これはつぶやきで話題になった不思議な話だ。
#ヨルトモ、#夜の友達
夜の友達の話だ。
しらず駅学区の話でたまたまヒットした。
結構たくさんの読者がおり、どこまでが本当かはわからないが、しらず駅周辺では奇妙なことが起こることはありうる話だ。
母親が彼氏を連れてくると外に出ていろと言われたという少年の実話らしい。
当時、学校にも自宅にも居場所がない少年はただ、あてもなく夜の街をさまよっていた。とはいっても、繁華街ではなく近所の公園とかコンビニとかその程度だった。補導されなかったのは、ぎりぎり18歳以上に見えたからではないかと書いてあった。比較的治安は良く、あまり警察がパトロールしている町ではなかったらしい。ただ、星空を見て2時間か3時間くらいして帰宅して眠る。そんなことが当たり前になっていた。
ほとんど女子と話したこともない少年だったが、突如女子に夜の公園で話しかけられたらしい。彼女は同じ歳で、同じ境遇だったという。つまり、家族から少しの間外に出ていろと言われ、行く当てもないままさまよっていた仲間だった。普段、同じ悩みを共有できる同級生がいるわけでもなく、ましてやかわいらしい顔をした女子が同じ悩みを持っていることは少年にとってとても心強いことだった。そのうち、自宅近くの公園に行くと、彼女はいつもそこへやってきて一緒に星空を見たり、日々の出来事や愚痴を語り合う仲となっていた。
彼女の名前は秋桜《こすもす》というらしい。秋の桜でコスモスと読むのは彼女に聞いて初めて知った。たしかに、春の桜ではない秋に咲く桜色の花だから、秋の桜かと妙に納得していた。そんな他愛のない話をすることは今までになかったので、少年は彼女に会うのが楽しみになっていた。
髪の毛は長く、顔立ちは目は大きく全体的に整っていた。クラスにいるならば、きっと一番美しいと人気になりそうな顔をしていた。それなのに、彼女は高校に通っていないらしい。というのも、働かなければいけないと言っていた。家庭の事情はそれぞれだ。あまり聞かないほうがいいのかもしれないが、自分の辛さや置かれた状況をはじめて少年は素直に話をしていた。
母親は産むだけ産んで身勝手に子供を置き去りにする。ここまで育っただけで一応感謝しないといけないのかもしれないなんて半笑いだ。まぁそもそも産まれてこなければ、今はないのだからとりあえずよしとするか、そんな解釈をしていた。
秋桜はとても不思議な少女だった。雨の日も風の日も晴れた日も公園で待っていた。幸い公園には屋根のあるベンチが設置されており、そこで夜な夜な語り合うことが多くなった。母親に外に出ろと言われなくても勝手に外に出るようになっていた。一応高校には通ってはいたが、不登校気味になっていたので、卒業できるかどうかは不確かなものだった。しかし、卒業できるという確信は、彼女に出会ってから持てるようになった。校内で孤独でも、夜になれば孤独ではない。恋愛対象なのか、友達なのかもよくわからなかった。それくらい人間関係に疎いというのが本音だったのかもしれない。ただ、誰かと繋がっているという事実がどんな孤独にも勝っていたからだ。
彼女はどんな時も笑顔でどんな時も一日も休まずに来てくれた。自分を待っていてくれるのがとても嬉しかった。だから、あえて連絡先を聞くことはしなかった。相手の方からも聞いてこなかったというのもあり、自分から聞く勇気が未だ持てないというのが本音だった。彼女がどこに住んでいるのかということを一度聞いたところ、マンション名を教えてくれた。近隣にある古い賃貸マンションだった。彼女は父親の不倫が理由で離婚をして、母親には交際相手がいるようだったが、その人には家庭があるようだという複雑な事情を話してくれた。
「結婚なんてなければいいのに」
「たしかに、法律で縛られると、一人以外と関係を持ったらいけないという法律があるからね」
「相手が結婚しているから、お母さんは結婚できない。お父さんも結婚しているのに他の人と付き合ったからお母さんは怒って離婚した」
「たしかに、こればかりは法律と人間のどこまで許せるのかという許容の範疇なのかもしれないね」
