊織「良いんですか?」
夾「もちろん。でも、僕の相手もちゃんとしてね」
伊織「夾さん……」
夾「あ、そうだ」
夾は、高松を手招きした。
高松「え、俺?」
高松はキョロキョロと辺りを見渡し、警備の人にガンを飛ばしながら前に出てきた。
夾「僕ら、この神崎神社に祀ってもらうのやめたからさ、君のところにお願いするよ」
高松「は?」
夾「いわゆる神社合祀」
高松「いや、俺の一存じゃ……」
そこへ巫女姿の瑞希も現れた。
瑞希「案外、根に持つ男だね。そこまでするとは」
高松「犬神様」
瑞希「先日の戦いに負けてしまったからね。神同士の戦いは、負けた方が何でも一つ言うことを聞くという決まりがある。致し方ない」
高松「へぇ、そうなんだ」
夾「じゃ、行こっか。伊織」
伊織「えっと、どこへでしょうか」
夾「龍宮。僕らの新居だよ」
伊織「え!? 龍宮!?」
驚く伊織ににこりと微笑んだ夾は————伊織に遮られた。
伊織「夾さん、あ、いえ夾様、ちょっと待って下さい!」
伊織は、夾の手からするりと抜けて、アンナの元に駆け寄った。
アンナ「伊織ちゃん……」
伊織「アンナちゃん! 助かるかも!」
アンナ「へ?」
伊織「任せて!」



