とある春の日の朝。
目が覚めれば、隣には堂々と真っ赤なポストが立っている。
こんな朝早くから元気だね、と僕は思い、大きなあくびをして、定位置に座った。
「ぽすちゃんおはよー」
「ぽすちゃん、元気ちょうだい!」
早速、登校中の中学生が足を止めて、僕の頭を撫でた。
元気で満ち溢れた、頑張っている手だ。僕は気持ちよく撫でられて、元気パワーを二人に送った。
あの男の子たちは、もう中学二年生になった。毎朝こうやって、小学生のときから撫でられている。たくましく成長したね。
男の子たちは走って学校へ向かった。それがいかにも中学生らしくて、僕はずっとその後ろ姿を見守っていた。
「ぽすちゃん、おはようございます!」
ふと、大きな声がする方を向く。今度は小学生の大群がやって来た。
この地域の小学生は、住んでいる場所によって一緒に登下校する人たちが決まっているらしい。一年生から六年生までの群れが僕に向かってくる。
「見てー、なんかついてるよ!」
「ほんとだ。てんとう虫かな?」
「ぽすちゃん、頭にてんとう虫ついてるよー!」
てんとう虫?僕は頭の方に視線を向けようとする。確かに、なんだかくすぐったいような。
今すぐにでも振り払いたいけれど、みんなが笑顔で可愛いって言うものだから、僕はそのままにしてあげた。
人に可愛がられるのは、嫌じゃないからね。
「ほらほら、ぽすちゃんが困ってるでしょ!早く行こう、出発!」
六年生の女の子がそう言うと、みんなは一斉に学校へ走り出した。
ありゃりゃ、僕は別に困ってなんかいなかったんだけどな。
ぽすちゃんバイバイ、という声が聞こえてきたので、僕は目をゆっくりと閉じて、開いてを繰り返した。
この群れの中で、いつも僕に近づかない子が一人いる気がするけれど、気のせいだろうか。
僕はみんなが去って少し経ってから、頭についていたてんとう虫を振り払った。
てんとう虫は僕の後ろにある黄色へ飛び込んでいった。

その後、少ししてから、手紙を出しにおばあちゃんがやって来た。
このおばあちゃんは、毎日誰かに手紙を出しに来る。
そして僕にも挨拶をする。
「ぽすちゃん、おはようさん」
おはよう、と言ったつもりが、にゃあ、と鳴いていた。
「ふふ、いい返事だねぇ。そういえば、これ。食べるかい?」
おばあちゃんは、小さなバッグから、煮干しがたくさん入った袋を取り出した。そして僕に、三匹ほど分けてくれた。
煮干しは頭のほうが苦い。それを知っているからあまり食べないけれど、今日はおばあちゃんがせっかくくれたので、残さずきれいに食べた。
おばあちゃんは、少し僕と話をしてから、家に帰っていった。