鏡の豪邸
午前十時。
ツァーカムは淡い銀色のワンピースを翻しながら歩いていた。ハイヒールの踵が鏡の床を叩くたび、澄んだ音が室内に響く。短く整えられた白髪は銀のリボンで留められ、白銀の瞳は、鏡に映る自分の姿を慈しむように細められていた。腰には鞭と鎖が静かに揺れている。今日は休息の日。だが彼にとって休みとは、美を愛でるための儀式でしかない。
「パライタ。僕の鏡だ」
(鏡と肩を並べるくらい綺麗だね)
鏡の奥から、少年が這うように姿を現す。
青緑色の髪は艶やかに梳かれ、海の色を宿した瞳は怯えと陶酔に濡れていた。首輪は外され、その代わりに銀の茨のチョーカーが喉元を飾る。
ツァーカムは少年の顎を指で掬い、鏡の前に立たせる。
「見て。君は美しいね」
(自分自身だと、限界が来てしまうから、結局は触れられる相手を欲しがる)
鏡に並ぶ二人の姿。彫像めいた男と、細い少年。
ツァーカムは背後から腕を回し、少年の肩に唇を寄せた。
「今日も、私のものだ」
(ぬいぐるみじゃあ、つまんない。生きていて、動いて、話せる人がいい)
少年はかすかに頷く。
男は鞭を手に取り、その背をそっと撫でた。
「痛みは快楽だから、覚えておいて」
(みんなこぞって時代遅れな治し方とほざく。たまに、古代の背筋矯正方法と言いやがる輩がいる)
鞭の先が白い肌をなぞり、細い赤の軌跡を描く。やがてそれは薄紫に変わり、パライタの肩が小さく震えた。
「美しいから、もっと震えて」
(動物は決してやらない。これだけは木の下で眠るまで守れる約束)
男は少年を鏡の前に跪かせ、鎖を首輪に通した。
「今日は、僕がすべてを愛でてあげる」
(薔薇の鎖。本当はすぐ取れるよ。みんなこぞって変な遊びってほざく。変な遊びやってもいいじゃない。だって、大人なんだから。遊びを開発したって何したって自由だよ。この思考の元は、昔、学校の図書館で暇見してた奴から。後は、ここまで来るまでの経験と知識だね。創造神じみたあの幻の金血は無理。トンデモなく汚いし汚染水と全く同じだから死ぬまで触れないね)
浴室へ。
鏡張りの空間に、薔薇の香りが満ちる。ツァーカムは蛇口をひねり、湯を張った。
「脱ごう」
少年は震える手で衣を解く。
男はワンピースの背を開け、素肌を抱き寄せた。
「僕の手で洗ってあげる」
湯船に身を沈める。ツァーカムは少年の背後から腕を回し、石鹸を泡立てる。
「首筋、美しい」
優雅な指が肌を滑り、泡が流れ落ちる。濡れた青緑の髪が光をはね返す。
「髪も完璧に」
男は丁寧に髪を洗い、指で梳きながら微笑む。
「君は、僕の最高傑作だ」
(寝る前にオールインワンジェルで最高傑作な肌を維持する)
浴室を出ると、ツァーカムは銀のタオルで少年の身体を拭き、静かに命じる。
「着替えようね」
クローゼットから取り出したのは、淡紫のシルクのシャツと白のショートパンツ。
彼は少年にそれを着せ、リボンを結ぶ。
「完璧だ」
(僕の中の服の性別的固定概念は皆無。男も女もワンピースを着るのだ。文句言う奴は、だいたいドブス以下だからさ。後、大人だから、好き勝手やらせてね)
再び鏡の間へ戻り、少年を円形のベッドに座らせる。
ツァーカムはその正面に腰を下ろし、膝に少年の足を乗せた。
「足も美しい」
(保湿クリーム、或いはジェルでもいい。必ず塗って寝ること。そうすれば最高傑作が維持出来る)
指先が足首を撫で、少年の身体が小さく揺れる。
ツァーカムは微笑み、鞭で太腿を軽く打った。
「痛みは快楽だから感じて」
(いつも見られてる気でいて。太く肉団子まみれで汚らしくみっともないと、見てる人の目が穢れるから。毎日、美しくいないとダメ)
静寂の午後。
鏡には二人の姿が反射する。少年の震える息と、男の艶やかな笑い声だけが響いた。
「……君は、僕のもの」
ツァーカムは少年を抱き寄せ、唇を重ねる。
「永遠に、美しく」
(挨拶とスキンシップは大事)
白銀の瞳が、海色の瞳を見つめる。少年は小さく頷き、男の胸に身体を預けた。
ツァーカムは鞭を置き、少年の髪を指で弄ぶ。
「眠って。僕の鏡」
白い髪と青緑の髪が絡まり合う。
鏡の間、二人の影は優雅に重なり、永遠の快楽へと溶けていった。
