何度夜が明けても、君との距離は変わらなかった。

「おはようございまーす……」
 めんどくさい。
 でも仕方ない。
 私が、生徒会長に立候補して、当選してしまったのが悪い。
「おはようございまーす」
 私は、福留(ふくどめ)茉莉(まつり)
 開陵高校三年生で、第78期生徒会会長。
「はよございまーす。っざいまーす」
 徐々に雑になっていく挨拶。
 だって、しょうがないでしょ。
 人が多いんだもん。
 でも……。
「おはようございます」
 ずーっと『おはようございます』をちゃんと言っている人が、私の隣にいる。
 ……七海(ななみ)風雅(ふうが)
 私の幼なじみで、副会長。
 幼なじみだけど、嫌われている。
 一緒にいたくない、って、一緒にいるのが辛い、って言われちゃったんだよね。


『……なにをやっても、茉莉(まつり)には勝てない。それが、茉莉(まつり)と一緒にいると、よくわかる。……辛いんだよ。一緒にいるのが辛い。もう、一緒にいたくない』


 なんか、それ以来、風雅(ふうが)とはちょっと距離ができちゃった……。
 ただ、まあ、なんとなく、風雅(ふうが)の言うことはわかる。
 いつも、そうだったから。
 何をやっても、風雅(ふうが)は私にあと一歩のところで負ける。
 跳び箱、徒競走、テスト……。
 私は、風雅(ふうが)にそういうもので負けたことがない。
「ねえ、邪魔なんだけど」
「あ、ごめん」
 彼女は、福留(ふくどめ)祈梨(いのり)
 私の妹。
 妹だけど、血は繋がっていない。
 私のお父さんと祈梨(いのり)のお母さんが再婚したのだ。
 ……私は、祈梨(いのり)に嫌われている。
茉莉(まつり)!元気出しなよー」
「ありがと、(けい)
 生徒会執行部学級委員長の、進木(しんき)(けい)
 私の幼なじみ。
「もうすぐ交代でしょ。もう少しの辛抱だよー」
 朝の挨拶は、交代制で行われている。
「会長!交代しまーす」
「ありがと、(たちばな)さん。あとはよろしく……」
 朝の挨拶って、本当に体力使う……。
 ふと横を見ると、風雅(ふうが)も交代していた。
 ……そういえば、祈梨(いのり)風雅(ふうが)には懐いてたな。
茉莉(まつり)!図書室行こー」
「うん!行こ!」
 (けい)と一緒に、図書室へ向かう。
 その途中、祈梨(いのり)と会ったけれど、あからさまに顔を背けられた。
 なんでこんなに嫌われてるの……。
「今日さ、李河(りかわ)侑芽(ゆめ)の新刊出るらしいよ」
「あー、そういえばそうだったね。買うの?」
「うーん、どうしよっかなぁ……。今金欠なんだよなー。推しのグッズも買いたいし……」
 なんて、他愛もない話をする。
 それが、私の幸せな日常だった。
「……ねえ、聞いた?七海(ななみ)くん、また振ったらしいよ」
「え、そうなの!?これで何人目!?」
「っていうか、告白する人もよくできるよね。私なら絶対できないわ。振られること決まってるようなものじゃん」
 風雅(ふうが)、また女の子振ったんだ……。
 ……好きな人でも、いるのかな?
 佐木(さき)さんのこと、まだ好きなのかな……。
「……っていうかさ、七海(ななみ)くんって、中学の時、佐木(さき)さんと付き合ってたらしいよ」
「え、マジで!?じゃあ、七海(ななみ)くん、佐木(さき)さんのことが……」
「でも、七海(ななみ)くんが振ったらしいよ、佐木(さき)さんのこと。中学の卒業式に」
 いや、ちょっと違う。
 別れたのは卒業式の前日だ。
 まあ、噂なんて、所詮そんなものだ。
「良かったぁー。佐木(さき)さん、ちょっと苦手なんだよね。頭悪いくせに、なんか偉そうだし」
七海(ななみ)くんとタイプ違うよね?なんで付き合ってたんだろ」
 佐木(さき)愛結奈(あゆな)さんは、私の元クラスメイト。
 中学の頃、風雅(ふうが)と付き合っていた。
 ……そして、私に嫌がらせをしていた。
 私は、風雅(ふうが)の幼なじみだから、風雅(ふうが)とよく一緒にいた。
 それが、風雅(ふうが)のことが好きだった佐木(さき)さんは、気に入らなかったらしい。
 私は、特進理数科で、佐木(さき)さんは、一般科だから、全く関わりがないのが救いだ。
「……風雅(ふうが)ってさ、なんで佐木(さき)と付き合ったんだろうね」
「さあ?知らない。私には関係ないし。……"七海(ななみ)"のことは」
「……ホントは知りたいくせに。好きなんでしょ?ずーっと」
 そう。
 私はずっと風雅(ふうが)のことが好きだった。
 でも、想いを伝える前に、佐木(さき)さんと付き合ってしまって、その後全く話さなくなってしまった。
 風雅(ふうが)は特進科だから、関わりはない。
「……でも、ふう……七海(ななみ)は、私のこと、好きじゃないでしょ?もう話したくない、とも言われたし」


『高校に入ったら、俺たち、"他人"になろう』


風雅(ふうが)が、茉莉(まつり)のことをどう思ってるかは関係ないよ。私は、茉莉(まつり)の気持ちを聞いてるの」
「……好き、だよ。今でも」
 でも、風雅(ふうが)は私のことを嫌っているんだから、意味ないのに……。
茉莉(まつり)。……風雅(ふうが)は、本心で茉莉(まつり)にそう言ったの?……他人になろう、って」