◯学校の校門前・昼
黒髪に染めた高松とセーラー服姿の伊織が、監視役の男二人の前を堂々と通過し、学校を背に歩き出す。
高松「な、大丈夫って言ったろ?」
伊織「う、うん。まだ心臓バクバクいってる」
伊織は、胸を押さえてチラリと後ろを振り返る。
しかし、監視役二人は仁王立ちしたまま一切動く気配がなかった。
◯回想中
文化祭で賑わう学校。
モノローグ『本日は文化祭』『うちのクラスは展示なので、一日フリータイムと言っても過言ではない状況』『つまりは、いつでも逃げるチャンスは訪れる』
伊織は、高松とアンナと共に文化祭を楽しんでいた。
伊織(文化祭を回れる日が来るなんて……去年は空き教室で一人、文化祭が終わるまでじっと耐えてたっけ)
十一時過ぎ、他校の生徒や保護者なども参加し、校内が一層にぎやかになった時間帯。高松が呟いた。
高松「そろそろかな」
アンナ「オッケー」
伊織もその二人の発言に、覚悟を決める。
自身の荷物を取りに、体育館裏にある女子バスケ部の更衣室へと移動する。
高松「椎名がバスケ部なのは意外だったよな」
アンナ「そう? 中学ん時からやってるよ。男子の更衣室の鍵も拝借しといたんだから、感謝してよね」
高松「さんきゅー。んじゃ、神崎。これに着替えてくれ」
高松が、持っていた紙袋を伊織に手渡す。
伊織「え? 着替えるの」
高松「あったり前だろ。そのまま出たら、即捕まるぞ」
伊織「それもそっか」
高松「じゃ、俺も着替えてくるから、準備できたらここで待ち合わせな」
伊織はアンナと共に女子バスケ部の更衣室へ、高松は男子バスケ部の更衣室へと移動する。
――アンナと共に女子バスケ部の更衣室で着替えを済ませた伊織は、セーラー服姿に髪型もハーフアップからおだんごヘアに。
アンナ「伊織ちゃん、可愛い」
伊織「へへ、そ、そうかな」
照れる伊織の元へ、高松も戻ってくる。
高松もブレザーから学ランへ。髪も茶色から黒に変わり、ピアスの類も全て外して真面目そうに見える。
高松「どう? 惚れた?」
伊織「え、あ、うん。みんな放っておかないと思うよ」
高松「何その微妙な返し。ま、良いけど」
アンナはスマホを操作しながら、高松に聞く。
アンナ「で、どこに逃げるの?」
高松「しつこいな。何回目だよ。どこで情報漏れるか分かんねーから、内緒って言ってんだろ」
アンナ「そう」
どこか浮かない顔をするアンナ。
伊織「どうかした?」
首を傾げれば、アンナはいつものように笑顔で応える。
アンナ「ううん。応援してるから、逃げ切ってね!」
伊織「うん。ありがとう」
〇現実に戻る。
モノローグ『そんなこんなで、監視二人を巻いて逃亡している私――――』『唯一の心残りは、夾さんに会えないこと』
伊織(でも、あのまま家にいたら、いつか惨めな自分を晒す時が来る。これで良かったんだよね。短い間だったけど、良い夢見させてくれてありがとう)
胸に手を当てる伊織を心配そうに見る高松。
高松「そう心配すんなって。一か月逃げ切るだけだからさ」
伊織「あ、うん。ありがとう。でもさ、アンナちゃん一人で大丈夫かな? 私と一緒にいるようになってから、前から仲良かった子に無視されてるんでしょ?」
伊織(アンナちゃんは、いつも『全然平気だから。私が、伊織ちゃんといる方を選んだんだから』って笑顔で返してくれるけど、無視されるのは実際ツラいと思う……)
伊織「だから、さっきもあんな顔してたんじゃ……」
俯き加減で歩く伊織の背中を高松はポンと叩いた。
高松「心配すんなって。来週から俺も学校行くしさ」
伊織「へ?」
きょとんとする伊織。
伊織「逃げるんだよね?」
高松「おう、逃げるぞ」
