白銀荘にある素朴な豪邸らしくなすぎる豪邸の地下室は、いつも湿った鉄の匂いがした。
レギウス=キングは、銀警察の制服を脱ぎ捨て、黒いシャツ一枚で階段を降りてくる。白い髪が肩に落ち、氷のような色の瞳が闇の中でも鈍く光を返した。
奥の檻の前で、彼は足を止める。

「……まだ生きているか、パライタ」

檻の中、少年は膝を抱えて震えていた。海の色をした髪は汗で額に張りつき、瞳は怯えと疲労に濁っている。首元の鎖が、わずかな動きでも金属音を立てた。

レギウスは鍵を回し、鈍い音を響かせて檻を開けた。
少年は反射的に後ずさるが、背中はもう壁に触れている。

「逃げるな。今日は君の番だ」

男の手が無造作にパライタの顎を掴み、顔を上げさせた。冷たい指先が、震える唇をなぞる。
「汚いな。……風呂に入ろうか」
その声は低く、感情の色を欠いていた。

レギウスは少年の腕を取って立たせ、奧の浴室へと導く。
そこには白いタイルと錆びた蛇口だけの簡素な空間があった。湯を張る音が、静かに響く。

衣服を剥がれ、冷水が頭から降り注ぐ。
パライタは息を詰め、身を縮めながらも抵抗しない──この男には、抗うことができないのだ。

レギウスは何も言わず、少年の身体を洗い始めた。
背中、腕、鎖骨の窪み。動きは壊れ物を扱うように慎重でありながら、どこまでも冷たい。

「傷は癒えているな。……いい子だ」

男の指が、少年の首筋に残る噛み跡をなぞる。それは数日前、「躾」と称された行為の痕だった。

湯に沈め、背後から抱きしめるように両腕を回す。
パライタの細い肩が、レギウスの胸に触れてわずかに震えた。

「君は僕のものだ。忘れるな」

耳元で囁く声は、氷のように冷たく、しかし確かな熱を孕んでいる。
少年は小さく頷いた。海色の瞳に涙が滲み、一筋が頬を滑り落ちる。

レギウスはそれを指で拭い、唇を寄せて囁く。
「泣くな。……僕が君を守る」

それは嘘ではなかった。
白銀荘の外では、パライタは標的だ。銀血の壁の内側でしか、生きることを許されていない。

レギウスは少年を抱き上げ、浴室を出た。
濡れた体をタオルで包み、寝室に運ぶ。
ベッドに横たえ、鎖を外す。

「……今夜はここで寝な」

白い瞳が、安堵と支配をないまぜにして少年を見下ろす。
パライタは小さく息を吐き、シーツに顔を埋めた。

レギウスはベッドの端に腰を下ろし、壁際のチェーンソー剣を立てかけた。金属の重い響きが、少年の背骨を震わせる。

「明日も世話をしてやる。……僕の物」

灯りが落ち、闇が二人を包む。
レギウスの指が、青緑の髪を優しく撫でた。
地下の静寂の中、ただ二人の呼吸だけが、規則正しく響いていた。