ハクセンの荒野を越え、黒城の要塞都市に影が潜む。西の凶牙――白虎は、今日も血の匂いをまとって帰還した。黒のライダースジャケットに刻まれた白虎の牙模様が、夕陽を浴びて濡れた血のように輝く。銀白の短髪は乱れ、血金のカラコンをはめた白い瞳が、まだ獲物を睨むように鋭かった。
「ふん、今日の敵は脆かったぜ。自由を叫ぶ奴らを、鎖で繋いでやるのが俺の流儀だ」
白虎が要塞の奥、私室へと足を踏み入れると、そこにはタムシがいた。月光のように流れる白い髪、灰色の静かな瞳。華奢な体つきながら、心は揺るがない。不動の少年――ハクセン出身の彼は、ベッドの端に腰を掛け、本を読んでいた。
「遅かったね、白虎。血の匂いがするよ」
穏やかな声に、白虎はブーツの金ソールを鳴らしながら近づき、ジャケットを脱ぎ捨てた。白いタイトパンツが筋肉を浮かび上がらせ、肩口の新しい傷が痛みを訴える。
「ああ、敵の残党だ。奴らの『自由の叫び』を、俺の咆哮で絶望に変えてやった。白光の衝撃波が防御を貫いて、奴らを凍りつかせたんだ。――西の凶牙の名は伊達じゃねえ」
獰猛な笑みを浮かべながらも、タムシの前では牙を収める。その姿に、彼の素が垣間見える。
直情の男が唯一心を許す相手。それがタムシだった。
「傷の手当てをしよう。座って」
落ち着いた声で告げられ、白虎はぶつぶつ言いながらも素直に従う。黒城の上級執行官が、一人の少年に世話を焼かれるなど、他の者が見れば笑うだろう。だが白虎は、それを望んでいる。
「ったく……俺が世話される側かよ。お前みたいなガキにな……」
白虎がベッドに腰を下ろすと、タムシは薬箱を手に取り、静かに傷口へ布を当てた。灰の瞳が真剣に見つめ、白い髪がかすかに揺れる。白虎の血金の瞳は、その指先を追いかける。
「痛い?」
「こんな傷、屁でもねえ。敵の首を噛み砕くより楽だ」
強がりの裏に、わずかな甘さが滲む。タムシは笑みを浮かべ、包帯を巻く。その指先が肌に触れるたび、獰猛な男の心が少しずつ解けていった。
「自由を鎖で繋ぐ――それが君の信条だよね。でも、僕の世話は鎖じゃない。好きでやってるんだ」
タムシの穏やかな言葉に、白虎は小さく鼻を鳴らす。
「ふん……お前の不動の心が、俺を捕らえてるんだよ。敵みたいに咆哮で壊したくはねぇからな」
静寂が流れる。外では黒城の風が吠えているのに、この部屋だけは穏やかだった。白虎はタムシの肩に手を乗せ、銀白の髪を撫でる。
「明日も戦う。俺の咆哮で敵を絶望の西風に変えてやる。お前は――ここで待ってろ。世話の続きは、帰ってからだ」
タムシは小さく頷き、その灰色の瞳が柔らかく光った。
「待ってるよ。白虎、君の帰りを」
こうして、西の凶牙は、少年の手に心を委ねた。
自由を憎みながら、唯一の鎖を自ら選んだ夜だった。
「ふん、今日の敵は脆かったぜ。自由を叫ぶ奴らを、鎖で繋いでやるのが俺の流儀だ」
白虎が要塞の奥、私室へと足を踏み入れると、そこにはタムシがいた。月光のように流れる白い髪、灰色の静かな瞳。華奢な体つきながら、心は揺るがない。不動の少年――ハクセン出身の彼は、ベッドの端に腰を掛け、本を読んでいた。
「遅かったね、白虎。血の匂いがするよ」
穏やかな声に、白虎はブーツの金ソールを鳴らしながら近づき、ジャケットを脱ぎ捨てた。白いタイトパンツが筋肉を浮かび上がらせ、肩口の新しい傷が痛みを訴える。
「ああ、敵の残党だ。奴らの『自由の叫び』を、俺の咆哮で絶望に変えてやった。白光の衝撃波が防御を貫いて、奴らを凍りつかせたんだ。――西の凶牙の名は伊達じゃねえ」
獰猛な笑みを浮かべながらも、タムシの前では牙を収める。その姿に、彼の素が垣間見える。
直情の男が唯一心を許す相手。それがタムシだった。
「傷の手当てをしよう。座って」
落ち着いた声で告げられ、白虎はぶつぶつ言いながらも素直に従う。黒城の上級執行官が、一人の少年に世話を焼かれるなど、他の者が見れば笑うだろう。だが白虎は、それを望んでいる。
「ったく……俺が世話される側かよ。お前みたいなガキにな……」
白虎がベッドに腰を下ろすと、タムシは薬箱を手に取り、静かに傷口へ布を当てた。灰の瞳が真剣に見つめ、白い髪がかすかに揺れる。白虎の血金の瞳は、その指先を追いかける。
「痛い?」
「こんな傷、屁でもねえ。敵の首を噛み砕くより楽だ」
強がりの裏に、わずかな甘さが滲む。タムシは笑みを浮かべ、包帯を巻く。その指先が肌に触れるたび、獰猛な男の心が少しずつ解けていった。
「自由を鎖で繋ぐ――それが君の信条だよね。でも、僕の世話は鎖じゃない。好きでやってるんだ」
タムシの穏やかな言葉に、白虎は小さく鼻を鳴らす。
「ふん……お前の不動の心が、俺を捕らえてるんだよ。敵みたいに咆哮で壊したくはねぇからな」
静寂が流れる。外では黒城の風が吠えているのに、この部屋だけは穏やかだった。白虎はタムシの肩に手を乗せ、銀白の髪を撫でる。
「明日も戦う。俺の咆哮で敵を絶望の西風に変えてやる。お前は――ここで待ってろ。世話の続きは、帰ってからだ」
タムシは小さく頷き、その灰色の瞳が柔らかく光った。
「待ってるよ。白虎、君の帰りを」
こうして、西の凶牙は、少年の手に心を委ねた。
自由を憎みながら、唯一の鎖を自ら選んだ夜だった。



