ルークとビショップの実況

おまけ
白の豪邸実況中継、白眼班の規則監視ショー!

白亜の豪邸の最深部、地下二階に隠された監視室。そこは、主であるオジェたちの世界とは完全に隔絶された空間だった。壁は特殊素材で遮蔽され、いかなる音も光も漏れはしない。まるで、世界の裏側に取り残されたかのような静寂が支配している。

その静寂を破るのは、特務情報部「白眼班」に所属する三人の男の声だけだった。冷静冷淡にして狡猾残酷な班長アルジーヌ、冷酷無慈悲な分析官ユディット、そして冷酷非情な実行役ラハイア=シャルル。彼らは巨大なモニター群を囲み、銀警察の基本規則五カ条を対象者に遵守させるための「密告実況」という奇妙な任務に就いていた。

「出たわ〝ヒトパピローマウイルス〟2体が、どれほど規則から逸脱するか、この目で見定めてやろう」

班長アルジーヌが、白銀に輝く太刀「アラゴン」の刀身を丹念に磨きながら、唇の端を歪めた。彼の言う〝ヒトパピローマウイルス〟とは、監視対象であるオジェとレイモンドを指す侮蔑的なコードネームである。

「解析データによれば、違反確率は九九パーセント。対象〝キモイ=ワ=シンデ〟(オジェ)および〝キショモン〟(レイモンド)の行動パターンは、常に我々の予測の範疇である」

ユディットが、モニターに映し出される無数のデータを睨みつけながら、感情の欠落した声で報告する。

「くそが、あの二人がハンベルに近づくだけで反吐が出る! 条項五を適用して、即刻抹殺すべき対象だ!」

ラハイアが大剣「エティエンヌ」の柄を握りしめ、忌々しげに吐き捨てた。その全身からは、対象への強烈な嫌悪感がオーラのように立ち昇っている。こうして、三者三様の歪んだ正義感を燃料に、コミカルで残酷な規則監視の実況が幕を開けた。

モニターに、朝の柔らかな光が差し込む庭が映し出される。ヒトパピローマウイルス派生2〟(レイモンド)が、少年ハンベルのために朝食を運び、そして間髪入れずにランニングを強制していた。ぜえぜえと息を切らし、必死に食らいつくハンベルに対し、レイモンドは「もっと速く!」と冷徹な声を浴びせかける。

アルジーヌ「ほう。条項二『弱さは排除すべし』に則った、合理的な訓練だ。ハンベルを鍛え上げるのは、我々の義務でもある。だが……見逃さんぞ。今、一瞬だけ〝ヒトパピローマウイルス派生2〟の目に優しさが宿った。これは条項四『恋愛およびそれに類する感情的接触の禁止』に抵触するのではないか? まさしく〝呪詛(ホモゲイ)〟の蔓延だ」

ユディット「解析結果。内部統制アルゴリズムにおいて、レイモンドの冷徹さに〇・一パーセントの揺らぎを検知。〝キショモン〟らしい、実に気色の悪い行動である。加えて、条項一『所有物は生物にあらず。生物を所有物として扱った場合は罰則対象とする』にも抵触の疑い。ハンベルを『正式名称』と呼称し、所有物として認識している可能性大。これは死刑に値すると!」

ラハイア「ああ!? なぜあんな気色の悪い奴がハンベルに触れている! 条項五『銀警察に逆らう者は敵と見なす』を拡大解釈して、このエティエンヌで両断してやりたい! 生理的に無理だ、吐き気がするわぁ!!!!」

その時、ハンベルがバランスを崩して転倒し、思わずレイモンドの胸に抱きつく形となった。モニターの中で、レイモンドの時間が凍りつく。

アルジーヌ「おおっと、これは決定的瞬間だ。密告制度の設計者として言わせてもらえば、問答無用の即死刑! 条項四に真正面から違反している。相手が女(呪詛の蔓延の大元凶)でないからといって、許されるものではない。このアラゴンで、その胸の内を抉り出してやりたいものだわい!」

ユディット「あぁ…ぃゃぁ……! ご覧ください、〝キショモン〟の顔が赤い。違反動向解析、一〇〇パーセントに到達!」
(キモアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアry)

ラハイア「無理無理無理! あの派生ウイルスがハンベルに……! 抹殺確定だ!(大剣を振り回し、監視室が激しく揺れる)」
(あ…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああry)

三人は腹を抱えて大笑いした。規則の条文を大げさに叫びながら、対象者たちの滑稽な姿に容赦ないツッコミを入れていく。

午後の監視モニターには、八島と名乗る男がハンベルに豪奢なフリル付きの衣服をあてがっている様子が映っていた。彼は変形型装備を巧みに操り、リボンを小さな花火に変えてはハンベルを喜ばせている。
「お腹すいた? ハンベリーのデザートを作ろうか!」と、その世話焼きは留まるところを知らない。だがその合間に、ふと寂しがり屋の本音が漏れ聞こえた。

アルジーヌ「狡猾に分析するならば、八島の行動は条項三『選択権は上層部にのみ帰属する』への明確な違反だ。衣服の選定という重要事項を、上層部の許可なく独断で行っている。しかも、過剰なフリルは条項四が禁じる〝呪詛(ホモゲイ)〟の気配を色濃く感じさせる。直ちに死刑を執行すべきか?」

