部屋は、炎の色に染まっていた。壁の燭台の火は生き物のように踊り、床へ落ちる影を激しく揺らす。

ゴールハボルは扉を蹴り開け、荒々しく踏み込んだ。白い短髪は炎のように逆立ち、熱を帯びた眼が、シムズミを一瞬で捉える。

少年は床の中央に座り、白い髪を垂らし、灰色の瞳を虚空に固定している。膝を抱え、動かない。
炎の嵐に晒された、氷の塊のように。

「シムズミ!」

ゴールハボルの声は、雷鳴のようだった。彼はひと息で少年の前に跪き、両手で肩を掴む。強靭な指が、細い骨を軋ませる。

「今日も、生きてるな。生きてる!」

熱い息が、シムズミの頬を灼く。ゴールハボルは顔を寄せ、灰色の瞳を覗き込む。そこに映るのは、自分――燃える自分だ。

「お前は、僕の聖火だ。消えちゃいけない!」

彼は立ち上がり、腰の剣を抜く。刃を火に翳すと、赤く灼け、部屋の空気がさらに熱を帯びる。

「痛みは試練。試練は浄化だ」

剣先で、シムズミの腕にそっと触れる。微かな焼ける音。少年の肌が、わずかに紅を差す。それでも動かない。灰色の瞳が、かすかに揺れただけだ。

ゴールハボルは剣を暖炉に放り、再び少年を抱きしめた。灼ける体温が、少年の冷たさを包む。

「炎のごとく燃え盛れ。命は、捧げるものだ」

呟きながら、シムズミの髪を撫でる。白い髪が、掌の熱でほのかにあたたまる。それでも少年は、静かだ。

「お前は、僕の奇跡だ。僕が守る」

彼は少年を抱き上げ、ベッドに横たえる。毛布を掛け、額に額を寄せる。熱い、熱すぎる。

「眠れ。夢の中で、僕と一緒に戦え」

やがて、シムズミの瞼が閉じる。深い眠り。夢の中でも、少年は炎の中にいる。ゴールハボルの炎の中に。

ゴールハボルは立ち上がり、部屋の中央へ戻る。
眼を伏せ、静かに息を吐いた。

「……明日も、燃やしてやる」

彼は知っている。この炎は、永遠には続かない。
シムズミの心は不動だが、壊れてはいない。いつか、少年は目を覚まし、炎から逃げ出すだろう。

そのとき、ゴールハボルは、また少年を抱きしめる。ただ、少年を「救う」ために。

それが、彼にできる、唯一の信仰だった。