伊織「私と一緒に逃げてくれるんだよね?」
高松「おう。任せろ!」
伊織「ん?」
首を傾げながら歩く伊織は、高松と共に駅の改札を通り抜けた――。
〇高松の実家(高松神社)
大きな真っ赤な鳥居を前に呆気に取られる伊織。
モノローグ『そして、辿り着いた場所』『それは、隣町にある高松神社』
伊織「もしかし、高松君って……高松神社の?」
高松「そう、一応跡取り息子」
伊織「へぇ」
高松「驚いた?」
伊織「驚いた」
高松「さ、入ろうぜ」
伊織「うん」
鳥居をくぐれば、神職姿の男性や巫女姿の女性が伊織らに気付き、一礼した。
伊織も会釈する。
伊織「高松君って、いつもここから学校通ってんの?」
高松「いや、学校の近くにアパート借りてる。うち、姉ちゃんがうぜぇからさぁ」
そう言った高松の背後から飛び蹴りを食らわす女性が一人。※巫女姿の高松の姉の瑞希。背が高くややきつめな印象。
跳び蹴りを喰らった高松は転び、腕を組みながらそれを見下ろす瑞希。
瑞希「こら、幸次! 週一で帰る約束でしょうが!」
高松「痛てて」
背中を押さえる高松を心配していると、瑞希が伊織を見据えた。
瑞希「あなた、もしかして……」
伊織「す、すみません」
反射的に謝る伊織。
瑞希は、次の瞬間伊織を抱きしめた。
瑞希「待ってたのよ!」
伊織「へ?」
瑞希「あの神崎神社の子でしょ? 無能だっていっつも馬鹿にされて可哀想に。会合に行く度にあの狸おやじ(伊織の父)ときたら、妹の自慢ばっかして鬱陶しいったらありゃしないんだから」
伊織「あの……」
瑞稀のマシンガントークに圧倒される伊織に、高松が言った。
高松「姉ちゃんは、神崎の味方だから。けど、両親や他には内緒な。一応、犯罪的なことになったら困るから」
伊織「あ、そうだよね」
高松「家出娘拾って来た設定で頼む」
伊織「わ、分かった。家出娘、家出娘……実際そうか」
そうこうしている間も、瑞稀のマシンガントークは止まらない。
瑞希「そりゃあ、異能が使えるのは凄いけどさ、昔と違って今はそれが何? って感じなんだよ。便利な機械も沢山あってさ、むしろ古いっつーか。ITテク持ってる方が十分凄いって。ねぇ、あなたもそう思わない?」
伊織「あ、はい。そう思います」
瑞希「そうでしょ、そうでしょ。まぁ、龍神様のお怒りを受けたらいけないからこれくらいにしとくけどさ、あなたのことは、うちの犬神様が守ってくれるから安心して」
伊織「犬神様……」
モノローグ『そう、この高松神社は、古くから犬神様を祀っている神社』『人々を見守り、誤った道に逸れた者を正しい道へといざなうと言われている神だ』
瑞希「さ、こっちへおいで」
伊織「は、はい。でも、高松君が」
立ち上がってはいるものの、背中をさすっている高松を心配する伊織。
高松「あー、俺は大丈夫。いつものことだから」
伊織「いつも……」
瑞希「大丈夫よ。あれは幸次にしかしないから。女の子は丁寧に扱わなきゃね」
高松「そんなんだから、いつまで経っても彼氏の一人も出来ねーんだぞ」
瑞希「うるさい。あんたに言われたくないわよ。柄にもなくチャラチャラしちゃってさ」
高松「今日は普通だって」
伊織は二人のやり取りをみてクスッと笑う。
伊織「ご、ごめんなさい。私、外の世界知らなくて。こんな姉弟もいるんですね」
高松と瑞希は二人で顔を見合わせ、困った表情で伊織を見下ろした。
〇学校・同時刻
文化祭には使用していない別館。薄暗い廊下に桜の後ろ姿。
桜は、向こうにいる誰か(アンナ)に威圧的な態度で言う。※顔はまだ見えない。
桜「で? 無能はどこにいるの?」
アンナ「ご、ごめんなさい。後をつけてみたんだけど、途中で見失っちゃって」
