カイツールまとめ

休日の午後、窓の外はわずかに霞んだ光で満ちていた。
涼音はカイツールの白いシャツの袖口を軽く掴みながら、散歩に誘われるまま玄関を出る。通りには薄い風が吹き、街路樹の影が歩道に揺れていた。

「人、多いな」
「この時間はね。だが、君のペースで歩けばいい」

カイツールの声は静かで、音よりも空気を整えるようだった。涼音は歩幅を合わせず、半歩後ろを歩く。彼の後ろ姿を“ノイズの少ない風景”として認識する。そこに干渉も混濁もない、ただ一定の秩序。

やがて二人は小さなカフェに入る。
テーブル越しに、カイツールはコーヒーをゆっくりと混ぜ、涼音はココアを指先で掬って眺めていた。
「君はどうして、現実を“ノイズ”と呼ぶ?」
涼音は瞬きを一度して答える。
「定義の不確定な情報は、最適化の邪魔になるから。……でも、お前は例外かもしれない」
カイツールの微笑は短く、それでいて柔らかかった。
「例外があると、世界は少しだけ呼吸できる」

夜、部屋に戻ると、窓辺の青い照明が二人を包む。
カイツールは文書を整理し、涼音は床に座って端末を弄っている。
沈黙は気まずさよりも、“信頼”のような静けさに満ちていた。

数日後、カイツールの車で郊外まで出る。
車窓に流れる風景は白い線と青の滲みで描かれ、涼音は思考を止めてそれを見つめていた。
「たまには見る側ではなく、触れても良い」
カイツールの言葉に、彼はわずかに頬を熱くした。
目的地の湖畔には小さな遊園地があり、観覧車に乗ると夜の街が遠く煌めいた。
照明の輪の中で、涼音はぽつりと呟いた。
「データじゃなくても、きれいだな」
カイツールは頷く。
「現実もまた、整合性を保っている。ただ、見方の問題だ」

家に戻ると、回転寿司のテイクアウトを並べ、ソファに寄りかかるように食べる涼音。
「お前、何でも整ってるよな」
「職業病だ。だが、君と居ると少し乱れる」
微かな沈黙。その“乱れ”すら心地よいノイズのように感じられた。

翌朝、柔らかな光の中、涼音はカーテンの隙間越しに呟く。
「リセットできなくてもいいかもしれない。今だけは」

カイツールはその言葉に返さず、ただ静かに隣に座った。
白い部屋に、青い光が溶けていく。