星空の下、16歳の二人がただ話をしている割には重く、暗い話だったりする。決して、彼女から恋愛に発展するような仕草は見せない。多分、恋愛や結婚が嫌なものと認識してしまっているのだろう。少年自体も同じ考えだったから、同世代の人とは感覚は違うのは顕著だった。汚らわしいイメージを母親から与えられ、楽しいというより快楽を求めている印象だ。
「人間ってめんどくせー」
何気に言った一言に少女は意外な一言を放つ。
「人間やめちゃおうよ」
一瞬敏感に言葉の意味を探る。どういった意味だろうか。もしかしたら……最悪死のうとか? 自殺の誘いだろうかと一瞬手がこわばる。
動物になってしまおうとか、鬼になってしまおうとか? これはこれで、漫画の読みすぎかもしれない。
「人間の感情はメンドクサイよね。私、嫉妬とかいちいちどうでもいい感情に振り回される人間に疲れちゃった」
「まぁ、それはわかる。でも、自殺はだめだぞ」
真剣に目を見て話す。
「死ぬのは怖いから、自殺はしないけど、人間は辞めたよ」
「どういう意味?」
「私はこの世にはいないという扱いにしてもらったの」
「は?」
言葉はそれ以上でなかった。
「これ以上生きたくないけど死にたくないって思ったことない?」
「まぁ、あるな。俺の場合、環境が恵まれてるとは言えないし、他の家に生まれたらどんなに幸せだったかとか、生まれなければよかったとか。根暗だとおもっただろ。否定はしないぞ」
自分で突っ込んでみる。
「根暗だってことは知ってるよ。人間やめると楽だよ。ご飯食べなくて平気だし」
「それ、どういう意味? 君、どう見ても人間だよね」
「私は魂を売ったの」
「なにそれ?? 魂を売るとかまず無理な話じゃん」
「普通は無理だと思うかもしれないけれど、実は死んでいて、秋桜に魂を預けてるんだ」
「そんなこと、無理だよね」
再度否定する。
「無理じゃないよ。精霊は自然界の植物に宿るものなの。だから、この姿でいるけれど、この世にいないことになってるんだ。私は永遠にこの世にいるつもり。ある意味永遠に生きるに近いかな。戸籍上は死んでるけど」
からかっているのだろうと思う。ただ、瞳をみつめると相手の瞳は真剣だった。
「嘘? どこからどう見ても人間でしょ」
「でも、私、あなた以外には姿は基本見えないようにしてるんだよ。見せようと思えば相手に姿を見せることは可能だけどね」
「そういえば、ここでしゃべっている時、俺が一人でしゃべってるみたいに変な顔されたこと何度もあったな」
通行人がたまにいるのだが、たいてい結構大きな声で会話をしていたので、聞こえていたせいだろうか。ランナー風の人も、犬の散歩の人も不思議な顔をしてこちらを見ていたが、見てはいけないと思い返したように無視して去っていった記憶はあった。
「通行人の冷たい顔、あれ、君が独り言を言っている変な人だと思われてたからだと思うよ」
「俺、かなり痛い人じゃん」
「今更気づいた?」
彼女は笑う。人の恥を何だと思ってるんだろう。
「君を見た時に、これはやばい、昔の私に似てるって思っちゃったんだよね」
「たしかに、まぁ、精神的にヤバイ時も結構あったよ」
「なんかさぁ、昔の自分みたいで助けたくなっちゃったんだよね」
「自殺ってこと?」
「ちょっと違うかなぁ。魂売った、みたいな」
秋桜は足をぶらぶらさせながら夜空を見上げる。
少しばかり涼しい夜風が心地いい。
「今はもうこの世界に人間としてはいないことになっているけど、本当はここにいるの。そして、あなたみたいに必要だなって思う人がいたら寄り添いたいなって思ってね。それは、普通の人間にはできないことだから」
ありえない話だが、妙に納得してしまい、それ以上の反論はしなかった。自分の気持ちととてもよく似ていると感じていたからかもしれない。
「そっか。でもさ、俺は人間でいたいな。いつか――いいことあるんじゃねーかって思ったりするんだ。実は才能あるかもしれないし。夜に出歩くようになってさ。気持ちが変わったんだよ。普通は悪いことだって言われるけれど、夜風に当たると気持ちがリフレッシュして頑張ろうってなってさ。星空は昼の青空とは違った美しさがあって、暗い分、明るい時には見えてしまう自分の容姿も目立たない。髪型とか、服装とかもっとちゃんとしないとって昼の方が考えてしまうと外に出るのが億劫になるんだ」
