部屋は、前線の指揮所そのものだった。
壁に掛かる巨大な地図。床に散らばる武器の部品。鉄の匂いと、乾いた血の匂い。
ガーレブは扉を蹴り開け、荒々しく踏み込んだ。
乱れた白い短髪は汗に貼りつき、燃え立つ眼が、シムズミを一瞬で捉える。
少年は床の隅に座り、白い髪を垂らし、灰色の瞳を落としていた。膝を抱え、背筋は伸びている。それでも体は、小さく縮こまっている。
「おい、シムズミ!」
ガーレブの声は、戦鼓のように部屋を揺らす。彼は一歩で少年の前に立ち、両手で肩を掴んだ。強靭な指が、細い骨を軋ませる。
「生きてるな。良し、確認完了!」
熱い息が、シムズミの頬を焼く。ガーレブは顔を寄せ、灰色の瞳を覗き込む。そこに映るのは、自分――燃える自分だ。
「お前は、僕の戦友だ。弱音は吐くな」
彼は立ち上がり、腰の剣を抜いた。刃が空気を裂き、床に転がる鉄片をはじく。火花が、ひとしずく走る。
「力こそ、すべて。強者こそ、正義だ」
剣先で、シムズミの腕に軽く触れる。刃は皮膚を裂かない。ただ、少年の体が、かすかに震えた。
ガーレブは、思いきし剣を地面に突き刺し、再び少年を抱き起こす。灼けるような体温が、少年の冷たさを包んだ。
「お前は、僕の誇りだ。僕が守る」
彼はシムズミをベッドに座らせ、毛布を掛ける。
額を寄せる。熱い、熱すぎる。
「眠れ。夢の中で、僕と一緒に戦え」
やがて、シムズミの瞼が閉じる。深い眠り。夢の中でも、少年は戦場にいる。ガーレブの戦場に。
ガーレブは立ち上がり、部屋の中央に戻った。
眼を伏せ、静かに息を吐く。
「……明日も、戦う」
彼は知っている。この戦いは、永遠には続かない。
シムズミの心は、不動ではあるが、壊れてはいない。いつか、少年は目を覚まし、戦場から逃げ出すだろう。
そのとき、ガーレブはまた、少年を抱き起こす。
ただ、少年を「戦友」にするために。
それが、彼にできる、唯一の正義だった。
(……なんで額を合わせるのだろう?)
シムズミは寝てるフリして、命懸けで感覚で観察してたときに思っていた。
壁に掛かる巨大な地図。床に散らばる武器の部品。鉄の匂いと、乾いた血の匂い。
ガーレブは扉を蹴り開け、荒々しく踏み込んだ。
乱れた白い短髪は汗に貼りつき、燃え立つ眼が、シムズミを一瞬で捉える。
少年は床の隅に座り、白い髪を垂らし、灰色の瞳を落としていた。膝を抱え、背筋は伸びている。それでも体は、小さく縮こまっている。
「おい、シムズミ!」
ガーレブの声は、戦鼓のように部屋を揺らす。彼は一歩で少年の前に立ち、両手で肩を掴んだ。強靭な指が、細い骨を軋ませる。
「生きてるな。良し、確認完了!」
熱い息が、シムズミの頬を焼く。ガーレブは顔を寄せ、灰色の瞳を覗き込む。そこに映るのは、自分――燃える自分だ。
「お前は、僕の戦友だ。弱音は吐くな」
彼は立ち上がり、腰の剣を抜いた。刃が空気を裂き、床に転がる鉄片をはじく。火花が、ひとしずく走る。
「力こそ、すべて。強者こそ、正義だ」
剣先で、シムズミの腕に軽く触れる。刃は皮膚を裂かない。ただ、少年の体が、かすかに震えた。
ガーレブは、思いきし剣を地面に突き刺し、再び少年を抱き起こす。灼けるような体温が、少年の冷たさを包んだ。
「お前は、僕の誇りだ。僕が守る」
彼はシムズミをベッドに座らせ、毛布を掛ける。
額を寄せる。熱い、熱すぎる。
「眠れ。夢の中で、僕と一緒に戦え」
やがて、シムズミの瞼が閉じる。深い眠り。夢の中でも、少年は戦場にいる。ガーレブの戦場に。
ガーレブは立ち上がり、部屋の中央に戻った。
眼を伏せ、静かに息を吐く。
「……明日も、戦う」
彼は知っている。この戦いは、永遠には続かない。
シムズミの心は、不動ではあるが、壊れてはいない。いつか、少年は目を覚まし、戦場から逃げ出すだろう。
そのとき、ガーレブはまた、少年を抱き起こす。
ただ、少年を「戦友」にするために。
それが、彼にできる、唯一の正義だった。
(……なんで額を合わせるのだろう?)
シムズミは寝てるフリして、命懸けで感覚で観察してたときに思っていた。