ユディット「分析。内部監視システムが、八島の孤独感を弱さとして検出。条項二に基づき、訓練一〇〇回の対象です。もっとも、その派手な立ち居振る舞いは、〝キモイ=ワ=シンデ〟(オジェ)よりはマシかもしれないが……いや、待て。八島にもまた、生物所有の疑いがある。条項一により、死刑が妥当である!」

ラハイア「八島はまだマシだと? アレ(オジェ)とソレ(レイモンド)がいないだけマシというだけだろ! それに、あのフリル……見ているだけで生理的な苛立ちを覚える! 条項五を適用し、敵性存在として…このエティエンヌで一刀両断にしてくれる!」
(女々しいの無理だああああああああああああああああああああああああああああああああああry)

八島がハンベルと共にスイーツを頬張り「僕、寂しかったんだよね」と呟いた瞬間、三人は一斉に噴き出した。

アルジーヌ「これは尋問の絶好の機会だ! その聖痕のような孤独感を徹底的に暴き出し、死刑コンボを叩き込んでやる。このアンジュ(短剣)で、その心を抉ってやりたいぜ★」

ユディット「解析エラー! 寂しがり屋という感情が、条項四の禁じる恋愛感情に発展する可能性を検知! これは〝キショイ〟の大爆発で死刑確定案件である!」

ラハイア「無理だ! 寂しいなどと抜かしている場合か! 僕の嫌いな奴らがいないだけマシだけど、全体的に生理的な危険水域だ!(剣を床に叩きつけ、モニターが再び揺れる)」

狂気に満ちた監視室は、規則の過剰適用と大騒ぎで、笑いの渦に包まれていた。

夕刻。今度はヒトパピローマウイルス(オジェ)がハンベルを伴って庭を巡回し、護身術の手ほどきをしていた。彼はチェーンソーと大斧を組み合わせた異形の武器「べフロール」を軽々と振るい、その風圧だけで周囲の木々を震わせる。ハンベルが足をもたつかせ転びそうになると、オジェは素早くその体を支えた。その瞬間、彼の冷徹な仮面が一瞬だけ揺らいだように見えた。

アルジーヌ「冷静に判断すれば、〝ヒトパピローマウイルス〟のセキュリティ意識は条項五『銀警察に逆らう者は敵』の精神に沿っている。だが、ハンベルを支えたあの姿は、条項四への明確な違反行為だ。〝呪詛〟の蔓延は、こうして静かに進行していく。このアラゴンで、即刻尋問を開始せねば!」

ユディット「動向解析。キモイ=ワ=シンデの怜悧さに〇・五パーセントの崩壊を検知。〝キモイ=ワ=シンデ〟らしい、実に気色の悪い優しさ出て、見てるこちら側が損する! 加えて、条項三『選択権は上層部にのみ帰属する』にも違反。ハンベルに護身術という選択肢を与えている。死刑以外ありえない」
(まず、護身術教える奴がミスかましてるので、僕のチームかアレキサンダーに言おうね★)

ラハイア「うわあああ! 〝ヒトパピローマウイルス〟が出てきただけで生理的に無理だ! あの氷のような顔でハンベルに触れるなど、条項一から五、その全てに違反している! エティエンヌで抹殺確定だ! 無理無理無理!(剣をブンブンと振り回し、部屋中を荒らし始める)」
(この世から消えちまああああああああああああああああああああああああああああああああああry)

ハンベルがオジェに向かって「ありがとう!」と屈託のない笑顔を向けた。その時、オジェの口元が、ほんのわずかに緩んだのを、監視者たちは見逃さなかった。三人の哄笑が、監視室に響き渡る。そう、オジェの口元が、ほんのわずかに緩んだところを。

アルジーヌ「残酷なまでに笑えるわな。ここは密告の宝庫だ。規則違反のオンパレードで、全員死刑も夢ではない!」

ユディット「〝キモイ〟大賞、決定です! 解析上、全条項違反をコンプリートしました!」
(イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!! ……もう、教官は絶滅した)

ラハイア「生理的に限界だぁ!!!! 僕が実行班として、今すぐ暗殺に向かってやる!(ドアに向かって突進しかける)」

夕食の風景がモニターに映し出される。無言を貫くレイモンド、賑やかに喋り続ける八島、そして冷静に食事を進めるオジェ。その中心で、ハンベルが楽しそうに笑っていた。

アルジーヌ「総括しよう。本日の監視対象は、規則違反のオンパレードのみだった。僕の設計した完璧な密告制度を使い、上層部に報告する。失望以外何も残って無かった……無念以上」

ユディット「解析完了。対象者全員の死刑執行率、二〇〇パーセント。実に気色の悪い連中には、気色の悪い末路が、お似合い以上っすね★」

ラハイア「もう無理だ! あの二人が同じ画面に映っているだけで吐き気がする! 条項五に基づき、この場にいる全員を敵と認定する! このエティエンヌで、この豪邸ごと斬り伏せてくれる!」

ラハイアの絶叫を合図に、白眼班の狂乱の夜は、まだ始まったばかりだった。

突然、モニターにオジェの顔がアップ。
「……監視されてる気配がするな」
だが、場所は絶対見えない。
アルジーヌはモドリ玉で秒速撤退
ユディットは開いた口が塞がらないまま硬直。
ラハイアは涙を流し嘔吐しながら「いやあああああああああああああああああああああああ(以下略)」
見えない場所で、2人は気絶をした。