夏の昼。海の家「白蝶貝」は陽光に照らされ、テラスの貝殻装飾が潮風に揺れては、キラキラと光を散らしていた。
波音と観光客の笑い声が混じり合う中、その一角だけが異様に冷たく張り詰めている。
木製のテーブルを挟み、二人の男が無言で対峙していた。
銀警察署の冷酷な副署長、レイモンド=クワントリル。
そして純白秩序局の狂信者、シェリダー。
周囲の客は二人の放つ圧に気圧され、静かに席を立って遠ざかる。テラスの空間には、潮の香りとは異なる鋭い緊張が満ちていく。
レイモンドは白いタンクトップにカーキのショーツという気取らない姿だが、その白髪と白い眼差しは氷刃のように鋭い。屈強な体躯が醸す冷酷な威圧感は、休暇中であることをまるで感じさせない。
彼はビールのグラスを掴み、対面の男を睨みつけた。
「シェリダー。君みたいな白塗りの狂信者が、こんな場所で何の用だ？ 僕の休みを邪魔する気なら、その“聖剣”とやらをへし折ってやる」
その声には、憎悪と嫌悪、そして何より不快の色が滲む。
シェリダーは白銀の鎧に包まれたまま微動だにせず、透き通る白い瞳でレイモンドを見据える。
腰の長剣「セラフィエル」には翼ある白い十字の紋が刻まれ、彼の存在そのものが“純粋”という観念を具現したかのようだった。
「レイモンド=クワントリル。君の在り方は汚れに満ちている。冷酷、憎悪――それらは白き秩序に背くものだ」
静かな声が響く。まるで聖堂の説教のように厳かに。
「この場で、君を“浄化”する必要があるかもしれない」
レイモンドの唇が皮肉に歪んだ。
グラスを卓上に叩きつけ、鈍い音が木を震わせる。
「浄化だと？ 君のその白ピカの妄想は、僕の拳の前じゃただのまやかしだ。僕を誰だと思ってる。銀警察署の副署長を斬れると思うな」
彼の白い瞳が危険な光を帯びると、辺りの空気は一瞬で重く凍りついた。
対するシェリダーは、淡く揺らぐ瞳で静かに言葉を重ねる。
「君の力は確かに強い。だが、その力は汚濁に染まっている。純白の秩序の前では、やがて色褪せるだけだ」
ゆっくりと彼が立ち上がる。
その瞬間、テラスの色が薄れ、世界が白一色に染まり始めた。セラフィエルの聖光が空気を冷たく澄ませ、その場の現実さえ書き換えていく。
「レイモンド。君の心の不純を、僕の剣で切り払う。受け入れるか、それとも抗うか」
(受け入れないで抗っていろ。何故、同じ白なのだ。訳が分からないから処す)
レイモンドは同じく立ち上がり、屈強な体を揺らして拳を握る。
木板が軋み、筋肉の動きに合わせて血管が浮かび上がる。
「抗うに決まってる。君の白けた世界観こそ、僕には一番汚らしく見えるんだよ。僕の冷酷さは、秩序なんかで消せない」
低い声が唸るように響く。
「来いよ、聖人様。このテラスで――僕の拳が、君の剣を叩き折る」
一瞬、シェリダーの瞳が揺れた。だがすぐにその光は凍りつき、聖剣を構える。
「抗うのなら、君は異端だ。純白の秩序に刃向かう者はすべて、排除される」
(案の定、抗っていろ。百発百中、想定内であった。やはり……君は、単純な思考しか持たないと判ってしまった。今、目の前にいるソレは……白の塗料を全身に浴びた油虫が……見ていられない)
セラフィエルが白銀の光を放つ。テラスの風景から色が抜け落ち、世界は白と銀の狭間に沈む。
「異端？ 上等だ。僕はただのレイモンドだ。君の白い幻想を、僕の拳でぶち砕く」
木板がきしみ、空気が震える。
「ならば――浄化の試練を受けろ」
(本音は試験なんざ要らん。今すぐ、この場で……あ……墓石すら建てられない程……穢らわしかった)
シェリダーの声には冷たさと、微かに揺らぐ迷いが混じっていた。
灼けるような夏の陽光の下、海の家「白蝶貝」のテラスは凍てつく戦場に変わる。
波の音が遠くに沈み、白と暴力とがぶつかり合う。
秩序と反逆、純粋と冷酷。
