しかし、『概念』って何だよ?

 めんどくせぇけど、試しに思ってみるか。

 そもそも、俺、腹減ってたんだよな。

(とりあえず、ここじゃないどこかに行きたい)

 ――パッチン!

 思考して指を鳴らした瞬間、白い空間がビリビリと震え、景色が一変した。

 俺は森の中に立っていた。

 古い巨木が天を突き、苔むした地面が足元に広がる。

 木々の合間から、白い雲がゆっくり流れる青空、その向こうに雪を頂く山脈が見える。

 風に葉ずれの音、チュピピと鳴く鳥。

 足元には小さな青い花が咲き、甘い香りが漂う。

 どうやら、天国みたいな白いところから、人間の世界に戻ってきたらしい。

 でも、元の世界とは全然違う。

 ゲームでおなじみの西洋中世っぽい風景だ。

 人間に戻った俺の体は……誰だこれ?

 水溜まりを覗くと、完璧な顔立ちをした十代半ばの金髪美少年が微笑んでいた。

 サラサラの金髪に、碧い瞳。

 シンプルな白いローブが風に揺れる。

 これが……俺?

「マジかよ……転生体ってことか? 元の肉体と関係なく、姿が自由ってこと?」

 頭の中に、女神たちの声が響く。

 姿は見せなくて声だけだ。

「うんうん! 概念体だから、姿は自由自在! 初期設定は金髪美少年! 私のイチオシデザインだよ!」

「ふふ、髪サラサラぁ。触ったら気持ちいいかもぉ」

「似合う……概念自在」

 と、感想だけ言うと、頭の中から三人の気配がいきなりぷわっと消えちまった。

 何しに来たんだ、おまえら。

 俺はまた一人、森に取り残される。

「っつうか、めんどくせぇ……飯食うはずだったんじゃん。とりあえず、街に行こうか」

 歩き出す。

 足音が軽い。

 体がふわふわ浮いてる感じ。

 木漏れ日が金髪を照らし、ローブの裾が草をかすめる。

 すると、前からプルプルした茶色の塊が飛び出してきた。

 ナメクジスライム。

 ヌメヌメした体表に、粘液が滴る。

 ゲームみたいな光景だけど、リアルに気持ち悪い。

 ピュルルッ!

 スライムがこっちに跳ねてくる。

 これがこいつの攻撃?

 でも俺、武器ないぞ。

 めんどくせぇ。

 倒すの面倒くさいけど、触られるのも臭そうでいやだな。

 ――概念操作、試してみるか。

(ナメクジスライム一匹=経験値百億)

 思考して指を鳴らす。

 パチンと響いた瞬間、世界がビリビリ震えた。

 スライムの体が光り、ぬぽっと俺に吸い込まれるように消滅。

「え、何これ!?」

 頭にステータス画面が浮かぶ。


【アルス・エターナル:レベル1→∞】

【経験値:10000000000/∞】

【マナ:∞、体力:∞、全ステータス:∞】


 画面がエラーだらけ。

 数字が崩壊してるじゃんか。

「マジかよ……レベル∞?」

 体に力が満ちる。

 いや、満ちるどころか、あふれるっていうか、いきなり宇宙って感じ。

 風が通り抜けるだけで、世界の法則を手にしちゃう感覚。

 なんかすげえぞ、これ。