昼下がりの「木崎屋」は、学生たちの笑い声と柔らかな日差しに包まれていた。カウンターでは木崎逸美が手際よくオーダーをさばき、佐々木糊竹が学生客とアニメ談義に花を咲かせている。奥では新人の柏木俊太郎が、少しぎこちない手つきでドリンクを運んでいた。
午後一時半。扉の鈴が穏やかな音を立てると、店内の空気が一瞬だけ凪いだ。入ってきたのは、銀警官の国庫管理官にして「秤の守護者」と呼ばれる男――キムラヌート。
白く整えられた髪に、白銀の光を宿す瞳。刺繍の入った厚手の銀灰色ジャケットは質素ながらも威厳を放ち、胸元の「開かれた円環」の紋章が彼の信念を静かに物語っている。
彼はカウンター近くの席に静かに腰を下ろし、木崎へ穏やかな笑みを向けた。
「……何か、皆がほっとできる飲み物を頼むよ」
その低く落ち着いた声には、理知と温かさがあった。
「キムラヌートさん、今日も落ち着いてるね。カモミールティー、ポットでどう？ みんなでシェアできるよ」
木崎の言葉に、彼は軽く頷く。
「それがいい。……この場所は、まるで小さな均衡の金庫だな。信頼が、循環している」
ティーポットの中で金色のハーブが揺れる。木崎はカップをいくつか添え、テーブルに置いた。
「はい、キムラヌートさん。みんなで飲めるように、カップ多めにね」
香り立つ湯気の中で、彼はゆっくりと息を吸い込む。
「……いい香りだ。ありがとう、木崎。これ、みんなで分け合おう」
彼は近くの学生たちにカップを差し出した。
「よかったら、どうぞ」
驚いた笑顔が返り、場の空気がやわらかくほどけていく。
「お、キムラヌートさん！ そのジャケット、めっちゃ高そう！ でも、なんか親しみやすいっすね！」
糊竹が陽気に声をかけると、彼は微笑んで言った。
「……飾りは質素さ。君の笑顔の方が、よほど価値があるよ」
その言葉に糊竹は吹き出す。
「うわ、なんかカッコいいこと言うじゃん！」
店内が再び、明るい笑いに包まれた。
やや緊張した様子で俊太郎が近づく。
「あ、あの……他にご注文、ありますか？」
白銀の瞳が彼の目をとらえる。
「新人か。真っ直ぐな目だな。焦らず、信頼を積み重ねていけ。それが君の財産になる」
少年は一瞬きょとんとしたあと、はっきりと返す。
「は、はい！ ありがとうございます！」
木崎がカウンター越しに笑う。
「キムラヌートさん、俊太郎くんにいいこと言ってくれてありがと。この子、すぐ緊張するからさ」
「……緊張は、誠実さの証だ。悪いことじゃない」
その声に、俊太郎の頬が少し紅潮する。
彼の内には、常に静かな葛藤がある。
貧民街の出身ゆえに、不正や欺瞞への怒りが消えることはない。
（信頼を裏切る者がいる限り、僕の仕事は終わらない。だが……この笑顔たちは、均衡の希望だ）
カモミールティーの柔らかな味が、怒りの熱を静かに鎮めていった。
やがてポットの中が空になり、キムラヌートは穏やかに立ち上がる。
「木崎、いい時間をありがとう。……この場所の信頼、僕の金庫にも欲しいよ。また来る」
白銀の瞳が午後の光を映し、温かく輝く。
「いつでも待ってるよ、キムラヌートさん！ 次もみんなでシェアしようね」
「またカッコいい話、聞かせてください！」と糊竹が手を振り、俊太郎は胸を高鳴らせて呟いた。
「す、すごい人だった……！」
扉の鈴が鳴る。
彼の背に光る「開かれた円環」の紋章が、静かに揺らめいた。
「木崎屋」は今日も、秤の守護者が見出す“循環する善意”の休息の場である。
午後一時半。扉の鈴が穏やかな音を立てると、店内の空気が一瞬だけ凪いだ。入ってきたのは、銀警官の国庫管理官にして「秤の守護者」と呼ばれる男――キムラヌート。
白く整えられた髪に、白銀の光を宿す瞳。刺繍の入った厚手の銀灰色ジャケットは質素ながらも威厳を放ち、胸元の「開かれた円環」の紋章が彼の信念を静かに物語っている。
彼はカウンター近くの席に静かに腰を下ろし、木崎へ穏やかな笑みを向けた。
「……何か、皆がほっとできる飲み物を頼むよ」
その低く落ち着いた声には、理知と温かさがあった。
「キムラヌートさん、今日も落ち着いてるね。カモミールティー、ポットでどう？ みんなでシェアできるよ」
木崎の言葉に、彼は軽く頷く。
「それがいい。……この場所は、まるで小さな均衡の金庫だな。信頼が、循環している」
ティーポットの中で金色のハーブが揺れる。木崎はカップをいくつか添え、テーブルに置いた。
「はい、キムラヌートさん。みんなで飲めるように、カップ多めにね」
香り立つ湯気の中で、彼はゆっくりと息を吸い込む。
「……いい香りだ。ありがとう、木崎。これ、みんなで分け合おう」
彼は近くの学生たちにカップを差し出した。
「よかったら、どうぞ」
驚いた笑顔が返り、場の空気がやわらかくほどけていく。
「お、キムラヌートさん！ そのジャケット、めっちゃ高そう！ でも、なんか親しみやすいっすね！」
糊竹が陽気に声をかけると、彼は微笑んで言った。
「……飾りは質素さ。君の笑顔の方が、よほど価値があるよ」
その言葉に糊竹は吹き出す。
「うわ、なんかカッコいいこと言うじゃん！」
店内が再び、明るい笑いに包まれた。
やや緊張した様子で俊太郎が近づく。
「あ、あの……他にご注文、ありますか？」
白銀の瞳が彼の目をとらえる。
「新人か。真っ直ぐな目だな。焦らず、信頼を積み重ねていけ。それが君の財産になる」
少年は一瞬きょとんとしたあと、はっきりと返す。
「は、はい！ ありがとうございます！」
木崎がカウンター越しに笑う。
「キムラヌートさん、俊太郎くんにいいこと言ってくれてありがと。この子、すぐ緊張するからさ」
「……緊張は、誠実さの証だ。悪いことじゃない」
その声に、俊太郎の頬が少し紅潮する。
彼の内には、常に静かな葛藤がある。
貧民街の出身ゆえに、不正や欺瞞への怒りが消えることはない。
（信頼を裏切る者がいる限り、僕の仕事は終わらない。だが……この笑顔たちは、均衡の希望だ）
カモミールティーの柔らかな味が、怒りの熱を静かに鎮めていった。
やがてポットの中が空になり、キムラヌートは穏やかに立ち上がる。
「木崎、いい時間をありがとう。……この場所の信頼、僕の金庫にも欲しいよ。また来る」
白銀の瞳が午後の光を映し、温かく輝く。
「いつでも待ってるよ、キムラヌートさん！ 次もみんなでシェアしようね」
「またカッコいい話、聞かせてください！」と糊竹が手を振り、俊太郎は胸を高鳴らせて呟いた。
「す、すごい人だった……！」
扉の鈴が鳴る。
彼の背に光る「開かれた円環」の紋章が、静かに揺らめいた。
「木崎屋」は今日も、秤の守護者が見出す“循環する善意”の休息の場である。