光と影が交錯する、灼熱の瞬間が始まろうとしていた。
波音と観光客の笑い声が混じり合う中、その一角だけが異様に冷たく張り詰めている。
木製のテーブルを挟み、二人の男が無言で対峙していた。
銀警察署の冷酷な副署長、レイモンド=クワントリル。
そして純白秩序局の狂信者、シェリダー。
周囲の客は二人の放つ圧に気圧され、静かに席を立って遠ざかる。テラスの空間には、潮の香りとは異なる鋭い緊張が満ちていく。
レイモンドは白いタンクトップにカーキのショーツという気取らない姿だが、その白髪と白い眼差しは氷刃のように鋭い。屈強な体躯が醸す冷酷な威圧感は、休暇中であることをまるで感じさせない。
彼はビールのグラスを掴み、対面の男を睨みつけた。
「シェリダー。君みたいな白塗りの狂信者が、こんな場所で何の用だ？ 僕の休みを邪魔する気なら、その“聖剣”とやらをへし折ってやる」
その声には、憎悪と嫌悪、そして何より不快の色が滲む。
シェリダーは白銀の鎧に包まれたまま微動だにせず、透き通る白い瞳でレイモンドを見据える。
腰の長剣「セラフィエル」には翼ある白い十字の紋が刻まれ、彼の存在そのものが“純粋”という観念を具現したかのようだった。
「レイモンド=クワントリル。君の在り方は汚れに満ちている。冷酷、憎悪――それらは白き秩序に背くものだ」
静かな声が響く。まるで聖堂の説教のように厳かに。
「この場で、君を“浄化”する必要があるかもしれない」
レイモンドの唇が皮肉に歪んだ。
グラスを卓上に叩きつけ、鈍い音が木を震わせる。
「浄化だと？ 君のその白ピカの妄想は、僕の拳の前じゃただのまやかしだ。僕を誰だと思ってる。銀警察署の副署長を斬れると思うな」
彼の白い瞳が危険な光を帯びると、辺りの空気は一瞬で重く凍りついた。
対するシェリダーは、淡く揺らぐ瞳で静かに言葉を重ねる。
「君の力は確かに強い。だが、その力は汚濁に染まっている。純白の秩序の前では、やがて色褪せるだけだ」
ゆっくりと彼が立ち上がる。
その瞬間、テラスの色が薄れ、世界が白一色に染まり始めた。セラフィエルの聖光が空気を冷たく澄ませ、その場の現実さえ書き換えていく。
「レイモンド。君の心の不純を、僕の剣で切り払う。受け入れるか、それとも抗うか」
(受け入れないで抗っていろ。何故、同じ白なのだ。訳が分からないから処す)
レイモンドは同じく立ち上がり、屈強な体を揺らして拳を握る。
木板が軋み、筋肉の動きに合わせて血管が浮かび上がる。
「抗うに決まってる。君の白けた世界観こそ、僕には一番汚らしく見えるんだよ。僕の冷酷さは、秩序なんかで消せない」
低い声が唸るように響く。
「来いよ、聖人様。このテラスで――僕の拳が、君の剣を叩き折る」
一瞬、シェリダーの瞳が揺れた。だがすぐにその光は凍りつき、聖剣を構える。
「抗うのなら、君は異端だ。純白の秩序に刃向かう者はすべて、排除される」
(案の定、抗っていろ。百発百中、想定内であった。やはり……君は、単純な思考しか持たないと判ってしまった。今、目の前にいるソレは……白の塗料を全身に浴びた油虫が……見ていられない)
セラフィエルが白銀の光を放つ。テラスの風景から色が抜け落ち、世界は白と銀の狭間に沈む。
「異端？ 上等だ。僕はただのレイモンドだ。君の白い幻想を、僕の拳でぶち砕く」
木板がきしみ、空気が震える。
「ならば――浄化の試練を受けろ」
(本音は試験なんざ要らん。今すぐ、この場で……あ……墓石すら建てられない程……穢らわしかった)
シェリダーの声には冷たさと、微かに揺らぐ迷いが混じっていた。
灼けるような夏の陽光の下、海の家「白蝶貝」のテラスは凍てつく戦場に変わる。
波の音が遠くに沈み、白と暴力とがぶつかり合う。
秩序と反逆、純粋と冷酷。
光と影が交錯する、灼熱の瞬間が始まろうとしていた。