桜「チッ、使えないわね。だから一緒に行動しろって言ったでしょ」
アンナ「で、でも……お母さんを一人には出来なくて」
桜「これじゃ、なんの為にあんたを監視役にしたか分かんないじゃない」
アンナ「ごめんね、今すぐ探してくるから! お母さんを助けて!」
桜は、アンナを風を操って壁に叩きつける。
アンナ「うッ」
アンナは、そのまま下にずり落ち床にへたり込む※ここで初めてアンナの顔が見える。
追い討ちをかけるように頭から水をかぶせる桜。
桜「せいぜい、パパの監視の人らよりも早く無能を見つけることね」
アンナ「そんな……」
〇バスケ部の部室の前
五歳男児姿の小龍。
小龍「もう、夾様は龍使いが荒いんですから。なんで私が夾様の代わりに文化祭を見に行かなければならないんですか」
〇回想
神職姿の夾は小龍に命令する。
夾「僕、まだ見習いで抜け出せないからさ、伊織の様子見てきてくれない?」
小龍「何故、私が……」
夾「僕の伴侶に何かあったらどうすんの? 文化祭なんて学校の生徒だけじゃないんだよ。どこの馬の骨とも分からない連中が集まるのに、そのままには出来ないでしょ」
小龍「はいはい」
〇現実に戻る。
モノローグ『そんなこんなで、私が伊織様を探しているというわけでございます』
小龍(ま、こんな裏の方にはいないか)
小龍は踵を返して再び校舎の方へ向かえば、びしょ濡れのアンナが、よたよたと歩いてきた。
小龍(あのお方は……伊織様の御友人?)
アンナは、呆然とした顔で小龍の横を通りすぎる。
小龍はそんなアンナに声をかける。
小龍「大丈夫ですか? こんなに寒い中、どうされたのですか?」
アンナは小龍を見た。
アンナ「君、迷子?」
小龍「む、私を子供扱いするなど、無礼にも程がある」
アンナ「はは、可愛いね」
そう言って、アンナはパタリとその場に倒れた。
黒髪に染めた高松とセーラー服姿の伊織が、監視役の男二人の前を堂々と通過し、学校を背に歩き出す。
高松「な、大丈夫って言ったろ?」
伊織「う、うん。まだ心臓バクバクいってる」
伊織は、胸を押さえてチラリと後ろを振り返る。
しかし、監視役二人は仁王立ちしたまま一切動く気配がなかった。
◯回想中
文化祭で賑わう学校。
モノローグ『本日は文化祭』『うちのクラスは展示なので、一日フリータイムと言っても過言ではない状況』『つまりは、いつでも逃げるチャンスは訪れる』
伊織は、高松とアンナと共に文化祭を楽しんでいた。
伊織(文化祭を回れる日が来るなんて……去年は空き教室で一人、文化祭が終わるまでじっと耐えてたっけ)
十一時過ぎ、他校の生徒や保護者なども参加し、校内が一層にぎやかになった時間帯。高松が呟いた。
高松「そろそろかな」
アンナ「オッケー」
伊織もその二人の発言に、覚悟を決める。
自身の荷物を取りに、体育館裏にある女子バスケ部の更衣室へと移動する。
高松「椎名がバスケ部なのは意外だったよな」
アンナ「そう? 中学ん時からやってるよ。男子の更衣室の鍵も拝借しといたんだから、感謝してよね」
高松「さんきゅー。んじゃ、神崎。これに着替えてくれ」
高松が、持っていた紙袋を伊織に手渡す。
伊織「え? 着替えるの」
高松「あったり前だろ。そのまま出たら、即捕まるぞ」
伊織「それもそっか」
高松「じゃ、俺も着替えてくるから、準備できたらここで待ち合わせな」
伊織はアンナと共に女子バスケ部の更衣室へ、高松は男子バスケ部の更衣室へと移動する。
――アンナと共に女子バスケ部の更衣室で着替えを済ませた伊織は、セーラー服姿に髪型もハーフアップからおだんごヘアに。
アンナ「伊織ちゃん、可愛い」
伊織「へへ、そ、そうかな」
