「追いかけられたのは確かに怖いけど、でもきっと猫ちゃんは、菜穂を怖がらせたくて追いかけたわけじゃないよ」
「そうなの…?」
僕もそう思う。多分、なほちゃんのことが気になって、つい追いかけちゃったんだと思うよ。
「あと、猫は嚙むときもあるけど、人は食べないよ」
「でもかむのはこわいよ」
「うん。でも、このぽすちゃんは嚙まないし、すっごく優しいから、大丈夫」
なほちゃんが、そっとこちらを見る。
そう、お母さんが言った通り、僕は嫌がることは絶対しないから。
「…やさしい?」
「うん。とーっても」
「おこらない?こわくない?」
「もちろん。ぽすちゃんは、菜穂が思ってるよりも優しいよ」
なほちゃんが、僕の近くへ来る。
触ってみる?僕はいつでも大丈夫だよ。怖いって思わせないように、なるべく動かないであげるからね。
「…さわってみる」
お母さんが微笑んで、そっとね、と、なほちゃんに手を添えて、僕の頭に触った。
ほらね?僕、怖くないでしょ?
まだ小さいなほちゃんの手が、僕の頭の毛に触れている。少しだけくすぐったい。
なほちゃんの手は、しっかりとあたたかかった。
「もふもふでふわふわ!」
なほちゃんがしばらく触った後、そう言ってくれた。とても嬉しい。もしかして、苦手を克服してくれたのかも。
それからなほちゃんは僕を何度も何度も撫でて、しまいには僕のことを可愛いと言ってくれた。
「よし、そろそろお散歩再開しよう」
お母さんがそう言って立ち上がる。
「もうちょっとさわりたいよー」
なほちゃんが、僕を撫でながらそう言った。初めはあんなに怖がっていたのに、もうこんなになついちゃって。
「うーん、でも菜穂は登校中に会えるから!今日は終わり」
「ええー」
なほちゃんは名残惜しそうに僕を見つめて、最後に僕の頭をぽんぽんとして歩いていった。
また登校のときに会えるのが楽しみになって、僕は見えなくなるまでずっと二人の後ろ姿を見つめていた。

「ぽすちゃんおはよう!」
なほちゃんと話してから初めての小学生軍団との対面。僕は、なほちゃんが群れの中に混じっているのをしっかり確認した。
さあ、僕に触れるかな?
小さな体で群れをかき分けて、なほちゃんは僕の前にしゃがんだ。
そして、まだ少しだけ怖さが混じったような手で、そっと僕の頭を撫でた。
「あれ?菜穂ちゃんって、ねこさわれるの?」
友達がなほちゃんにそう訊ねる。
しかし、なほちゃんは笑顔で、
「かわいいからさわれるようになった!」
と言ってくれた。