白銀荘内にある銀警察署内にある訓練棟、格技室には、朝の冷気が鉄と血の匂いを孕んでいた。
レイモンド=クワントリルは黒いジャージに身を包み、白髪を短く刈り上げている。白色の瞳は氷の刃のように鋭く、机の上には銀警察の徽章と拳銃が置かれていた。
今日は休みだ。しかし、彼にとって「休み」とは「個別指導」の時間でしかない。

「パライタ。整列」

格技室の扉が軋み、少年は震えながら入ってきた。
青緑の髪は寝癖で跳ね、海色の瞳は怯えに濁っている。首輪の鎖は外されていたが、首筋には赤い痕が残っていた。

レイモンドは少年の前に立ち、無言で腕を組む。

「遅い。……罰だ」

男の手が少年の肩を掴み、床に押し倒す。
「腕立て五十回だ」

パライタは震える腕で体を起こし、ゆっくりと動き始める。
一回、二回──十回目で肘が折れ、音を立てた。
レイモンドは無表情のまま、ブーツで少年の背を踏み、強制的に腕を伸ばさせる。

「弱い。……銀警察の所有物が、これでは恥だ」

容赦はなかった。腹筋、スクワット、シャドーボクシング。
倒れるたび、レイモンドは無言で引き起こす。汗が床に滴り、少年の息が荒くなる。

「休憩」

男は少年を抱え上げ、ベンチに座らせた。
水筒を口元に押し当て、水を流し込む。
「飲む。こぼすな」

咳き込みながらも、少年は飲み干した。
レイモンドは乱暴にタオルを取り、顔の汗を拭う。

「汗臭い。……風呂だ」

浴室へ連れて行き、無言でシャワーを浴びせる。
「自分で洗う」

少年は震える手で体をこすった。
レイモンドは壁にもたれ、腕を組んだまま見ている。

「背中」

少年は首をすくめ、背を向ける。
レイモンドは石鹸を取り、荒々しく背中を洗った。
指の動きは容赦なかったが、傷だけはつけない。

「首」

指が首筋を掴む。
パライタは息を詰め、肩を小さく震わせた。
「震えるな。……弱い」

浴室を出ると、男はタオルで少年の体を拭き、
「着替えな」と告げた。
クローゼットから銀警察の訓練着を取り出し、少年に着せてベルトを締める。

「今日はそれでいい」

食堂に移り、テーブルに向かい合わせに座る。
レイモンドはプロテインと卵を皿に盛って差し出した。
「食べる。……全部」

少年は震える手でフォークを握り、少しずつ食べた。
レイモンドは腕を組み、静かに見つめている。

「遅い。……早く」

食事が終わると、男は立ち上がった。
「今日はここまでだ。……寝な」

少年を寝室まで連れて行き、ベッドへ放り投げる。
パライタは小さく息を詰め、シーツに身を沈めた。

レイモンドはベッドの端に腰を下ろし、少年の髪を無造作に撫でた。
「明日も鍛える。……僕の所有物だ」

白い瞳が、海色の瞳を捉える。
少年は小さく頷き、目を閉じた。

男は立ち上がり、再び傍らに座り直した。
腕を回すことなく、ただ見下ろす。
「ホモでも女でも恋愛でもない。……ただの所有物だ」

静かな午後。
格技室の鉄の匂いと、少年の浅い寝息だけが響いていた。
白い髪が青緑の髪に触れることはない。
白銀荘の静寂の中、二人の影は冷たく並行していた。