白城・医療棟 記録室。調査員第5陣の浄化作業。
氷川丸は、白い医療コートの裾を翻して、記録室の扉を開けた。室内は無機質な白。中央のテーブルに、シムズミは座っていた。白い髪は濡れて額に張りつき、灰色の瞳は一点を見つめたまま。制服は汚れ、左腕に薄い血痕。だが、背筋は折れていない。
「シムズミくん、報告お願い★」
氷川丸の声は、温かい湯のように少年を包んだ。 シムズミは、ゆっくりと口を開く。
「……潜入先、施設『深層』。対象は、八名。ナアマ、ガシェルト、ソガル、アアタドン、トガール、ゴールハボル、ガシャバ、サアリル。全員、白髪、白瞳、強靭な体格。役割は、別紙参照」
声は掠れ、途切れがち。氷川丸は、タブレットに指を走らせる。文字が、音もなく並ぶ。
「被害は?」
「……なし。だが、記憶汚染率 12.4%。精神安定値 78%。不動心、維持」
氷川丸は頷き、最後のデータを入力。
【調査コード:SIM-07-RETURN】
【状態:要クリーニングケア】
「お疲れさん、次は志賀くんの所へ行ってね」
クリーニングケア室。
志賀は、穏やかな笑みを浮かべて待っていた。白い髪を後ろに流し、白色の瞳は優しい。シムズミを椅子に座らせ、ゆっくりと制服を脱がせる。
「痛むところは?」
「……左腕」
志賀は、血痕を拭い、消毒。次に、頭部に小型のヘッドセットを装着。淡い青い光が、少年の脳を這う。
「記憶の汚れを、洗い流すよ」
光が強まる。シムズミの灰色の瞳が、わずかに揺れた。ナアマの声、ガシェルトの夢、ソガルの毒……すべてが、淡い霧となって消えていく。
「終了。次は恵山くんだ」
回復治療睡眠カプセル室。
カプセルは、半透明の卵型。内部は、ブルーハワイのかき氷のような淡い青。恵山は、にこやかに手を振った。
「シムズミくん、おかえり! 今日は特製のブルーハワイ味だよ」
(朝日レベルな相手は、ほぼ全員だわ★ 相変わらずすっごいね……派遣調査員な★)
シムズミは、無言でカプセルに横たわる。 蓋が閉まる。 液体が、ゆっくりと満ちる。
【回復治療開始】
【推定睡眠時間:6時間】
少年の瞼が、完全に閉じた。夢は、見ない。ただ、深い、深い静寂。
白城・帰還棟 玄関ホール。
カプセルの蓋が開く。シムズミは、ゆっくりと起き上がる。白い髪は乾き、灰色の瞳は澄んでいる。 制服は新品。体は、完全に回復。扉が開く。白雲が、立っていた。白い髪、白い瞳。屈強な体躯に、上級保安官の徽章。
「シムズミくん」
声は、低く、温かい。少年は、一歩踏み出す。白雲は、両腕を広げた。
「おかえり」
シムズミは、ゆっくりと歩み寄る。白雲の胸に、額を預ける。白い髪と白い髪が、重なる。
「次は、どこへ行くんだい?」
「……まだ、決まっていない」
白雲は、少年の背中を撫でた。優しく、強く。
「なら、今日は休んで。僕がいるから」
二人は、並んで歩き出す。白城の長い廊下を。少年の足音は、小さく。だが、確かに、前に向かっていた。
氷川丸は、白い医療コートの裾を翻して、記録室の扉を開けた。室内は無機質な白。中央のテーブルに、シムズミは座っていた。白い髪は濡れて額に張りつき、灰色の瞳は一点を見つめたまま。制服は汚れ、左腕に薄い血痕。だが、背筋は折れていない。
「シムズミくん、報告お願い★」
氷川丸の声は、温かい湯のように少年を包んだ。 シムズミは、ゆっくりと口を開く。
「……潜入先、施設『深層』。対象は、八名。ナアマ、ガシェルト、ソガル、アアタドン、トガール、ゴールハボル、ガシャバ、サアリル。全員、白髪、白瞳、強靭な体格。役割は、別紙参照」
声は掠れ、途切れがち。氷川丸は、タブレットに指を走らせる。文字が、音もなく並ぶ。
「被害は?」
「……なし。だが、記憶汚染率 12.4%。精神安定値 78%。不動心、維持」
氷川丸は頷き、最後のデータを入力。
【調査コード:SIM-07-RETURN】
【状態:要クリーニングケア】
「お疲れさん、次は志賀くんの所へ行ってね」
クリーニングケア室。
志賀は、穏やかな笑みを浮かべて待っていた。白い髪を後ろに流し、白色の瞳は優しい。シムズミを椅子に座らせ、ゆっくりと制服を脱がせる。
「痛むところは?」
「……左腕」
志賀は、血痕を拭い、消毒。次に、頭部に小型のヘッドセットを装着。淡い青い光が、少年の脳を這う。
「記憶の汚れを、洗い流すよ」
光が強まる。シムズミの灰色の瞳が、わずかに揺れた。ナアマの声、ガシェルトの夢、ソガルの毒……すべてが、淡い霧となって消えていく。
「終了。次は恵山くんだ」
回復治療睡眠カプセル室。
カプセルは、半透明の卵型。内部は、ブルーハワイのかき氷のような淡い青。恵山は、にこやかに手を振った。
「シムズミくん、おかえり! 今日は特製のブルーハワイ味だよ」
(朝日レベルな相手は、ほぼ全員だわ★ 相変わらずすっごいね……派遣調査員な★)
シムズミは、無言でカプセルに横たわる。 蓋が閉まる。 液体が、ゆっくりと満ちる。
【回復治療開始】
【推定睡眠時間:6時間】
少年の瞼が、完全に閉じた。夢は、見ない。ただ、深い、深い静寂。
白城・帰還棟 玄関ホール。
カプセルの蓋が開く。シムズミは、ゆっくりと起き上がる。白い髪は乾き、灰色の瞳は澄んでいる。 制服は新品。体は、完全に回復。扉が開く。白雲が、立っていた。白い髪、白い瞳。屈強な体躯に、上級保安官の徽章。
「シムズミくん」
声は、低く、温かい。少年は、一歩踏み出す。白雲は、両腕を広げた。
「おかえり」
シムズミは、ゆっくりと歩み寄る。白雲の胸に、額を預ける。白い髪と白い髪が、重なる。
「次は、どこへ行くんだい?」
「……まだ、決まっていない」
白雲は、少年の背中を撫でた。優しく、強く。
「なら、今日は休んで。僕がいるから」
二人は、並んで歩き出す。白城の長い廊下を。少年の足音は、小さく。だが、確かに、前に向かっていた。



