三毛猫は笑った。
あなたが幸せならいいわ。
あなた、ずっともやもやしていることがあるでしょう、と言われる。うん、あるよ。
でも、それは思い出さなくていい。私を忘れていたのは悲しいけれど、それ以上に悲しいことが、もやもやの中にあるのよ。
三毛猫は、優しく言う。本当は、きっと僕とそのもやもやの話をしに来たんだ。でも、諦めてくれた。
あなたはずっと、あの海に取り残されている。私もよ。でも、あなたが今幸せなら、もうそれで充分。
三毛猫は、そう言って、たたた、と去っていった。
またね、はなかった。
何だったんだろう、まるで嵐だった。
そう思った瞬間、暗い夜の一筋の光に照らされた桜が、ぶわっと散った。
僕の視界が桜色で埋め尽くされ、少しすると、ちらちら舞う花弁と夜空が見えた。夜桜、という言葉が頭をよぎる。
春の嵐のような、そんな瞬間だった。
桜の香りが鼻をかすめる。
もう三毛猫は夜に溶けていた。