氷川丸の記録

純白塔、白の祭壇。
午前十時。

シェリダーは白銀の鎧を静かに鳴らし、白髪を神官のように整えて祭壇の前に立っていた。透きとおる白瞳は淡く輝き、長剣《セラフィエル》は腰で静かに眠っている。
今日は休み。だが彼にとって休みとは、「純白を保つ時間」にすぎなかった。

「パライタ。跪け」

扉の陰から一人の少年が這うように現れ、床に膝をつく。
青緑の髪は乱れ、海のような瞳は怯えに揺れていた。首輪は外され、代わりに白布のチョーカーが首を飾っている。

シェリダーは剣の柄に手を置いた。
「汚れを祓う」

少年は小さく頷く。
男は彼の顎を指で持ち上げ、真っ直ぐに見つめた。
「今日も、白く保つ」

祭壇の脇に少年を座らせ、自分は正面に腰を下ろす。
「聖餐」

机の上には白いパンと水。
シェリダーはパンをちぎり、少年の口元へ差し出す。
「受けよ」

震える唇がそれを受け取り、噛み切るたびに小さな音が響いた。
男は杯を傾け、水をその口元へ流し込む。
「浄化」

食事が終わると、二人は浴室へ向かった。
「洗礼」

シェリダーが蛇口を捻ると、透明な聖水が湯船に満ちていく。
「脱衣」

震える手で少年が衣を脱ぎ始める。
男も鎧を外し、その背後に立つ。
「僕が執行」

白い石鹸を取り、少年の背を慎重に洗い上げた。
「肩……首筋」
指の感触は静かで、しかし確かだった。
「髪」

聖水を掬い、青緑の髪を撫でる。
「色は……許容範囲」

やがて浴室を出て、白いタオルでその身体を拭う。
「着衣」

クローゼットから新しい白のローブを取り出し、少年に着せる。
紐を結びながら、彼は微かに言った。
「純白」

再び浄罪の間へ。
少年を祭壇の前に跪かせ、シェリダーは剣を抜き、その刃を頭上に掲げる。
「誓え」

少年は静かに頷いた。
男は剣を下ろし、その肩を軽く叩く。
「良好。……ここは、僕の聖域だ」

午後の光が静かに差し込み、聖堂の白い空気を震わせる。
響くのは、少年の浅い呼吸と光のざわめきだけ。

「……休み。無意味だ」

シェリダーは剣を傍らに置き、少年の隣に腰を下ろす。
「だが、君は僕の秩序だ」

白い髪が、青緑の髪に触れることはない。
白の祭壇において、二人の影は冷たく並び、純白の秩序の中に静かに溶けていった。