照れる伊織の元へ、高松も戻ってくる。
高松もブレザーから学ランへ。髪も茶色から黒に変わり、ピアスの類も全て外して真面目そうに見える。
高松「どう? 惚れた?」
伊織「え、あ、うん。みんな放っておかないと思うよ」
高松「何その微妙な返し。ま、良いけど」
アンナはスマホを操作しながら、高松に聞く。
アンナ「で、どこに逃げるの?」
高松「しつこいな。何回目だよ。どこで情報漏れるか分かんねーから、内緒って言ってんだろ」
アンナ「そう」
どこか浮かない顔をするアンナ。
伊織「どうかした?」
首を傾げれば、アンナはいつものように笑顔で応える。
アンナ「ううん。応援してるから、逃げ切ってね!」
伊織「うん。ありがとう」
〇現実に戻る。
モノローグ『そんなこんなで、監視二人を巻いて逃亡している私――――』『唯一の心残りは、夾さんに会えないこと』
伊織(でも、あのまま家にいたら、いつか惨めな自分を晒す時が来る。これで良かったんだよね。短い間だったけど、良い夢見させてくれてありがとう)
胸に手を当てる伊織を心配そうに見る高松。
高松「そう心配すんなって。一か月逃げ切るだけだからさ」
伊織「あ、うん。ありがとう。でもさ、アンナちゃん一人で大丈夫かな? 私と一緒にいるようになってから、前から仲良かった子に無視されてるんでしょ?」
伊織(アンナちゃんは、いつも『全然平気だから。私が、伊織ちゃんといる方を選んだんだから』って笑顔で返してくれるけど、無視されるのは実際ツラいと思う……)
伊織「だから、さっきもあんな顔してたんじゃ……」
俯き加減で歩く伊織の背中を高松はポンと叩いた。
高松「心配すんなって。来週から俺も学校行くしさ」
伊織「へ?」
きょとんとする伊織。
伊織「逃げるんだよね?」
高松「おう、逃げるぞ」
伊織「私と一緒に逃げてくれるんだよね?」
高松「おう。任せろ!」
伊織「ん?」
首を傾げながら歩く伊織は、高松と共に駅の改札を通り抜けた――。
〇高松の実家(高松神社)
大きな真っ赤な鳥居を前に呆気に取られる伊織。
モノローグ『そして、辿り着いた場所』『それは、隣町にある高松神社』
伊織「もしかし、高松君って……高松神社の?」
高松「そう、一応跡取り息子」
伊織「へぇ」
高松「驚いた?」
伊織「驚いた」
高松「さ、入ろうぜ」
伊織「うん」
鳥居をくぐれば、神職姿の男性や巫女姿の女性が伊織らに気付き、一礼した。
伊織も会釈する。
伊織「高松君って、いつもここから学校通ってんの?」
高松「いや、学校の近くにアパート借りてる。うち、姉ちゃんがうぜぇからさぁ」
そう言った高松の背後から飛び蹴りを食らわす女性が一人。※巫女姿の高松の姉の瑞希。背が高くややきつめな印象。
跳び蹴りを喰らった高松は転び、腕を組みながらそれを見下ろす瑞希。
瑞希「こら、幸次! 週一で帰る約束でしょうが!」
高松「痛てて」
背中を押さえる高松を心配していると、瑞希が伊織を見据えた。
瑞希「あなた、もしかして……」
伊織「す、すみません」
反射的に謝る伊織。
瑞希は、次の瞬間伊織を抱きしめた。
瑞希「待ってたのよ!」
伊織「へ?」
瑞希「あの神崎神社の子でしょ? 無能だっていっつも馬鹿にされて可哀想に。会合に行く度にあの狸おやじ(伊織の父)ときたら、妹の自慢ばっかして鬱陶しいったらありゃしないんだから」
伊織「あの……」
瑞稀のマシンガントークに圧倒される伊織に、高松が言った。
高松「姉ちゃんは、神崎の味方だから。けど、両親や他には内緒な。一応、犯罪的なことになったら困るから」
伊織「あ、そうだよね」
高松「家出娘拾って来た設定で頼む」
伊織「わ、分かった。家出娘、家出娘……実際そうか」
