白城の最上階。朝の光がガラス窓を透かして室内へと差し込み、執務室の空気を静かに照らしていた。
敷島は書類の山を前に、片手でコーヒーを啜る。白い髪が朝日に透け、まるで雪の結晶のように光を宿している。

「パライタくん、また朝飯を抜いてきたでしょ?」

ドアの陰から覗く細い影。海色の瞳が恥ずかしそうに揺れ、寝癖のついた青緑の髪が小さく跳ねていた。少年は肩をすくめ、申し訳なさそうに首を振る。

「だって……昨日の夜、実験データを整理してたら朝になっちゃって」

敷島は小さくため息をつき、書類を閉じて立ち上がった。その屈強な体躯が少年の前に立ちはだかる。まるで巨木が小さな草花を見下ろすような姿だった。
次の瞬間、大きな手がパライタの頭を優しく撫でる。

「実験は大事だけどさ――君の体も同じくらい大事だよ?」

白い瞳が心配そうに細められる。敷島は机の引き出しから、昨夜部下が届けてくれたという手作り弁当を取り出した。蓋を開けると、彩り豊かな野菜とシーフードパスタがぎっしりと詰まっている。パライタの好物だ。

「ほら…座って。僕が食べさせてあげるからね」

「え、ちょ、敷島さん!?」

真っ赤になった顔。だが敷島は容赦なく少年の肩を押さえ、椅子に座らせた。フォークにパスタを巻き取り、迷うことなくその口元へと運ぶ。

「ん……」

恥ずかしそうに口を開けるパライタ。敷島の大きな手は、まるで赤子を扱うように慎重だ。
白い瞳の奥には、普段の威圧的な権力者の面影はなく、穏やかな光だけが宿っていた。

「ちゃんと噛んで。喉に詰まらせたら大変だからね?」

もぐもぐと頬張る姿を、敷島はどこか満足げに見つめていた。時折、口元に付いたソースをナプキンで拭ってやる――まるで父親が幼い我が子を世話するかのように。

「あのね、パライタくん」

パスタを食べ終えた少年に、敷島は温かいミルクのカップを差し出した。

「君は……僕にとって大切な存在だよ。いや、白城の宝かな。無理はしないで欲しい」

海色の瞳が潤む。パライタは小さく頷き、敷島の大きな手に自分の細い指を重ねた。

「……ありがとうございます。敷島さんがいてくれて、本当に良かった」

白い髪がそっと少年の額に触れる。
朝の光の中で、二人の影が静かに重なった。
白城の最高責任者は、今日も過保護な愛情とともに一日を始めるのだった。