部屋は無音だった。壁の向こうでさえ、息を殺すような静寂。ソガルは扉を背に立ち、鍵を二重に掛けてから、ゆっくりと振り返った。白い髪が鋭く逆立ち、白色の瞳は氷の刃のようにシムズミを射抜く。
少年は床に座り、膝を抱えていた。白い髪が肩に垂れ、灰色の瞳は床の一点を見つめたまま動かない。まるで人形。壊れた人形。

「……相変わらず、うぜぇほど静かだな」

ソガルの声は低く、毒を含んでいた。彼は歩み寄り、シムズミの前にしゃがみ込む。距離は一尺。息がかかるほど近い。

「今日も、何も言わねぇのか。痛ぇ? 怖ぇ? それとも、全部どうでもいいのか?」

指先で少年の顎を掴み、強引に顔を上げる。灰色の瞳が、ようやくソガルを見た。でも、そこには何も映っていない。ただの空洞。
ソガルは舌打ちした。

「不動心、か。笑わせるな。心が動かないんじゃねえ。動く前に、全部殺してるだけだ」

彼は立ち上がり、ポケットから小さなガラス瓶を取り出した。中身は透明な液体。匂いはない。でも、ソガルは知っている。これがシムズミの「薬」だ。痛みを殺す。記憶を殺す。心を殺す。

「ほら、飲め」

瓶を少年の唇に押し当てる。シムズミは抵抗しない。ただ、喉を鳴らして飲み込む。液体が零れ、顎を伝って落ちる。ソガルはそれを指で拭い、舐めた。

「甘いな。……嘘みたいに」

彼はシムズミの髪を掴み、乱暴に梳いた。白い髪は、指の間を滑り落ちる。柔らかすぎて、気持ち悪い。

「真実は毒だ。知れば知るほど、腐る。お前はもう、腐りきってる」

呟くように言いながら、ソガルは少年の肩に手を置いた。強靭な指が、細い骨を軋ませる。でも、シムズミは痛みも見せない。ただ、灰色の瞳が、少しだけ揺れた。

「……お前は、僕を信じるな。誰も信じるな。僕も、お前を信じちゃいねぇ」

ソガルの声が、不意に掠れた。白色の瞳が、ほんの一瞬、揺らいだ。でも、すぐに毒の微笑に戻る。

「でもな、今日だけは……少し、楽にしてやる」

彼はシムズミの体を抱き起こし、ベッドに横たえた。毛布を掛け、額に手を置く。体温は低い。でも、生きている。

「寝ろ。夢も見るな。覚醒するな。……僕が、いる限り」

ソガルは立ち上がり、部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろした。背を壁に預け、白色の瞳を閉じる。

「……明日も、殺してやる」

(直じゃねぇけどよ。コレ…サアリルかガシャバみてぇじゃねぇか……)

呟いた言葉は、誰に向けられたものか。シムズミか。自分か。それとも、世界か。……ではなく、シムズミと自分だった。部屋は再び、無音に戻った。