白銀荘にあるマンションの最上階。朝の光が白いカーテンを透かし、部屋の空気を柔らかく照らしていた。
ラ=イルは銀警察の制服を脱ぎ、黒いタンクトップ一枚でキッチンに立っていた。白い短髪を後ろで無造作にクリップで留め、色の薄い瞳を眠たげに細める。今日は休み。肩のホルスターも、腰の銃も――すべて脱ぎ捨てている。

「起きな、パライタ」

寝室のドアを乱暴に蹴って開けると、ベッドの上で小柄な少年が身を縮めていた。
青緑色の髪がシーツに絡み、海のような瞳が怯えたように瞬く。

「……朝だ。飯を食べさせてやる」

ラ=イルは少年の腕を掴み、強引に引き起こす。
パライタは小さく息を詰まらせながらも、言葉に逆らわず立ち上がった。裸足で床を踏む音が、静かな部屋に響く。

キッチンへ連れて行き、椅子に座らせる。
ラ=イルは冷蔵庫を開けて卵を割った。フライパンの上で油が跳ねる。
テーブルの端でパライタは膝を抱え、震える指先で自分を支えている。

「手を出すな。……今日は僕がやる」

ラ=イルは皿を並べ、スクランブルエッグとトーストを置いた。
フォークを少年の手に握らせ、自分は向かい側に腰を下ろす。

「……食べな」

パライタは小さく頷き、震える手で口へ運んだ。
ラ=イルは腕を組み、無表情のままじっとその様子を見つめている。
白い瞳には、何の感情も映らない。

「昨日、風呂に入ってないな。……臭い」

食事が終わると、ラ=イルは無言のまま少年の首根っこを掴み、浴室へ引きずった。
シャワーの蛇口を捻り、熱い湯を頭から浴びせる。

「自分で洗いな」

パライタは肩を震わせながら石鹸を手に取り、細い体をこすった。
ラ=イルは壁にもたれ、腕を組んでその様子を見ている。

「背中」

少年は小さく頷き、男に背を向けた。
ラ=イルは無言で石鹸を取り、慎重に背中を洗い始める。指の動きは荒いが、どこか優しさが滲んでいた。

「……首の後ろも」

パライタはびくりと肩を上げる。
ラ=イルの指が鎖骨の窪みをなぞり、肩を軽く掴んだ。

「震えるな。……僕がいる」

浴室を出ると、ラ=イルはタオルで少年の体を拭き取った。
濡れた青緑の髪を指で梳きながらドライヤーをあて、熱風がパライタの耳を赤く染めていく。

リビングへ連れて行き、ソファに座らせる。
ラ=イルは自分の膝に少年を乗せ、背後から腕をまわした。

「……今日は外に出さない。君はここにいな」

窓の外では、白銀荘の庭園が風に揺れている。
だが、パライタはその光景を見ることを許されない。

ラ=イルは少年の髪を弄びながらテレビをつけた。
ニュース番組には無人島脱出特集のバラエティーが流れている。
画面に、ラ=イルの名は出ていない。今日は休みなのだ。

「……眠いなら寝な」

パライタは小さく頷き、男の胸にもたれかかる。
ラ=イルは無言で毛布をかけ、少年の肩を抱き寄せた。

白い髪が、青緑の髪に絡まる。
静かな午後。
ただ二人の呼吸だけが、規則正しく重なっていた。

「……僕のものだ。忘れるな」

その囁きは氷のように冷たい。
それでも確かな所有の響きを孕んでいた。