「それはあるね。女子は特に気にするかも。化粧、かわいい服、流行の髪型とかじゃないと外に出るのはなんだか恥ずかしいって思うんだよ」
「俺、こんな風に女子と話したことってあんまりなかったから、新鮮だ」
「それならよかった」
「でも、秋桜って普通にモテたんじゃない? 外見はとても可愛いと思うよ」
「モテたのかなぁ。学校ってそんなに行ってたわけじゃなかったんだ。実は、お母さんの相手の男に何度も襲われそうになってさ。男はあんまり得意じゃないんだ。でも、精霊になってからは相手の心がある程度見えるから、怖くなくなった。それに、同世代の男子のほうが変なことしてくる人はいないなぁ」
普通の過去の辛い話をさらりとする美人な少女はどんな人間生活を送っていたのか少しばかり気になった。
「精霊になるということは永遠で辛いことはなくなるんだ。でも、人間でいる大変さも面白いね。もし、人間に戻れるのならば、あなたと過ごしていたかったって思う」
「俺はずっと一緒にいれたらいいけどな」
ちなみに、今も毎日彼女と過ごしている。もちろん誰にも見えないけれど。そして、少年は高校に通うことができるようになり、バイトをして自分の生きるためのお金を稼ぐことにした。当てにならない大人に頼るよりも目の前の現金が大切だと思ったからだ。仕事はコンビニで、少しずつ貯金しながらも、自分が食べるに困らなくなったのが一番の幸せだと思う。人生は幸せに楽しく生きるのが一番だ。
彼女の言動が本当なのか確かめるべく、彼女の実家に友達としてお邪魔して線香をあげた。彼女は本当に死んでいた。彼女の親は、あまり悲しそうではなかった。たしかに、彼女はこの世に存在していた。
この世にいない友達――これはとてもとても怖いようで、一番最強なのかもしれない。一番心を許せる消えることのない恋人のような存在。愛したモノがこの世に認められないモノでも、愛せる対象がいれば幸せなのだろう。なんだか、深い。ただ、生きるよりも幸せに生きるということはある意味難しい。
#ヨルトモ、#夜の友達
夜の友達の話だ。
しらず駅学区の話でたまたまヒットした。
結構たくさんの読者がおり、どこまでが本当かはわからないが、しらず駅周辺では奇妙なことが起こることはありうる話だ。
母親が彼氏を連れてくると外に出ていろと言われたという少年の実話らしい。
当時、学校にも自宅にも居場所がない少年はただ、あてもなく夜の街をさまよっていた。とはいっても、繁華街ではなく近所の公園とかコンビニとかその程度だった。補導されなかったのは、ぎりぎり18歳以上に見えたからではないかと書いてあった。比較的治安は良く、あまり警察がパトロールしている町ではなかったらしい。ただ、星空を見て2時間か3時間くらいして帰宅して眠る。そんなことが当たり前になっていた。
ほとんど女子と話したこともない少年だったが、突如女子に夜の公園で話しかけられたらしい。彼女は同じ歳で、同じ境遇だったという。つまり、家族から少しの間外に出ていろと言われ、行く当てもないままさまよっていた仲間だった。普段、同じ悩みを共有できる同級生がいるわけでもなく、ましてやかわいらしい顔をした女子が同じ悩みを持っていることは少年にとってとても心強いことだった。そのうち、自宅近くの公園に行くと、彼女はいつもそこへやってきて一緒に星空を見たり、日々の出来事や愚痴を語り合う仲となっていた。
彼女の名前は秋桜《こすもす》というらしい。秋の桜でコスモスと読むのは彼女に聞いて初めて知った。たしかに、春の桜ではない秋に咲く桜色の花だから、秋の桜かと妙に納得していた。そんな他愛のない話をすることは今までになかったので、少年は彼女に会うのが楽しみになっていた。
髪の毛は長く、顔立ちは目は大きく全体的に整っていた。クラスにいるならば、きっと一番美しいと人気になりそうな顔をしていた。それなのに、彼女は高校に通っていないらしい。というのも、働かなければいけないと言っていた。家庭の事情はそれぞれだ。あまり聞かないほうがいいのかもしれないが、自分の辛さや置かれた状況をはじめて少年は素直に話をしていた。
