午後二時、昼の木崎屋。
学生たちの笑い声と軽やかなBGMが交わり、ガラス窓から差す光がテーブルを柔らかく包んでいた。カウンターでは木崎逸美が手際よくドリンクを準備し、佐々木糊竹は学生客とアニメ談義で盛り上がっている。新人の柏木俊太郎は、少し慌てながらも丁寧にトレイを運び続けていた。
そのとき——扉の鈴が静かに鳴った。
入ってきたのは、銀警官エーイーリー。柔らかな白髪を後ろに束ね、白い瞳は湖面のような穏やかさを湛えている。制服は少し乱れていたが、清潔感を失ってはいない。その大きな体は威圧よりもむしろ安らぎを感じさせ、彼は窓際の席へとゆったり腰を下ろした。
「…ん、なんか、甘いのがいいかな」
眠たげな低い声に、胸の渦巻き紋章が陽光を受けてきらりと光る。
木崎は穏やかに笑った。
「エーイーリーさん、今日はのんびりモードだね。キャラメルラテ、たっぷりクリームでどう?」
エスプレッソマシンの音がやさしく響く。
「うん、それでいい…。ここ、落ち着くなぁ」
彼は窓の外を見つめ、肩の力を静かに抜いた。
エーイーリーは「渦巻き(Spiral of Calm)」の紋章を背負う銀警官。争いを避け、穏やかさで場を鎮めることを旨とする。悪意の気配には敏感だが、決して性急に動かない。その性分が、時に彼自身を不安にもさせた。
——自分は本当に守れているのだろうか?
だが、この木崎屋に来ると、そんな迷いはふっと溶けていく。
木崎が差し出したマグカップから、甘いキャラメルの香りが立ち上る。
「はい、エーイーリーさん。クリーム多め、甘々仕様でどうぞ!」
「…ん、いい匂い。ありがと、木崎さん」
大きな手でカップを包み込み、一口。温かな甘さが舌に染み、心の奥まで溶けていく。
(この甘さ…悪くない。守るって、きっとこういう瞬間のことだ)
彼の白い瞳が一瞬だけ柔らかく揺れた。
「お、エーイーリーさん! 今日もマイペースっすね~。その制服、ちょっとシワっすよ?」
テーブルを片付けていた糊竹が軽口を叩く。
エーイーリーはゆるやかに首を振った。
「…ん、気にならないよ。糊竹の元気、好きだなぁ」
「え、褒められた!?」
笑い声が弾け、店内の空気がさらに温かくなる。
少し離れた席から、柏木俊太郎が緊張した面持ちで近づく。
「あ、あの…ご注文、他にありますか?」
「…ん、大丈夫。このラテで十分。君、新人か。頑張ってるな」
ゆったりとした声に、俊太郎の肩がわずかに緩む。
「は、はい! ありがとうございます!」
(この人、すごく安心する…)
その笑顔を見て、木崎がカウンター越しに声をかけた。
「エーイーリーさん、俊太郎くんに優しくしてくれてありがとね。この子、すぐ緊張するから」
「…ん、緊張も悪くないよ。真剣ってことじゃん?」
俊太郎は照れくさそうに笑い、少し自信を取り戻した。
やがてカップが空になり、エーイーリーはゆっくりと立ち上がる。
「…木崎さん、いい時間だった。ありがと。また来るよ」
白い瞳が光を映し、柔らかく輝く。
「いつでも待ってるよ、エーイーリーさん!」
糊竹が「次はもっと甘いの試してくださいね!」と手を振り、俊太郎も「また来てください!」と声を張った。
エーイーリーは穏やかな足取りで店を出る。背中の渦巻きの紋章が、午後の日差しの中で静かに光った。
木崎屋は、銀警官の穏やかな戦士にとって、心が鎮まり、再び「守る力」を取り戻すための、小さな聖域だった。
学生たちの笑い声と軽やかなBGMが交わり、ガラス窓から差す光がテーブルを柔らかく包んでいた。カウンターでは木崎逸美が手際よくドリンクを準備し、佐々木糊竹は学生客とアニメ談義で盛り上がっている。新人の柏木俊太郎は、少し慌てながらも丁寧にトレイを運び続けていた。
そのとき——扉の鈴が静かに鳴った。
入ってきたのは、銀警官エーイーリー。柔らかな白髪を後ろに束ね、白い瞳は湖面のような穏やかさを湛えている。制服は少し乱れていたが、清潔感を失ってはいない。その大きな体は威圧よりもむしろ安らぎを感じさせ、彼は窓際の席へとゆったり腰を下ろした。
「…ん、なんか、甘いのがいいかな」
眠たげな低い声に、胸の渦巻き紋章が陽光を受けてきらりと光る。
木崎は穏やかに笑った。
「エーイーリーさん、今日はのんびりモードだね。キャラメルラテ、たっぷりクリームでどう?」
エスプレッソマシンの音がやさしく響く。
「うん、それでいい…。ここ、落ち着くなぁ」
彼は窓の外を見つめ、肩の力を静かに抜いた。
エーイーリーは「渦巻き(Spiral of Calm)」の紋章を背負う銀警官。争いを避け、穏やかさで場を鎮めることを旨とする。悪意の気配には敏感だが、決して性急に動かない。その性分が、時に彼自身を不安にもさせた。
——自分は本当に守れているのだろうか?
だが、この木崎屋に来ると、そんな迷いはふっと溶けていく。
木崎が差し出したマグカップから、甘いキャラメルの香りが立ち上る。
「はい、エーイーリーさん。クリーム多め、甘々仕様でどうぞ!」
「…ん、いい匂い。ありがと、木崎さん」
大きな手でカップを包み込み、一口。温かな甘さが舌に染み、心の奥まで溶けていく。
(この甘さ…悪くない。守るって、きっとこういう瞬間のことだ)
彼の白い瞳が一瞬だけ柔らかく揺れた。
「お、エーイーリーさん! 今日もマイペースっすね~。その制服、ちょっとシワっすよ?」
テーブルを片付けていた糊竹が軽口を叩く。
エーイーリーはゆるやかに首を振った。
「…ん、気にならないよ。糊竹の元気、好きだなぁ」
「え、褒められた!?」
笑い声が弾け、店内の空気がさらに温かくなる。
少し離れた席から、柏木俊太郎が緊張した面持ちで近づく。
「あ、あの…ご注文、他にありますか?」
「…ん、大丈夫。このラテで十分。君、新人か。頑張ってるな」
ゆったりとした声に、俊太郎の肩がわずかに緩む。
「は、はい! ありがとうございます!」
(この人、すごく安心する…)
その笑顔を見て、木崎がカウンター越しに声をかけた。
「エーイーリーさん、俊太郎くんに優しくしてくれてありがとね。この子、すぐ緊張するから」
「…ん、緊張も悪くないよ。真剣ってことじゃん?」
俊太郎は照れくさそうに笑い、少し自信を取り戻した。
やがてカップが空になり、エーイーリーはゆっくりと立ち上がる。
「…木崎さん、いい時間だった。ありがと。また来るよ」
白い瞳が光を映し、柔らかく輝く。
「いつでも待ってるよ、エーイーリーさん!」
糊竹が「次はもっと甘いの試してくださいね!」と手を振り、俊太郎も「また来てください!」と声を張った。
エーイーリーは穏やかな足取りで店を出る。背中の渦巻きの紋章が、午後の日差しの中で静かに光った。
木崎屋は、銀警官の穏やかな戦士にとって、心が鎮まり、再び「守る力」を取り戻すための、小さな聖域だった。



