コンクリートの部屋。
午前八時。
バチカルは胸当てを鳴らし、短く刈り込んだ白髪を陽の光にさらして立っていた。白い瞳は鋭く、手甲に朝露が光る。今日は休みのはずだったが、彼にとって休みとはすなわち鍛錬の時間にほかならない。
「パライタ、出な」
扉の陰から、少年が這うようにして現れる。
青緑の髪は寝癖で跳ね、海のような瞳は怯えに揺れている。首輪は外され、代わりに革のリストバンドが手首に巻かれていた。
バチカルは拳を握り、地面を踏み鳴らした。
「立つ。……今日も鍛える」
少年は震えながら立ち上がる。
男はその肩を掴み、訓練場と思われるような所の中央へと引きずるように進む。
「腕を上げる」
細い腕が震えながらも上がる。
男は無言で少年の腹を軽く突き、姿勢を直した。
「もっと力を込める。……弱い」
汗が少年の額を伝って落ちる。
バチカルは水筒を差し出し、少年の口に押し当てた。
「飲む。……全部」
咳き込みながら飲み干すと、男はタオルで乱暴に顔を拭った。
「汗臭い。……風呂だ」
浴室。
バチカルは蛇口をひねり、熱湯を浴びせる。
「自分で洗うがいい」
少年は震える手で体をこすった。
男は腕を組んで壁にもたれ、黙って見ている。
「背中」
パライタは小さく首をすくめ、背を向ける。
男は石鹸を取り、荒々しく背中を洗った。
指は容赦がなかったが、傷つけることはなかった。
「首」
指が首筋にかかる。
パライタは息を詰め、肩を震わせる。
「震えるでない。……弱い」
浴室を出ると、バチカルはタオルで少年の体を拭いた。
「着替える」
クローゼットから取り出した黒のタンクトップと短パンを着せ、ベルトを締める。
「これで十分だ」
食堂のような所。
バチカルは皿にプロテインと卵を盛り、少年の前に置いた。
「食べる。……全部だ」
震える手でフォークを握り、パライタは口へ運ぶ。
男は向かいに座り、腕を組んでその様子を見ていた。
「遅い。……もっと早く」
食事を終えると、男は立ち上がる。
「今日はここまで。……寝ようか」
少年を抱えて寝室のような所へ運び、ベッドに放り投げた。
パライタは小さく息を詰め、シーツに体を沈める。
バチカルはベッドの端に腰掛け、少年の髪を乱暴に撫でた。
「明日も鍛える。……君は僕の所有物だ」
白い瞳が海色の瞳を見下ろす。
パライタは小さく頷き、目を閉じた。
男は無言で立ち上がり、少年の傍らに腰を下ろした。腕を回すことなく、ただ見下ろす。
「力こそすべて。……君も強くなれ」
静寂の午後。
訓練場のような所に残る鉄の匂いと、少年の浅い寝息だけが響く。
白い髪と青緑の髪は触れ合わず、コンクリートの静けさの中で、二人の影だけが並んでいた。
それは、力の真理に鍛えられた者たちの、冷たい平衡だった。
午前八時。
バチカルは胸当てを鳴らし、短く刈り込んだ白髪を陽の光にさらして立っていた。白い瞳は鋭く、手甲に朝露が光る。今日は休みのはずだったが、彼にとって休みとはすなわち鍛錬の時間にほかならない。
「パライタ、出な」
扉の陰から、少年が這うようにして現れる。
青緑の髪は寝癖で跳ね、海のような瞳は怯えに揺れている。首輪は外され、代わりに革のリストバンドが手首に巻かれていた。
バチカルは拳を握り、地面を踏み鳴らした。
「立つ。……今日も鍛える」
少年は震えながら立ち上がる。
男はその肩を掴み、訓練場と思われるような所の中央へと引きずるように進む。
「腕を上げる」
細い腕が震えながらも上がる。
男は無言で少年の腹を軽く突き、姿勢を直した。
「もっと力を込める。……弱い」
汗が少年の額を伝って落ちる。
バチカルは水筒を差し出し、少年の口に押し当てた。
「飲む。……全部」
咳き込みながら飲み干すと、男はタオルで乱暴に顔を拭った。
「汗臭い。……風呂だ」
浴室。
バチカルは蛇口をひねり、熱湯を浴びせる。
「自分で洗うがいい」
少年は震える手で体をこすった。
男は腕を組んで壁にもたれ、黙って見ている。
「背中」
パライタは小さく首をすくめ、背を向ける。
男は石鹸を取り、荒々しく背中を洗った。
指は容赦がなかったが、傷つけることはなかった。
「首」
指が首筋にかかる。
パライタは息を詰め、肩を震わせる。
「震えるでない。……弱い」
浴室を出ると、バチカルはタオルで少年の体を拭いた。
「着替える」
クローゼットから取り出した黒のタンクトップと短パンを着せ、ベルトを締める。
「これで十分だ」
食堂のような所。
バチカルは皿にプロテインと卵を盛り、少年の前に置いた。
「食べる。……全部だ」
震える手でフォークを握り、パライタは口へ運ぶ。
男は向かいに座り、腕を組んでその様子を見ていた。
「遅い。……もっと早く」
食事を終えると、男は立ち上がる。
「今日はここまで。……寝ようか」
少年を抱えて寝室のような所へ運び、ベッドに放り投げた。
パライタは小さく息を詰め、シーツに体を沈める。
バチカルはベッドの端に腰掛け、少年の髪を乱暴に撫でた。
「明日も鍛える。……君は僕の所有物だ」
白い瞳が海色の瞳を見下ろす。
パライタは小さく頷き、目を閉じた。
男は無言で立ち上がり、少年の傍らに腰を下ろした。腕を回すことなく、ただ見下ろす。
「力こそすべて。……君も強くなれ」
静寂の午後。
訓練場のような所に残る鉄の匂いと、少年の浅い寝息だけが響く。
白い髪と青緑の髪は触れ合わず、コンクリートの静けさの中で、二人の影だけが並んでいた。
それは、力の真理に鍛えられた者たちの、冷たい平衡だった。



