氷川丸の記録

白銀荘内にある銀警察署内にある地下訓練室は、朝の冷気を孕んでいた。
ユディットは黒のタンクトップに汗を滲ませ、短く刈り上げた白髪の下で、白色の瞳を鋭く光らせていた。
銀警察の銃は壁に掛けたまま。今日は休みだ。だが、彼にとって休みとは「別の訓練」を意味するにすぎない。

「パライタ。起きて」

鉄の扉を蹴り開けると、少年は床の隅で膝を抱えていた。
青緑色の髪は乱れ、海色の瞳は怯えに曇っている。首輪の鎖が床を擦り、冷たく響いた。

ユディットは無造作に少年の腕を掴み、強く引き起こした。
「立て。……今日は体を鍛える」

パライタは震えながら立ち上がる。男はその背を押し、訓練室の中央へと導いた。
無骨な鉄の棒を握らせる。

「腕を上げて。……回せ」

細い腕が震えながら棒を回す。
ユディットはその背後に立ち、手を伸ばして動きを矯正した。

「もっと速く。……弱いな」

汗が少年の額を伝い落ちる。
男は無言で水筒を差し出し、少年の唇に押し当てた。
冷たい水が顎を伝って零れ落ちる。

「飲め。……全部だ」

少年はむせながらも必死に飲み込んだ。
ユディットは背中を叩き、咳を止める。

「次は腹筋」

男は少年を床に仰向けにさせ、膝を押さえた。
「上げて。……百回」

パライタは震える腹で体を起こす。一回、二回――十回目で限界がくる。
男は無言のまま少年の腹を足で押さえ、強制的に起き上がらせた。

「弱い。……僕の部下がこれでは困る」

訓練が終わるころ、少年は床に崩れ落ちていた。
ユディットはその体を抱き上げ、無言のまま浴室へ運ぶ。

「汗臭い。……洗うか」

シャワーの下で、少年は震えながら体を洗う。
ユディットは壁に凭れ、腕を組んで見つめていた。白い瞳が、少年の細い背を静かに追う。

「背中」

小さく肩をすくめる少年。ユディットは石鹸を取り上げ、容赦なく背を洗う。
指先は粗くも正確で、傷をつけることはない。

「首」

その手が少年の首筋を掴む。パライタは小さく息を呑み、肩を震わせた。

浴室を出ると、男はタオルで少年の体を乱暴に拭き、青緑色の髪を指で掻き上げながらドライヤーを当てた。
熱風が少年の耳を赤く染める。

「着替える」

クローゼットから黒のタンクトップと短パンを取り出し、少年に着せ、再び鎖をつなぐ。
「飯だ」

キッチンに連れて行き、椅子に座らせる。
ユディットはプロテインシェイクを作り、少年の口に押し当てた。

「飲んで。……残すな」

パライタは震える手でグラスを支え、飲み干す。
男は向かいに座り、腕を組んでじっと見守っていた。

「今日はここまでだ。……寝な」

ユディットは少年を抱き上げ、寝室へ運んだ。ベッドに放り投げられたパライタは小さく息を詰め、シーツにもぐる。
男はベッドの端に腰掛け、乱れた髪を無造作に撫でた。

「明日も鍛える。……君は僕のものだ」

白い瞳が海色の瞳を捉え、少年は小さく頷いて目を閉じた。

静かな午後。
訓練室の鉄の匂いと、浅い寝息だけが響いている。

「……壊れるな。僕が鍛える」

ユディットは立ち上がり、ゆっくりと少年の隣に身を横たえた。
腕を回し、その細い体を強く抱き寄せる。白い髪が、青緑の髪に静かに絡んだ。

白銀荘の深い静寂の中、二人の影が、重なり合っていった。