しらず駅周辺に出現するというバケルという少年についてネットを中心に調べていた。意外と情報が少なくバケルというのは本当の姿が不明が故、全く全容がつかめないというのが本当の所だった。普通にこちらの世界にいるという話も昭和の子供新聞には載っていた。主に昭和から平成初期に目撃情報や噂はあったようだが、平成後期から令和になってからはそのような情報はみつからなかった。少年の姿は仮なのかもしれない。本当は、人間の姿ではないのかもしれないし、ましてや動物でもなく液体のようなものが本質なのかもしれない。化ける故、真実は闇の中だ。

 話では普通の少年で、服装は黄色いTシャツだったと聞く。そして、紺色の半ズボンだったらしい。髪型は昭和風な坊ちゃん狩り。表情は無。一言で言うと不気味で怖い。バケルは化けることが得意らしいけれど、何にでも化けられるのかは検証不可能なので、把握は難しい。

 バケルについて調べているときに、バケルに遭遇した話という書き込みをしてくれた人がいた。書き込み名はKKさんだ。KKさんは子供の時に、バケルらしき子供と遊んだことがあったという。のちに、あれがバケルだったのかとネットで知ったらしい。ずっと記憶の奥にしまっていたバケルとの時間。小学校低学年くらいならば、そんなに親しくない人とでも何となく一緒に遊んでしまうということはよくある。気にすることもなかったのかもしれないが、何となく違和感があり、心にしまっていたらしい。

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 KKと申します。実は、小学2年生の頃にバケルらしき妖怪少年と遊んだ記憶があるんです。その子は小学校にはいない少年で、学区外の子供が近所にいることは珍しいことでした。それに、あまり笑わないし無口だったと記憶しています。田舎だったため、学校の生徒のほぼ全員の名前と顔は知っていたので、名も知らぬ少年が小さな町にいること自体珍しいことでした。それ故、鮮明に記憶に残っていました。

「君は誰? この町の子供じゃないよね。引っ越してきた転校生?」

「違うよ」

「じゃあ、遊びに来たの?」

「そうだよ」

「親戚の家? この辺りの家はだいたいわかるから、誰の家?」

「秘密」

「名前は?」

「秘密」

「秘密が多いな。それじゃあ名前も呼べないな」

「じゃあバケルって呼んでよ」

「変わった名前だな」

「あだ名だよ」

 そう言うと黙々と砂遊びを始める。声も容姿も子供そのものだった。

「この町の町長さんの家はあそこだよね」
 バケルが言う。

「そうだよ。用事があるのかい?」

「別に」

 そのまま地べたを見つめていた。その時代にはよくいる雰囲気の服装で、特に目立つわけではないのだけれど、独特な何かを感じた。

 その後、バケルを名乗る少年を度々見かけるようになった。
 決まって近所の砂場だった。町長の家がよく見える場所で、まるで監視をしているかのようにも思えたが、子供だったので、それ以上なにも考えずに遊んでいた。

 その後、町長が悪いことをして、逮捕されたというニュースが流れた。そして、その後、町長よりも20歳年下の美人な奥さんが再婚したらしいという噂も流れていた。誰と再婚したのかはわからなかったが、一度元町長の奥さんを見かけたことがあった。この町では珍しい垢抜けた美人で若い女性だったのでとても目立っていた。目鼻立ちは整っており、スタイルは抜群だ。幼いながらも、美人ということは理解できていた。

 そこにいたのは、銀髪の美しい男性だったというのだった。でも、ひとつ気になったのは、バケルという少年がつけていた大きな目立つ銀色のイヤリングのようなものだった。銀髪の美青年とバケルは全く同じイヤリングをしていたのだった。当時、男性がイヤリングをすること自体珍しい時代だったので、とても鮮明に記憶に残っていた。男の子供がイヤリングをするなんて、昭和時代には考えられない。今でも、滅多に見かけない。

 もしかしたら、バケルは化けるだったのかもしれないと、ふと、思う。子供にも大人にも不細工にも美男子にも化けることができる。女性でも男性でもそれは化けることができるのだろう。それが、何者なのかは今でも説明することはできない。

 こんな投稿をしたのは、最近社長が解任されたという事件があったからだ。バケルに似た少年を一度見かけた。その後、社長は不祥事が判明して解任された。つまり、座敷童の逆バージョンなのかもしれない。

 人に不幸をもたらすのがバケルではないだろうか。
 彼を敵に回すときっと災難が降りかかる。まるで小雨が降るように、その災難からは、掻い潜ることができない。そして、社長の娘が銀色のピアスをつけた男と歩いている様子を目撃したの男もあの時を思い出すきっかけになった。度々娘さんのことは紹介されており、社員は認知していた。美しい女性なので、憧れの的でもあった。その後、美しい娘が男性とうまくいかなくなり、自殺をしたという噂を耳にした。ニュースでもちらりと見たほどの些細な事実だった。所詮は他人事だ。そして、町長の妻がその後行方不明になったという噂を思い出した。明日は我が身かもしれない。