色彩を忘れたかのような、白一色の豪邸。磨き上げられた大理石の床は雪原のごとく光を反射し、窓辺では純白のカーテンが静かに揺れている。その広大なリビングルームのソファに、一人の少年が身を沈めていた。彼の名はダンビュラ。

その髪は、純白に淡い濁りを落としたような、不思議な色合いをしていた。無造作に垂れた前髪の奥で、クリームがかった白い瞳がぼんやりと虚空を見つめている。華奢な外見に反して強靭な精神を宿す彼は、しかし、自覚なきまま鋭い棘を放つという厄介な癖を持っていた。今日もまた、彼は独り言のように、だが明確な響きをもって呟いた。

「みんな、なんだか面倒くさそうに生きてるな……」

この豪邸は、彼の安息の地であると同時に、美しき牢獄でもあった。ダンビュラの「世話役」という名目で、二人の男が彼の日常を監視している。銀警察署の総教官にして副署長であるレイモンド=クワントリルと、同署の教官オジェ=ル=ダノワ。上層部の特命によりこの館に派遣された彼らは、その冷徹な流儀で少年を律し、保護するという任務を負っていた。そして、ダンビュラの無垢なる毒舌は、日々、彼らの鋼の仮面に容赦なく突き刺さるのだった。

朝の静寂を切り裂いて、レイモンドが姿を現した。短く刈り揃えられた白髪、氷のように冷ややかな白い瞳。彼は感情というものを、特に同性愛、女性、そして恋愛にまつわる一切を、汚物のように嫌悪していた。

「起きな。朝食だ」

その声には何の抑揚もなかった。盆に乗せられているのは、完璧な栄養バランスのプロテインシェイクと、無造作に切り分けられた果物のみ。ダンビュラはそれを受け取ると、クリーム色の瞳でじっと見つめ、悪意なく言った。

「これ、なんだか味気ないね。レイモンドさんみたいに、冷たい味がするよ」

その言葉が、レイモンドの眉を微かに震わせた。だが彼はそれを無視し、義務を遂行するための言葉を紡ぐ。

「文句を言うな。それは任務だ。食事が済めば訓練を始める。その生意気な精神に見合うだけの肉体をくれてやる」

彼の世話は、常に厳格さを極めていた。庭でのランニング。ぜえぜえと息を切らしながらも、ダンビュラは決して音を上げない。その強靭さに、レイモンドは内心で舌を巻く。だが、少年は追い打ちをかけるように、無邪気な声で尋ねた。

「すいません、レイモンドさん。そんなに冷たくしていると、誰も寄りつかなくなっちゃうよ。……寂しくないの?」

鋭い棘が、的確に心の臓を抉る。レイモンドは湧き上がる苛立ちを、鉄の意志で表情の下に封じ込めた。これは任務だ。この少年を守るための。そう自身に言い聞かせながらも、胸の奥で疼く痛みを無視することは、日に日に難しくなっていた。「こいつの言葉は、なぜこうも的確に急所を突いてくる……」
彼はその苛立ちさえも、己を律する鋼に変えようと努めた。

陽が傾き、影が長く伸びる頃、もう一人の男、オジェ=ル=ダノワが音もなく現れた。風に流れる白短髪に、剃刀のように鋭い白い瞳。彼は怜悧冷徹という言葉を体現したような、銀警官の教官である。腰には白銀のナイフ「コルタン」と、チェーンソー型の大斧「べフロール」が、彼の危険性を雄弁に物語っていた。

「ダンビュラ。黄昏は危険な時間だ。屋敷の周囲を点検する。ついてこい」

オジェの世話は、徹頭徹尾、実践的だった。彼はダンビュラを伴って庭を巡回し、侵入者の痕跡を探しながら、護身の術を説く。戯れのように振るわれるチェーンソー大斧の空を切る音は、それだけで十分な脅威だった。だが、ダンビュラが木の根に足を取られた瞬間、オジェは誰よりも速くその腕を掴み、力強く支えていた。

「その精神力は認めよう。ただ、油断は死を招く。……夕食は、僕が考案した特別メニューだ。栄養摂取も任務と心得る」

護身術の手ほどきを受けながら、ダンビュラはまたしても、無垢な刃を振るった。

「オジェさん、そんな物騒な斧をいつも持っていたら、友達なんてできないよ。冷徹すぎて、みんな怖がっちゃうもの」

オジェの瞳が一瞬、さらに鋭さを増した。だが、彼はその感情を怜悧な思考の奥に押し込める。

「……言葉には気をつけな。しかし、その指摘は的を射ているのかもしれない」

内心では、少年の精神の強靭さに感嘆していた。そして、その言葉の棘がもたらす痛みを、己の精神をさらに鍛え上げるための砥石と見なすのだった。

夕食の席で、二人の男は沈黙していた。レイモンドは無言で食事を運び、オジェは冷静に周囲を監視する。その異様な静寂の中で、ダンビュラだけが、まるで何も感じていないかのように、楽しげに食事をしていた。

「二人とも、いつもお世話してくれてありがとう。でもさ、もっと笑ったらどう? その顔、石みたいに固いよ」

またしても、無意識の棘が放たれる。レイモンドの眉間に深い皺が刻まれ、オジェは静かにため息をついた。だが、彼らは決して言葉を返さない。この少年の存在そのものが、彼らの冷徹さを試す、終わりのない試練なのだと理解していたからだ。

白亜の豪邸で、二人の男と一人の少年の奇妙な日々は続く。レイモンドの冷酷と、オジェの冷徹。二つの鋼は、それぞれ異なる形で、棘を持つ少年を守り、そして鍛えていく。

ダンビュラは、濁った光を宿す白い瞳で、黙して語らぬ守護者たちを見つめた。そして、胸の中でだけ、誰にも届かぬ謝罪と、新たな決意を呟く。

「みんな、傷つけてごめん。……でも、二人とも、すごくタフだ。僕も、負けていられないな」

その言葉に応える者はいない。ただ、二人の男は、無意識の棘がもたらす痛みを受け止め続けながら、今日も少年の精神を鍛え続ける。それが、彼らに与えられた、唯一の任務であるかのように。