ちりんちりんとどアベルが響いて、穂咲は「いらっしゃいませ!」と顔を上げた。しかしレジから見えた扉の前には客がたっている訳でもなく、ん?と首を捻る。レジから体を乗り出してみると、死角に小さなお客さんが立っていた。
「碧くん? いらっしゃい。ママはどうしたの?」
よく見ると靴は左右反対で、まだ肌寒い時期だというのに上着を着ていない。ヒーローのキャラクターのポシェットを肩からかけて、今にも泣き出しそうな顔で不安げに店の中をキョロキョロと見回していた。
「碧くん今日一人?」
穂咲の顔を見て安心したらしい、ふぇぇんと頼りなく泣き出した碧の背中を慌てて摩った。
「穂咲、これ飲ませてやれ」
厨房から顔を出した稔雄はオレンジジュースが入ったグラスを差し出す。碧をイートインスペースに座らせて、テーブルの上にオレンジジュースを置いた。
レジで眠っていた小麦が耳をヒクヒクさせたあと顔を上げた。小麦も碧の様子が気になるらしい。
半分ほど飲みきった後、碧を両手で涙を拭った。
「ママがおねつでて。あおくんママのためにぱんかいにきたの」
「ママお熱出ちゃったんだね。一人でここまで来たの? 凄いね碧くん!」
褒められたのが嬉しかったのか、ほのかに頬を赤らめて肩をすくめる。
「げんきになってほしいから、あおくんのおかねで、ぱんかうの」
「そっかそっか。碧くん格好いいポシェット持ってるね! ちょっとお姉さんに見せてくれる?」
いいよ!と苦労しながら紐を外した碧はポシェットを差し出す。チャックを開けた。中には五十円玉が一枚と一円玉が七枚、キャラ物のステッカーと車のオモチャが入っている。
ポシェットをひっくり返す。案の定丁寧な文字で「くらた あお」という名前と電話番号が書かれている。
「お父さん! 多分お母さんが心配してると思うから連絡してあげて。後で送り届けるから住所も聞いといて」
手帳にサッと番号を書き写し厨房の稔雄に渡す。こくりと頷いた稔雄は子機をもって二階の自宅へ戻って行った。
「じゃあ碧くん、ママのためにパン選ぼうか。お姉さんがお手伝いしようか?」
「ううん。あおくんひとりでできる」
ジュースを飲んで元気を取り戻したらしい。ぴょんと椅子から飛び降りた碧は一目散にトレーの元へ走り金色のトングを手に取った。
もう買うものは決まっていたらしい。目移りすることなく一目散に目当てのパンへ進んでいった碧は、立ちはだかる高い棚を見上げてへにょりと眉を下げた。必死に手を伸ばしトングをカチカチとならす。トングはかすることすらない。
手伝った方がいいだろうか、と少し体を乗り出したその時、丸まっていた小麦がゆったりと起き上がるの前後に大きな伸びをした。
軽やかにレジ台から飛び降りると真っ直ぐに碧のもとへ進んでいく。すとん、と棚に飛び乗った。
「あ、にゃんにゃん!」
棚の上から碧を見下ろした小麦。そして。つんつん、ぽとん。
器用に前足を使って、碧のトレーにパンを落とした。小麦が選んだのはピザパンだった。
「にゃんにゃんありがとー!」
偶然にも碧が取ろうとしていたパンと一致していたらしい。棚から飛び降りた小麦の頭を嬉しそうにぽふぽふと撫でた。
「これください」
トレーをレジの上に置いた碧は満面の笑みで穂咲を見上げる。
いいのだろうか?と穂咲は一瞬躊躇った。この前店に来た時にピザパンを選ぼうとした碧を、早苗は叱り付けていた。
レジに戻ってきた小麦が、丸い目で穂咲を見上げた。ゆっくり瞬きをしてにゃあんと答える。まるで「これでいいんだよ」と言っているよだった。
「碧くん? いらっしゃい。ママはどうしたの?」
よく見ると靴は左右反対で、まだ肌寒い時期だというのに上着を着ていない。ヒーローのキャラクターのポシェットを肩からかけて、今にも泣き出しそうな顔で不安げに店の中をキョロキョロと見回していた。
「碧くん今日一人?」
穂咲の顔を見て安心したらしい、ふぇぇんと頼りなく泣き出した碧の背中を慌てて摩った。
「穂咲、これ飲ませてやれ」
厨房から顔を出した稔雄はオレンジジュースが入ったグラスを差し出す。碧をイートインスペースに座らせて、テーブルの上にオレンジジュースを置いた。
レジで眠っていた小麦が耳をヒクヒクさせたあと顔を上げた。小麦も碧の様子が気になるらしい。
半分ほど飲みきった後、碧を両手で涙を拭った。
「ママがおねつでて。あおくんママのためにぱんかいにきたの」
「ママお熱出ちゃったんだね。一人でここまで来たの? 凄いね碧くん!」
褒められたのが嬉しかったのか、ほのかに頬を赤らめて肩をすくめる。
「げんきになってほしいから、あおくんのおかねで、ぱんかうの」
「そっかそっか。碧くん格好いいポシェット持ってるね! ちょっとお姉さんに見せてくれる?」
いいよ!と苦労しながら紐を外した碧はポシェットを差し出す。チャックを開けた。中には五十円玉が一枚と一円玉が七枚、キャラ物のステッカーと車のオモチャが入っている。
ポシェットをひっくり返す。案の定丁寧な文字で「くらた あお」という名前と電話番号が書かれている。
「お父さん! 多分お母さんが心配してると思うから連絡してあげて。後で送り届けるから住所も聞いといて」
手帳にサッと番号を書き写し厨房の稔雄に渡す。こくりと頷いた稔雄は子機をもって二階の自宅へ戻って行った。
「じゃあ碧くん、ママのためにパン選ぼうか。お姉さんがお手伝いしようか?」
「ううん。あおくんひとりでできる」
ジュースを飲んで元気を取り戻したらしい。ぴょんと椅子から飛び降りた碧は一目散にトレーの元へ走り金色のトングを手に取った。
もう買うものは決まっていたらしい。目移りすることなく一目散に目当てのパンへ進んでいった碧は、立ちはだかる高い棚を見上げてへにょりと眉を下げた。必死に手を伸ばしトングをカチカチとならす。トングはかすることすらない。
手伝った方がいいだろうか、と少し体を乗り出したその時、丸まっていた小麦がゆったりと起き上がるの前後に大きな伸びをした。
軽やかにレジ台から飛び降りると真っ直ぐに碧のもとへ進んでいく。すとん、と棚に飛び乗った。
「あ、にゃんにゃん!」
棚の上から碧を見下ろした小麦。そして。つんつん、ぽとん。
器用に前足を使って、碧のトレーにパンを落とした。小麦が選んだのはピザパンだった。
「にゃんにゃんありがとー!」
偶然にも碧が取ろうとしていたパンと一致していたらしい。棚から飛び降りた小麦の頭を嬉しそうにぽふぽふと撫でた。
「これください」
トレーをレジの上に置いた碧は満面の笑みで穂咲を見上げる。
いいのだろうか?と穂咲は一瞬躊躇った。この前店に来た時にピザパンを選ぼうとした碧を、早苗は叱り付けていた。
レジに戻ってきた小麦が、丸い目で穂咲を見上げた。ゆっくり瞬きをしてにゃあんと答える。まるで「これでいいんだよ」と言っているよだった。