母親は産むだけ産んで身勝手に子供を置き去りにする。ここまで育っただけで一応感謝しないといけないのかもしれないなんて半笑いだ。まぁそもそも産まれてこなければ、今はないのだからとりあえずよしとするか、そんな解釈をしていた。
秋桜はとても不思議な少女だった。雨の日も風の日も晴れた日も公園で待っていた。幸い公園には屋根のあるベンチが設置されており、そこで夜な夜な語り合うことが多くなった。母親に外に出ろと言われなくても勝手に外に出るようになっていた。一応高校には通ってはいたが、不登校気味になっていたので、卒業できるかどうかは不確かなものだった。しかし、卒業できるという確信は、彼女に出会ってから持てるようになった。校内で孤独でも、夜になれば孤独ではない。恋愛対象なのか、友達なのかもよくわからなかった。それくらい人間関係に疎いというのが本音だったのかもしれない。ただ、誰かと繋がっているという事実がどんな孤独にも勝っていたからだ。
彼女はどんな時も笑顔でどんな時も一日も休まずに来てくれた。自分を待っていてくれるのがとても嬉しかった。だから、あえて連絡先を聞くことはしなかった。相手の方からも聞いてこなかったというのもあり、自分から聞く勇気が未だ持てないというのが本音だった。彼女がどこに住んでいるのかということを一度聞いたところ、マンション名を教えてくれた。近隣にある古い賃貸マンションだった。彼女は父親の不倫が理由で離婚をして、母親には交際相手がいるようだったが、その人には家庭があるようだという複雑な事情を話してくれた。
「結婚なんてなければいいのに」
「たしかに、法律で縛られると、一人以外と関係を持ったらいけないという法律があるからね」
「相手が結婚しているから、お母さんは結婚できない。お父さんも結婚しているのに他の人と付き合ったからお母さんは怒って離婚した」
「たしかに、こればかりは法律と人間のどこまで許せるのかという許容の範疇なのかもしれないね」
星空の下、16歳の二人がただ話をしている割には重く、暗い話だったりする。決して、彼女から恋愛に発展するような仕草は見せない。多分、恋愛や結婚が嫌なものと認識してしまっているのだろう。少年自体も同じ考えだったから、同世代の人とは感覚は違うのは顕著だった。汚らわしいイメージを母親から与えられ、楽しいというより快楽を求めている印象だ。
「人間ってめんどくせー」
何気に言った一言に少女は意外な一言を放つ。
「人間やめちゃおうよ」
一瞬敏感に言葉の意味を探る。どういった意味だろうか。もしかしたら……最悪死のうとか? 自殺の誘いだろうかと一瞬手がこわばる。
動物になってしまおうとか、鬼になってしまおうとか? これはこれで、漫画の読みすぎかもしれない。
「人間の感情はメンドクサイよね。私、嫉妬とかいちいちどうでもいい感情に振り回される人間に疲れちゃった」
「まぁ、それはわかる。でも、自殺はだめだぞ」
真剣に目を見て話す。
「死ぬのは怖いから、自殺はしないけど、人間は辞めたよ」
「どういう意味?」
「私はこの世にはいないという扱いにしてもらったの」
「は?」
言葉はそれ以上でなかった。
「これ以上生きたくないけど死にたくないって思ったことない?」
「まぁ、あるな。俺の場合、環境が恵まれてるとは言えないし、他の家に生まれたらどんなに幸せだったかとか、生まれなければよかったとか。根暗だとおもっただろ。否定はしないぞ」
自分で突っ込んでみる。
「根暗だってことは知ってるよ。人間やめると楽だよ。ご飯食べなくて平気だし」
「それ、どういう意味? 君、どう見ても人間だよね」
「私は魂を売ったの」
「なにそれ?? 魂を売るとかまず無理な話じゃん」
「普通は無理だと思うかもしれないけれど、実は死んでいて、秋桜に魂を預けてるんだ」
「そんなこと、無理だよね」
再度否定する。
「無理じゃないよ。精霊は自然界の植物に宿るものなの。だから、この姿でいるけれど、この世にいないことになってるんだ。私は永遠にこの世にいるつもり。ある意味永遠に生きるに近いかな。戸籍上は死んでるけど」
からかっているのだろうと思う。ただ、瞳をみつめると相手の瞳は真剣だった。
