とある春の日の早朝。
僕が起きてすぐに、毎日やってくるおばあちゃんが、今日はやたらと早い時間にやってきた。
「ぽすちゃん、おはようさん」
「にゃあ」
おはよう、おばあちゃん。
おばあちゃんは、今日は手紙を出さずに、僕の隣に座った。
そして珍しく、はぁ、とため息をついた。
「どうしたもんかねぇ」
何かあったのかな?いつもは元気なおばあちゃんが、今日は遠い海を見つめて呆然としている。
「最近、手紙が返ってこないんだ。アキちゃん、どうしちゃったんだろうねぇ」
アキちゃん?誰かな、おばあちゃんの友達?
そうか、おばあちゃんは毎朝、アキちゃんという人に手紙を出しに来ていたのか。
「…病気とかじゃないといいんだけどねぇ」
おばあちゃんは八十歳くらいに見える。僕たちだって、八十歳にもなれば体のがたが来るし、病気をしてもおかしくはない。
アキちゃん、心配だね。
「アキちゃんはさ、あたしの同級生なんだ。二十年前くらいから、毎日短い手紙を送り合うのが習慣でさ」
アキちゃんっていう人は、同級生だったんだね。お互いに手紙を送り合うなんて、いい関係。
海の、塩のにおいがした。まろやかで、さらさらと体に流れ込んでくるような香り。
「あたしなんかは、スマホだかなんだかいう機械は使えないから、手紙でやりとりするしかないのよ。…それなのに、もう何日も返事がこない」
スマホって、みんなが僕によく向けてくる、あの板みたいな機械のこと?
おばあちゃんは、俯いて、手をこすり合わせた。まるで、アキちゃんが無事であることを願うように。
僕も、必死に願った日があった。
…あれ?その日のことが、思い出せない。
でも、少しずつ掘り出していくように、記憶の破片が露出してくる。
僕には飼い主がいた。
どんな人だった?
優しい人だった。菜の花みたいにあたたかな手で撫でてくれた。
飼い主は、どこへ行ったの?
あの海に溶けた。
もう戻ってこないの?
わからない。戻ってくると思っているから、僕はここで待っている。ずっと、永遠に。
「ぽすちゃん」
ぱちん、と、シャボン玉が弾けたような感覚がした。
おばあちゃんが、僕を呼んだんだ。僕、さっきまで何してたんだっけ。
「…ぽすちゃんにも、悩みがあるんだねぇ」
え、なんで?
おばあちゃんは、微笑んで、僕を包み込むように撫でる。
「あんたもあたしみたいに、ずうっと海の方見てたよ」
僕が起きてすぐに、毎日やってくるおばあちゃんが、今日はやたらと早い時間にやってきた。
「ぽすちゃん、おはようさん」
「にゃあ」
おはよう、おばあちゃん。
おばあちゃんは、今日は手紙を出さずに、僕の隣に座った。
そして珍しく、はぁ、とため息をついた。
「どうしたもんかねぇ」
何かあったのかな?いつもは元気なおばあちゃんが、今日は遠い海を見つめて呆然としている。
「最近、手紙が返ってこないんだ。アキちゃん、どうしちゃったんだろうねぇ」
アキちゃん?誰かな、おばあちゃんの友達?
そうか、おばあちゃんは毎朝、アキちゃんという人に手紙を出しに来ていたのか。
「…病気とかじゃないといいんだけどねぇ」
おばあちゃんは八十歳くらいに見える。僕たちだって、八十歳にもなれば体のがたが来るし、病気をしてもおかしくはない。
アキちゃん、心配だね。
「アキちゃんはさ、あたしの同級生なんだ。二十年前くらいから、毎日短い手紙を送り合うのが習慣でさ」
アキちゃんっていう人は、同級生だったんだね。お互いに手紙を送り合うなんて、いい関係。
海の、塩のにおいがした。まろやかで、さらさらと体に流れ込んでくるような香り。
「あたしなんかは、スマホだかなんだかいう機械は使えないから、手紙でやりとりするしかないのよ。…それなのに、もう何日も返事がこない」
スマホって、みんなが僕によく向けてくる、あの板みたいな機械のこと?
おばあちゃんは、俯いて、手をこすり合わせた。まるで、アキちゃんが無事であることを願うように。
僕も、必死に願った日があった。
…あれ?その日のことが、思い出せない。
でも、少しずつ掘り出していくように、記憶の破片が露出してくる。
僕には飼い主がいた。
どんな人だった?
優しい人だった。菜の花みたいにあたたかな手で撫でてくれた。
飼い主は、どこへ行ったの?
あの海に溶けた。
もう戻ってこないの?
わからない。戻ってくると思っているから、僕はここで待っている。ずっと、永遠に。
「ぽすちゃん」
ぱちん、と、シャボン玉が弾けたような感覚がした。
おばあちゃんが、僕を呼んだんだ。僕、さっきまで何してたんだっけ。
「…ぽすちゃんにも、悩みがあるんだねぇ」
え、なんで?
おばあちゃんは、微笑んで、僕を包み込むように撫でる。
「あんたもあたしみたいに、ずうっと海の方見てたよ」