午前十時。
ツァーカムは淡い銀色のワンピースを翻しながら歩いていた。ハイヒールの踵が鏡の床を叩くたび、澄んだ音が室内に響く。短く整えられた白髪は銀のリボンで留められ、白銀の瞳は、鏡に映る自分の姿を慈しむように細められていた。腰には鞭と鎖が静かに揺れている。今日は休息の日。だが彼にとって休みとは、美を愛でるための儀式でしかない。
「パライタ。僕の鏡だ」
(鏡と肩を並べるくらい綺麗だね)
鏡の奥から、少年が這うように姿を現す。
青緑色の髪は艶やかに梳かれ、海の色を宿した瞳は怯えと陶酔に濡れていた。首輪は外され、その代わりに銀の茨のチョーカーが喉元を飾る。
ツァーカムは少年の顎を指で掬い、鏡の前に立たせる。
「見て。君は美しいね」
(自分自身だと、限界が来てしまうから、結局は触れられる相手を欲しがる)
鏡に並ぶ二人の姿。彫像めいた男と、細い少年。
ツァーカムは背後から腕を回し、少年の肩に唇を寄せた。
「今日も、私のものだ」
(ぬいぐるみじゃあ、つまんない。生きていて、動いて、話せる人がいい)
少年はかすかに頷く。
男は鞭を手に取り、その背をそっと撫でた。
「痛みは快楽だから、覚えておいて」
(みんなこぞって時代遅れな治し方とほざく。たまに、古代の背筋矯正方法と言いやがる輩がいる)
鞭の先が白い肌をなぞり、細い赤の軌跡を描く。やがてそれは薄紫に変わり、パライタの肩が小さく震えた。
「美しいから、もっと震えて」
(動物は決してやらない。これだけは木の下で眠るまで守れる約束)
男は少年を鏡の前に跪かせ、鎖を首輪に通した。
「今日は、僕がすべてを愛でてあげる」
(薔薇の鎖。本当はすぐ取れるよ。みんなこぞって変な遊びってほざく。変な遊びやってもいいじゃない。だって、大人なんだから。遊びを開発したって何したって自由だよ。この思考の元は、昔、学校の図書館で暇見してた奴から。後は、ここまで来るまでの経験と知識だね。創造神じみたあの幻の金血は無理。トンデモなく汚いし汚染水と全く同じだから死ぬまで触れないね)
浴室へ。
鏡張りの空間に、薔薇の香りが満ちる。ツァーカムは蛇口をひねり、湯を張った。
「脱ごう」
少年は震える手で衣を解く。
男はワンピースの背を開け、素肌を抱き寄せた。
「僕の手で洗ってあげる」
湯船に身を沈める。ツァーカムは少年の背後から腕を回し、石鹸を泡立てる。
「首筋、美しい」
優雅な指が肌を滑り、泡が流れ落ちる。濡れた青緑の髪が光をはね返す。
「髪も完璧に」
男は丁寧に髪を洗い、指で梳きながら微笑む。
「君は、僕の最高傑作だ」
(寝る前にオールインワンジェルで最高傑作な肌を維持する)
浴室を出ると、ツァーカムは銀のタオルで少年の身体を拭き、静かに命じる。
「着替えようね」
クローゼットから取り出したのは、淡紫のシルクのシャツと白のショートパンツ。
彼は少年にそれを着せ、リボンを結ぶ。
「完璧だ」
(僕の中の服の性別的固定概念は皆無。男も女もワンピースを着るのだ。文句言う奴は、だいたいドブス以下だからさ。後、大人だから、好き勝手やらせてね)
再び鏡の間へ戻り、少年を円形のベッドに座らせる。
ツァーカムはその正面に腰を下ろし、膝に少年の足を乗せた。
「足も美しい」
(保湿クリーム、或いはジェルでもいい。必ず塗って寝ること。そうすれば最高傑作が維持出来る)
指先が足首を撫で、少年の身体が小さく揺れる。
ツァーカムは微笑み、鞭で太腿を軽く打った。
「痛みは快楽だから感じて」
(いつも見られてる気でいて。太く肉団子まみれで汚らしくみっともないと、見てる人の目が穢れるから。毎日、美しくいないとダメ)
静寂の午後。
鏡には二人の姿が反射する。少年の震える息と、男の艶やかな笑い声だけが響いた。
「……君は、僕のもの」
ツァーカムは少年を抱き寄せ、唇を重ねる。
「永遠に、美しく」
(挨拶とスキンシップは大事)
白銀の瞳が、海色の瞳を見つめる。少年は小さく頷き、男の胸に身体を預けた。
ツァーカムは鞭を置き、少年の髪を指で弄ぶ。
「眠って。僕の鏡」
白い髪と青緑の髪が絡まり合う。
鏡の間、二人の影は優雅に重なり、永遠の快楽へと溶けていった。



