氷川丸の記録

砂の塔、金庫の間。
午前十時十五分。

キムラヌートは銀の装飾を施した鎧風の衣を微かに鳴らし、短く刈られた白髪を厳格に整えて玉座に腰を下ろしていた。白い瞳は黄金の輝きを宿し、その膝の上には黄金の秤が置かれている。今日は休み――だが、彼にとっての「休み」とは、資産の点検時間にほかならなかった。

「パライタ。入室」

扉の陰から、少年が這うように現れる。
青緑の髪は乱れ、海色の瞳が怯えに揺れている。首輪は外され、代わりに黄金の細鎖が手首に巻かれていた。

キムラヌートは少年を見下ろし、秤をわずかに揺らす。
「価値測定……開始」

少年の肩が小さく震えた。
男は立ち上がり、少年の顎を指先で持ち上げる。
「今日の市場価格……上昇傾向」

彼は少年を玉座の横に座らせ、自分は向かいに腰を下ろす。
「摂取」

机の上には、緻密に計算された朝食。
キャビア――高純度蛋白質。フォアグラ――脂質バランス。シャンパン――微量アルコール。
キムラヌートは銀のスプーンを手に取り、少年の口元へと差し出す。

「咀嚼十五回。……資産の無駄遣いは許さない」

少年の唇が震え、指示どおりに口を閉じる。その喉がごくりと音を立てた。
男は秤で皿の残量を量り、目を細める。
「残量、〇・三グラム。許容範囲」

食後、男は立ち上がり、少年を浴室へと導いた。
「洗浄」

蛇口をひねり、湯が満ちる。四十度。
湯気が静かに天井を這い上がっていく。

「脱衣」

少年は震える手で衣服を脱ぐ。
キムラヌートは鎧風衣を脱ぎ、背後に立った。
「僕が実行」

黄金の石鹸を手に取り、少年の背を丁寧に洗う。
「肩……首筋」
指先は冷たく、しかし正確で、無駄のない動きだった。

「髪」

男はシャンプーを泡立て、青緑色の髪を梳くように洗う。
「毛髪価値……維持」

洗い終えると、黄金のタオルで水気を拭い取る。
「九十九・九パーセントの除去率」

「着衣」

クローゼットから銀糸のシャツと白のパンツを取り出し、少年の身体に通してボタンをひとつずつ留めていく。
「資産価値……上昇」

ふたたび金庫の間。
少年は玉座の足もとに座り、キムラヌートは秤を手にその頭上へかざす。

「今日の価値――昨日比プラス二パーセント」

少年の肩がわずかに緩む。
キムラヌートは微笑み、秤でその肩を軽く叩いた。
「良好。……僕の最高資産だ」

静かな午後。
金庫の間に響くのは、黄金の光が反射する微かな音と、少年の浅い息づかいだけ。

「……休み。非生産的だ」

そう呟き、キムラヌートは秤を置き、少年の隣に腰を下ろした。
「…けど、君は僕の富だ」

白い髪が、青緑の髪に触れることはない。
金庫の間――ふたりの影は冷たく並び、静かに富の秤に量られていた。