「嘘? どこからどう見ても人間でしょ」
「でも、私、あなた以外には姿は基本見えないようにしてるんだよ。見せようと思えば相手に姿を見せることは可能だけどね」
「そういえば、ここでしゃべっている時、俺が一人でしゃべってるみたいに変な顔されたこと何度もあったな」
通行人がたまにいるのだが、たいてい結構大きな声で会話をしていたので、聞こえていたせいだろうか。ランナー風の人も、犬の散歩の人も不思議な顔をしてこちらを見ていたが、見てはいけないと思い返したように無視して去っていった記憶はあった。
「通行人の冷たい顔、あれ、君が独り言を言っている変な人だと思われてたからだと思うよ」
「俺、かなり痛い人じゃん」
「今更気づいた?」
彼女は笑う。人の恥を何だと思ってるんだろう。
「君を見た時に、これはやばい、昔の私に似てるって思っちゃったんだよね」
「たしかに、まぁ、精神的にヤバイ時も結構あったよ」
「なんかさぁ、昔の自分みたいで助けたくなっちゃったんだよね」
「自殺ってこと?」
「ちょっと違うかなぁ。魂売った、みたいな」
秋桜は足をぶらぶらさせながら夜空を見上げる。
少しばかり涼しい夜風が心地いい。
「今はもうこの世界に人間としてはいないことになっているけど、本当はここにいるの。そして、あなたみたいに必要だなって思う人がいたら寄り添いたいなって思ってね。それは、普通の人間にはできないことだから」
ありえない話だが、妙に納得してしまい、それ以上の反論はしなかった。自分の気持ちととてもよく似ていると感じていたからかもしれない。
「そっか。でもさ、俺は人間でいたいな。いつか――いいことあるんじゃねーかって思ったりするんだ。実は才能あるかもしれないし。夜に出歩くようになってさ。気持ちが変わったんだよ。普通は悪いことだって言われるけれど、夜風に当たると気持ちがリフレッシュして頑張ろうってなってさ。星空は昼の青空とは違った美しさがあって、暗い分、明るい時には見えてしまう自分の容姿も目立たない。髪型とか、服装とかもっとちゃんとしないとって昼の方が考えてしまうと外に出るのが億劫になるんだ」
「それはあるね。女子は特に気にするかも。化粧、かわいい服、流行の髪型とかじゃないと外に出るのはなんだか恥ずかしいって思うんだよ」
「俺、こんな風に女子と話したことってあんまりなかったから、新鮮だ」
「それならよかった」
「でも、秋桜って普通にモテたんじゃない? 外見はとても可愛いと思うよ」
「モテたのかなぁ。学校ってそんなに行ってたわけじゃなかったんだ。実は、お母さんの相手の男に何度も襲われそうになってさ。男はあんまり得意じゃないんだ。でも、精霊になってからは相手の心がある程度見えるから、怖くなくなった。それに、同世代の男子のほうが変なことしてくる人はいないなぁ」
普通の過去の辛い話をさらりとする美人な少女はどんな人間生活を送っていたのか少しばかり気になった。
「精霊になるということは永遠で辛いことはなくなるんだ。でも、人間でいる大変さも面白いね。もし、人間に戻れるのならば、あなたと過ごしていたかったって思う」
「俺はずっと一緒にいれたらいいけどな」
ちなみに、今も毎日彼女と過ごしている。もちろん誰にも見えないけれど。そして、少年は高校に通うことができるようになり、バイトをして自分の生きるためのお金を稼ぐことにした。当てにならない大人に頼るよりも目の前の現金が大切だと思ったからだ。仕事はコンビニで、少しずつ貯金しながらも、自分が食べるに困らなくなったのが一番の幸せだと思う。人生は幸せに楽しく生きるのが一番だ。
彼女の言動が本当なのか確かめるべく、彼女の実家に友達としてお邪魔して線香をあげた。彼女は本当に死んでいた。彼女の親は、あまり悲しそうではなかった。たしかに、彼女はこの世に存在していた。
この世にいない友達――これはとてもとても怖いようで、一番最強なのかもしれない。一番心を許せる消えることのない恋人のような存在。愛したモノがこの世に認められないモノでも、愛せる対象がいれば幸せなのだろう。なんだか、深い。ただ、生きるよりも幸せに生きるということはある意味難しい。



