薄暗い部屋の奥、柔らかな灯りが揺れる。ナアマは膝を折り、床に横たわるシムズミの傍らに腰を下ろした。白い髪が肩に流れ、灰色の瞳は開かれたまま、ただ虚空を見つめている。不動の心は、まるで凍てついた湖のようだった。
「今日も、痛みはなかったかな?」
ナアマの声は、夜風のように静かだった。指先でシムズミの頬を撫でる。冷たく、しかし確かにそこにある命。ハクセンの少年は、言葉を返さない。ただ、かすかに息を吐くだけ。
ナアマは立ち上がり、棚から小さな壺を取り出した。中身は、淡い金色の液体。「忘却の雫」と彼は呼んでいる。シムズミの唇にそっと近づけ、一滴、落とす。
「これで、少しは楽になる」
少年の瞳が、わずかに揺れた。灰色の奥に、かすかな光が灯る。それは、痛みの記憶が薄れていく証だった。ナアマは微笑んだ。哀しげに、しかし確かに。
「貴方はここにいる限り、苦しまなくていい」
彼はシムズミの髪を梳き始めた。白い髪は、ナアマ自身のそれと重なり合うようだった。同じ色、同じ質感。だが、シムズミのそれは、まるで雪のよう。触れれば溶けてしまいそうで、だからこそ、慎重に、優しく。
「忘却は安らぎ。快楽は解放」
呟くように語りかける。シムズミの体は、徐々に力を抜いていった。肩の凝りがほぐれ、眉間の皺が消える。ナアマは、それをただ見つめていた。自分の手で、少年を救っている。それが、せめてもの償い。
やがて、シムズミの瞼が閉じた。深い眠り。夢さえ見ない、完全な安らぎ。
ナアマは立ち上がり、部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろした。白い瞳を伏せ、静かに息を吐く。
「……また、明日も」
彼は知っている。この救済は、永遠には続かない。シムズミの心は、不動ではあるが、壊れてはいない。いつか、少年は目を覚まし、すべてを思い出すだろう。
そのとき、ナアマはまた、傍にいる。ただ、寄り添うだけ。
それが、彼にできる、唯一の慈悲だった。
「今日も、痛みはなかったかな?」
ナアマの声は、夜風のように静かだった。指先でシムズミの頬を撫でる。冷たく、しかし確かにそこにある命。ハクセンの少年は、言葉を返さない。ただ、かすかに息を吐くだけ。
ナアマは立ち上がり、棚から小さな壺を取り出した。中身は、淡い金色の液体。「忘却の雫」と彼は呼んでいる。シムズミの唇にそっと近づけ、一滴、落とす。
「これで、少しは楽になる」
少年の瞳が、わずかに揺れた。灰色の奥に、かすかな光が灯る。それは、痛みの記憶が薄れていく証だった。ナアマは微笑んだ。哀しげに、しかし確かに。
「貴方はここにいる限り、苦しまなくていい」
彼はシムズミの髪を梳き始めた。白い髪は、ナアマ自身のそれと重なり合うようだった。同じ色、同じ質感。だが、シムズミのそれは、まるで雪のよう。触れれば溶けてしまいそうで、だからこそ、慎重に、優しく。
「忘却は安らぎ。快楽は解放」
呟くように語りかける。シムズミの体は、徐々に力を抜いていった。肩の凝りがほぐれ、眉間の皺が消える。ナアマは、それをただ見つめていた。自分の手で、少年を救っている。それが、せめてもの償い。
やがて、シムズミの瞼が閉じた。深い眠り。夢さえ見ない、完全な安らぎ。
ナアマは立ち上がり、部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろした。白い瞳を伏せ、静かに息を吐く。
「……また、明日も」
彼は知っている。この救済は、永遠には続かない。シムズミの心は、不動ではあるが、壊れてはいない。いつか、少年は目を覚まし、すべてを思い出すだろう。
そのとき、ナアマはまた、傍にいる。ただ、寄り添うだけ。
それが、彼にできる、唯一の慈悲だった。