そうこうしている間も、瑞稀のマシンガントークは止まらない。
瑞希「そりゃあ、異能が使えるのは凄いけどさ、昔と違って今はそれが何? って感じなんだよ。便利な機械も沢山あってさ、むしろ古いっつーか。ITテク持ってる方が十分凄いって。ねぇ、あなたもそう思わない?」
伊織「あ、はい。そう思います」
瑞希「そうでしょ、そうでしょ。まぁ、龍神様のお怒りを受けたらいけないからこれくらいにしとくけどさ、あなたのことは、うちの犬神様が守ってくれるから安心して」
伊織「犬神様……」
モノローグ『そう、この高松神社は、古くから犬神様を祀っている神社』『人々を見守り、誤った道に逸れた者を正しい道へといざなうと言われている神だ』
瑞希「さ、こっちへおいで」
伊織「は、はい。でも、高松君が」
立ち上がってはいるものの、背中をさすっている高松を心配する伊織。
高松「あー、俺は大丈夫。いつものことだから」
伊織「いつも……」
瑞希「大丈夫よ。あれは幸次にしかしないから。女の子は丁寧に扱わなきゃね」
高松「そんなんだから、いつまで経っても彼氏の一人も出来ねーんだぞ」
瑞希「うるさい。あんたに言われたくないわよ。柄にもなくチャラチャラしちゃってさ」
高松「今日は普通だって」
伊織は二人のやり取りをみてクスッと笑う。
伊織「ご、ごめんなさい。私、外の世界知らなくて。こんな姉弟もいるんですね」
高松と瑞希は二人で顔を見合わせ、困った表情で伊織を見下ろした。
〇学校・同時刻
文化祭には使用していない別館。薄暗い廊下に桜の後ろ姿。
桜は、向こうにいる誰か(アンナ)に威圧的な態度で言う。※顔はまだ見えない。
桜「で? 無能はどこにいるの?」
アンナ「ご、ごめんなさい。後をつけてみたんだけど、途中で見失っちゃって」
桜「チッ、使えないわね。だから一緒に行動しろって言ったでしょ」
アンナ「で、でも……お母さんを一人には出来なくて」
桜「これじゃ、なんの為にあんたを監視役にしたか分かんないじゃない」
アンナ「ごめんね、今すぐ探してくるから! お母さんを助けて!」
桜は、アンナを風を操って壁に叩きつける。
アンナ「うッ」
アンナは、そのまま下にずり落ち床にへたり込む※ここで初めてアンナの顔が見える。
追い討ちをかけるように頭から水をかぶせる桜。
桜「せいぜい、パパの監視の人らよりも早く無能を見つけることね」
アンナ「そんな……」
〇バスケ部の部室の前
五歳男児姿の小龍。
小龍「もう、夾様は龍使いが荒いんですから。なんで私が夾様の代わりに文化祭を見に行かなければならないんですか」
〇回想
神職姿の夾は小龍に命令する。
夾「僕、まだ見習いで抜け出せないからさ、伊織の様子見てきてくれない?」
小龍「何故、私が……」
夾「僕の伴侶に何かあったらどうすんの? 文化祭なんて学校の生徒だけじゃないんだよ。どこの馬の骨とも分からない連中が集まるのに、そのままには出来ないでしょ」
小龍「はいはい」
〇現実に戻る。
モノローグ『そんなこんなで、私が伊織様を探しているというわけでございます』
小龍(ま、こんな裏の方にはいないか)
小龍は踵を返して再び校舎の方へ向かえば、びしょ濡れのアンナが、よたよたと歩いてきた。
小龍(あのお方は……伊織様の御友人?)
アンナは、呆然とした顔で小龍の横を通りすぎる。
小龍はそんなアンナに声をかける。
小龍「大丈夫ですか? こんなに寒い中、どうされたのですか?」
アンナは小龍を見た。
アンナ「君、迷子?」
小龍「む、私を子供扱いするなど、無礼にも程がある」
アンナ「はは、可愛いね」
そう言って、アンナはパタリとその場に倒れた。



