白銀荘内にある一軒家の隠し部屋には、午前の陽光さえ届かない。
アルジーヌは黒のロングコートを羽織ったまま、白い髪を指で梳き、白色の瞳を細めて微笑んでいた。銀警察の徽章はポケットの奥に仕舞われている。今日は休日──だが、彼にとって休みとは「遊び」の時間の別名に過ぎない。

「パライタ……どこに隠れてる?」
低く押し殺した声が、廊下に沈む。

クローゼットの奥。少年は身を縮め、震えながら膝を抱えていた。
額に張りついた青緑の髪。海のような瞳は怯えで潤み、その首には銀の鎖が鈍く光る。

扉が軋む音とともに、男の白い手が闇を裂く。
「見つけた」
掴まれた腕が引きずり出され、少年は息を呑む。アルジーヌは淡々と微笑み、囁くように言った。
「逃げた罰だ。……悪い子だね」

少年は首を振るが、抗う言葉は声にならない。
男はその頬を指でなぞり、柔らかく息を吐く。
「嘘は、嫌いなんだ」

鉄の椅子がひとつ、部屋の中央に置かれていた。
アルジーヌは少年を座らせ、革のベルトで手首を固定する。
「落ち着けば、すぐに終わる」

箱の蓋を開けると、銀の器具が光を弾いた。針先が腕に沈み、透明な液体が滴る。
少年は小さく身を強ばらせたが、アルジーヌの表情は穏やかだった。
「大丈夫。これで、元気が出る」

首輪の鎖を握り、男は少年を引き寄せる。
「今日は、僕が全部面倒を見る」

キッチンの灯りの下、アルジーヌは果実の皮を滑らかに剥く。
「口を開けて」
少年は震える唇を開き、差し出された果実を受け取る。
「噛んで。……そう、ゆっくり」

果汁がこぼれ、顎を伝う。アルジーヌは笑いながらその雫を拭い取る。
「いい子だ。……少し甘すぎるな」

やがて浴室の蒸気が立ちのぼる。
シャワーの下、少年は泡立てた石鹸で慎ましく体を洗う。
壁に凭れたアルジーヌが静かに見つめる。
「丁寧に。……見惚れるほどに綺麗だ」

流れる泡の下、青緑の髪が濡れて光り、白い手がその背に伸びる。
「もういい。僕がやる」
アルジーヌの声は優しかったが、拒む余地はなかった。
指先が背を撫で、少年の息が微かに揺れる。

風呂から上がると、男はタオルで少年の体を拭き、黒のシルクの服を着せる。
鎖が新しく繋がれ、静かに鳴った。
「可愛いよ、パライタ」

隠し部屋に戻り、ソファに並んで座る。
アルジーヌは少年の足を膝に乗せ、掌で押した。
「痛い?」
少年は小さく頷く。男は笑みを漏らし、目を細める。
「我慢するのも、覚えなきゃな」

静かな午後。
部屋には少年の浅い呼吸と、男の穏やかな笑い声だけが満ちる。

やがてアルジーヌは囁いた。
「……今日はもう休んで。よくできた」

ベッドに横たえられた少年の頬に、男の指が触れる。
白い髪が揺れ、海色の瞳がそれを映す。
「明日も、ここで待ってるから」

白銀荘の闇が、ふたりをゆっくりと包み込んだ。
眠りと覚醒の境で、少年はただ、黙って震えていた。