アクゼリュスまとめ

木崎屋の夜は、柔らかなジャズと薄暗い照明が織りなす落ち着いた空間。
カウンターでは木崎逸美が静かにカクテルを作り、蜂須賀貝磨が黙々とグラスを磨き、柏原心太朗が常連の教員客と軽快に談笑している。

午後十時半、扉の鈴が重く鳴った。
白い影が差し込む。銀血の戦士──アクゼリュスだ。
黒い革ジャンにタンクトップ、ジーンズ、スニーカーという飾り気のない装い。だが、刈り込まれた白髪と白い瞳には、深い静けさと慈悲が宿っていた。
首元の鎖ペンダントに揺れるハートのチャームが、微かな光を反射する。古傷に刻まれた過去が、彼の背に重く沈む「贖斧(シャフ)」に銀の輝きを散らす。

アクゼリュスはゆっくりとカウンターの端に腰を下ろし、木崎に視線を向けた。
「……何か、静かな飲み物を」
低く響く声には疲労の色が滲むが、その調べは穏やかだ。

木崎は微笑み、「アクゼリュスさん、いつもの落ち着くやつね。モスコミュールでどう?」と手際よくライムを絞り、彼をそっと見守る。
「それでいい。……この場所、いつも救われる」
アクゼリュスは小さく頷き、カウンターに肘をついて静かに息をつく。

かつて暴走の果てに多くを失った彼は、“力は守るためにある”と誓った戦士。
他者の痛みを引き受けるたび、過去の罪が胸を刺す。それでも、このバーだけは彼が戦いの重荷を下ろし、ただ一人の人間として息をつける場所だった。

木崎がモスコミュールを差し出す。
「はい、アクゼリュスさん。今日はどんな戦いだった?」
彼女の声は軽やかだが、その奥には深い気遣いがある。

「……痛みを背負う相手が、また一人増えた。守れたが、代償は重い」
アクゼリュスはグラスを手に取り、ライムの清涼な香りを吸い込む。白い瞳が一瞬曇り、すぐにバーの温かな灯に溶けていく。
(この場所では、罪も少し軽くなる……誰かの笑顔が、僕を赦してくれる)
彼は心でそうつぶやき、静かに飲み干した。

その時、柏原心太朗がペンダントを見て声を上げる。
「お、アクゼリュスさん! そのペンダント、めっちゃ渋いっすね!」
蜂須賀貝磨が「心太朗、お静かに」と一瞥する。
(物騒すぎるんだよな……どこのスラムから来たんだ? 終始不穏で怖いから、一刻も早く帰りたい)と、貝磨は内心を押し隠す。

アクゼリュスは小さく笑い、「……これは、昔の僕を戒めるものだ。今は、守る誓いの象徴だ」と言う。
心太朗は「うわ、深い……!」と感嘆し、場の空気が少し和んだ。

新人の柏木俊太郎が裏口から入ってきて、その巨斧に圧倒される。
「う、うわ……めっちゃ強そうな人……!」
木崎が笑い、「俊太郎くん、アクゼリュスさんは優しいから大丈夫よ」と声をかける。

アクゼリュスは俊太郎に向き合い、「新人か。……焦るな。自分の痛みを知れば、必ず強くなる」と穏やかに告げる。
俊太郎は背筋を伸ばし、「は、はい! ありがとうございます!」と返した。
(こんなすごい人に言われた……頑張らないと!)と心の中で燃える。

彼は過去を忘れられず、戦うたびに罪が疼く。
(僕の力は、かつて破壊を生んだ。今は守るためだけに……けど、痛みは消えない)
その思いを抱えながらも、木崎屋の優しさが彼の誓いを支え続ける。
モスコミュールの爽やかな味が、一瞬だけその痛みを鎮めた。

やがてアクゼリュスは静かに立ち上がる。
「……木崎、いつもありがとう。力を取り戻しに、また来る」
白い瞳が灯りを映し、わずかに輝いた。

木崎は「いつでも待ってるよ、アクゼリュスさん」と温かく微笑み、心太朗が「またカッコいい話聞かせてください!」と手を振る。
貝磨は無言で頷き、俊太郎はまだ興奮気味に「す、すごい人だった……!」と呟く。

夜の闇の中へ消えていくアクゼリュス。
鎖のペンダントが静かに揺れ、彼の誓いを物語る。
木崎屋のバーは、贖いを背負う戦士が心を癒し、再び守る力を得る場所であった。