ちりんちりん、とドアベルがなった。レジ横で微睡んでいた小麦の耳がぴくりと揺れる。
「ほさきちゃん、こむぎー! こんにちはー!」
真っ直ぐ己の元へ駆け寄ってきた小さな客人を、ちらりと薄目で確認した小麦はまた前足に顔を埋めた。
「穂咲さん、こんにちは。先日はどうもありがとうございました」
遅れて店へ入ってきた早苗は、一目散に穂咲の元へ歩み寄った。
「早苗さん! お元気になられたんですね。良かったです。きっと碧くんのピザパンのおかげですね!」
へへん、と胸を張って鼻をふくらませた碧の頭を撫でながら早苗は穏やかな表情をうかべる。
「あのね、今日は明日のぱんかいにきたの!」
「そうなんです。明日のパンを買いに」
トレーと金色のトングを手に取った碧は、真っ先にピザパンに歩み寄る。レジで眠る小麦に「こむぎ、ぱんとって!」と声をかけるも、小麦は丸まったままだった。
「ほら碧」
碧の脇に手を入れて抱き上げた早苗。金のトングでピザパンをひとつ取った碧は満足気に頬をきゅっとあげる。
「ほさきちゃん! ママね、ピザパンたべるのへたくそなんだよ! ケチャップのおヒゲができるの!」
「ちょっと碧! 変なこと言わないでよ!」
あははっ、と笑った穂咲。私もヒゲできるよ、と答えると碧は嬉しそうに「同じだ!」と目を輝かせた。
ひとつのパンが親子を繋ぐ。思い出のピザパンは今日も変わらず誰かに響く優しい味だ。