冷えた風が第八区の石畳を撫で、灰色の街並みに金属的な響きを残す。アディシェスが僕の隣を歩く。灰銀色の制服は一分の乱れもなく、腰に吊るした銀の仮面が街灯の光を受けて鋭く反射する。白い髪は左右対称に切り揃えられ、まるで機械部品のような隙のなさだ。だが虚ろな白い瞳は、何ひとつ映さない。ただ、僕の存在ですら「ノイズ」と断じるかのように。
僕は無言で歩く。不動心を保ち、青い瞳で彼の動作を観察する。アディシェスの歩幅は均一、呼吸は機械のように淡々と、もはや人間ではなく精密な装置に近い。手には「クローム・デルタ」は握られていないが、たびたび指先が腰の仮面に触れる。その仕草は無意識――あるいは、内奥の何かを抑え込むためか。
「ピサンザプラ」とアディシェスが声を発する。感情の波は宿っていない。
「君は何故、恐怖を持たない?」
僕は答えない。言葉は必要ない。その問いは私宛ではなく、彼自身の思考の断片に過ぎない。アディシェスは僕の沈黙を「データ不足」とでも判断したのか、わずかに首を傾げる。その動きすら計算された正確さだ。
彼が立ち止まる。路地裏から漏れる微かな悲鳴——僕の耳にも届くが、心は波立たない。アディシェスの瞳が一瞬、鋭い光を帯びる。「恐怖共食」が始まる前兆だ。彼はゆっくりと路地へ向かい、獲物を解剖するような無感情さで音の源を追う。「興味深いノイズだ」と呟き、仮面を手に取る。血で塗られた「無表情の仮面」の紋章が、薄暗い街路灯の下で不気味に浮かび上がった。
僕はその横に立ち、ただ観察を続ける。アディシェスは恐怖を吸収し、動きはさらに研ぎ澄まされてゆく。しかし僕には無関係。彼の能力は僕には作用しない。不動心は揺るがず、静かに在り続ける。やがてアディシェスが振り返り、僕を一瞥する。
「君は……誤差だ」
吐き捨てるような声。しかし、その奥にはかすかな苛立ちが滲む。僕の無反応が、彼の論理をわずかに乱しているのだ。
仮面を再び腰へ戻し、アディシェスは何事もなかったように歩き始める。僕はその背を追いながら思う。アディシェスは恐怖を食らい、生きる。だが自身の内に渦巻く「ノイズ」——怒り、憎悪、忌避する過去——に抗う術を持たない。それこそが、彼の唯一の弱点だ。
僕は無言で歩く。不動心を保ち、青い瞳で彼の動作を観察する。アディシェスの歩幅は均一、呼吸は機械のように淡々と、もはや人間ではなく精密な装置に近い。手には「クローム・デルタ」は握られていないが、たびたび指先が腰の仮面に触れる。その仕草は無意識――あるいは、内奥の何かを抑え込むためか。
「ピサンザプラ」とアディシェスが声を発する。感情の波は宿っていない。
「君は何故、恐怖を持たない?」
僕は答えない。言葉は必要ない。その問いは私宛ではなく、彼自身の思考の断片に過ぎない。アディシェスは僕の沈黙を「データ不足」とでも判断したのか、わずかに首を傾げる。その動きすら計算された正確さだ。
彼が立ち止まる。路地裏から漏れる微かな悲鳴——僕の耳にも届くが、心は波立たない。アディシェスの瞳が一瞬、鋭い光を帯びる。「恐怖共食」が始まる前兆だ。彼はゆっくりと路地へ向かい、獲物を解剖するような無感情さで音の源を追う。「興味深いノイズだ」と呟き、仮面を手に取る。血で塗られた「無表情の仮面」の紋章が、薄暗い街路灯の下で不気味に浮かび上がった。
僕はその横に立ち、ただ観察を続ける。アディシェスは恐怖を吸収し、動きはさらに研ぎ澄まされてゆく。しかし僕には無関係。彼の能力は僕には作用しない。不動心は揺るがず、静かに在り続ける。やがてアディシェスが振り返り、僕を一瞥する。
「君は……誤差だ」
吐き捨てるような声。しかし、その奥にはかすかな苛立ちが滲む。僕の無反応が、彼の論理をわずかに乱しているのだ。
仮面を再び腰へ戻し、アディシェスは何事もなかったように歩き始める。僕はその背を追いながら思う。アディシェスは恐怖を食らい、生きる。だが自身の内に渦巻く「ノイズ」——怒り、憎悪、忌避する過去——に抗う術を持たない。それこそが、彼の唯一の弱点だ。



