白銀荘にあるマンションの一室にある書斎は、朝の静寂に沈んでいた。
オジェ=ル=ダノワは白のシルクシャツを纏い、白い短髪を後ろへ流して椅子に腰を下ろしている。
白色の瞳はひらいた書物に注がれ、ページをめくる指先は、寸分の狂いもない精密な機械のようだった。銀警察の制服はクローゼットに仕舞われ、今日は休息の日だ。

「パライタ。来い」

低く響く声が、静まり返った室内の空気を震わせた。
寝室の扉がわずかに開き、細い少年が這うように姿を現す。
青緑の髪が肩に落ち、海の色を湛えた瞳は怯えと従順に揺れている。首輪の鎖が床に擦れ、かすかな音を立てた。

オジェは本を閉じ、ゆるやかに視線を上げた。
無言で立ち上がり、少年の顎を掴む。白い指が細い顎を引き上げる。

「顔色が悪い。……栄養が足りない」

男は少年の手を引き、ダイニングへ向かう。
テーブルにはすでに朝食が整然と並べられていた。
スープ、果物、薄く切られたパン。どれも整いすぎて、まるで儀式のようだった。

「座る」

小さく頷き、パライタは椅子に腰掛ける。
オジェはその正面に座り、スプーンを取った。

「口を開けて」

少年は震える唇をわずかにひらく。
男はスープを掬い、慎重にその口元へと運んだ。
熱い液体が喉を通るたび、パライタの肩が小さく跳ねる。

「ゆっくり飲む。……こぼすな」

その声は冷たくも正確で、命令というより確認のようだった。
少年は息を詰めながら飲み込み、男の白い瞳から目を逸らさない。

食事が終わると、オジェは立ち上がり、首輪の鎖を引いた。
「風呂だ」

浴室は白い大理石で満たされ、清潔な光が壁面を滑る。
オジェは蛇口をひねり、湯を張った。
少年の衣を剥ぎ取り、湯船へと座らせる。

「自分で洗う」

パライタはおずおずと石鹸を取り、震える手で身体をこすった。
オジェは壁に凭れ、腕を組んでその様子を眺めている。
白い瞳が、少年の細い体を隅々までなぞるように追った。

「髪」

少年は身を縮め、背を向ける。
オジェは静かにシャンプーを手に取り、青緑の髪を洗い始めた。
指先の動きは正確で、頭皮にひとつの傷も与えない。
泡が流れ、少年の耳が赤く染まる。

「首の後ろ」

男の指が首筋をなぞる。
パライタは息を詰め、肩を震わせた。

湯から上げると、タオルで身体を拭き、髪を乾かして櫛を通す。
青緑の髪が、光を弾いて指の間を滑る。

「着替え」

クローゼットから白いシャツとズボンを取り出し、丁寧に着せていく。
ボタンを一つずつ留めるたび、少年の視線がわずかに揺れた。

「今日は外に出さない。……ここにいな」

書斎へ戻り、少年をソファに座らせる。
オジェは再び椅子に腰を下ろし、本を開いた。
だが、視線の先は文字ではなく、少年だった。

「……眠いなら横になれ」

パライタは小さく頷き、ソファに身を沈めた。
オジェは毛布をかけ、少年の額に手を当てる。熱はない。
男は黙って髪を撫で、再び本を開いた。

静かな午後。
ページをめくる音と、少年の浅い寝息だけが響く。

「……君は、僕の所有物だ」

オジェは本を閉じ、少年の寝顔を見下ろした。
白い髪が、青緑の髪と触れ合う。

「壊れるな。……僕が管理する」

男はゆっくりと腰を下ろし、少年の細い身体を抱き寄せる。
白い瞳に、冷たい光が宿った。

白銀荘の静寂の中、
二つの影が、ゆっくりと重なっていった。