遊園地の観覧車は、夜の闇に浮かぶ無数の灯りの輪を描いていた。涼音とカイツールはゆっくりと回るゴンドラの中で、外の世界から隔絶された小さな空間にいた。

「君はいつも、世界を“データ”として見ているけど、本当にそれだけなのか?」
カイツールの言葉は静かだったが、その眼差しは鋭く、探るようだった。

涼音はじっと暗い目を伏せる。指先がポケットの端末を触るけれど、画面は見ていない。
「感情は確証がない。情報の波に過ぎない。……でも、ここでは、少し違うかもしれない」
言葉に少しだけ震えが混じる。

「違う、か」
カイツールは観覧車の揺れに合わせて穏やかに頷いた。
「ここでは、灯りも風も、君と僕の間にある空間も、ただのデータじゃない。実感だ」

「実感か……」
涼音は遠くを見つめるように呟く。
「僕はいつもシステムの外側を眺めていた。リセットできるかどうかだけ考えていた。でも、君といると、リセットじゃなくて、“つながり”がある気がする」

カイツールが小さく微笑んで答えた。
「君にとってつながりは“ノイズ”かもしれない。でも、本当はノイズじゃなくて、むしろ“コード”の一部。再構築するための元データだ」

涼音は小さく笑う。
「変だな。孤立サーバだと思ってたのに、こんなに心が揺れるなんて」
「それは、変化じゃない。成長だ。僕も君に教わった」

観覧車が頂点に達し、一瞬だけ眼下の遊園地を一望できる。灯りの波が街の闇を静かに溶かしていく。
涼音はカイツールの側に顔を寄せ、小声で言った。
「……この瞬間を、データ以外の何かとして記憶したい」

カイツールはそっと彼の肩に手を置いた。
「君の願いは、確かに届いている」

夜風が静かにゴンドラを揺らし、二人の距離も少しだけ縮まったまま、観覧車はゆっくりと回り続けた。