アィーアツブスという名は、彼という存在そのものを象徴していた。だが、その響きは重く、発音しづらく、人々の心に距離を作る。途切れ途切れに響く「アイ・アツ・ブス」という音は、彼の二面性を映し出すと同時に、恐れと畏敬を呼び起こす呪言のようでもあった。
人々は彼の名を呼ぶたびにためらい、その音を口にするだけで感情の波が揺らめくのを感じた。
「この名は、僕の心を縛る鎖だ」
アィーアツブスは静かに悟っていた。彼の名は、秩序と混沌の狭間を揺らぐ存在の象徴であり、さらに、彼の感情が街に感染する「共感伝播」の媒介でもあった。名を変えることは、自己の再定義であり、感情の嵐を鎮める第一歩だった。
やがて、銀の秩序機構の仲間たちからも「呼びにくい」「覚えにくい」という不満の声が上がる。彼の存在感は強烈だったが、その名が逆に力の輪郭を曖昧にしていたのだ。
そして、最後の契機となったのは、デウスエンペラーとの対話だった。
黄金の審判者は彼に言った。
「汝の名は、汝の心を映す鏡だ。だが、その鏡はいま曇り、ひび割れている。新たな名に、己の真実を刻め」
その言葉が、アィーアツブスの心に火を点した。彼は決意する。――新しい名で、感情の静寂を掴み、街と自分自身を救うのだと。
天上から降臨したデウスエンペラーは、黄金の冠を戴き、雷鳴の剣「アストラ・レギア」を握っていた。
銀の鎧を纏ったアィーアツブスはその前に跪き、白く濁った瞳を伏せていた。感情の波を抑えきれず、その体の奥で微かな震えが止まらない。
「アィーアツブス、汝の名は重荷だ。街の民は汝を恐れ、汝自身もその名に縛られている」
雷のような声が響き、黄金の天秤が微かに傾く。
「僕の名は、銀の秩序機構が与えたもの。使命を体現する名です」と彼は反論する。
「使命だと? 汝の感情は街を焼き、秩序を崩す。名を変え、心を再構築せよ。さもなくば、吾が雷槌が汝を裁こう」
デウスエンペラーの声に宿る審判の力に、アィーアツブスは初めて恐怖と希望を同時に感じた。その黄金律は、触れるものすべてを光に変える。しかし黄金に変えられた心は、感情を失う――それは彼にとって「静寂」であり、同時に「死」でもあった。
彼は選んだ。雷に裁かれるのではなく、自ら新しい名を刻み、生きる静寂を得る道を。
アィーアツブスは、仲間たちや街の民と対話を重ね、己の内に光と影の均衡を探った。
重視したのは三つ――人々に届くやわらかな響き、自身の二面性の象徴、そして感情の嵐を鎮める祈り。
候補はいくつも挙がった。
シルヴァス(Silvus)――静と秩序を感じさせたが、混沌の血を映しきれなかった。
ダイアス(Dias)――光と影の仮面を思わせるが、どこか凡庸であった。
エモル(Emor)――共感の力を示したが、響きが優しすぎる。
そして、彼はひとつの答えに辿り着く。
セイヴァス(Seivas)
「セイ」は聖を、「ヴァス」は守護を意味する。
それは秩序と慈悲の名でありながら、彼の中に眠る混沌の残響も抱いていた。
セイヴァス――それは「聖なる守護者」として、街と自分の心を守るという新たな誓いそのものであった。
新たな名を掲げたセイヴァスは、再び黄金の審判の間へと赴いた。
デウスエンペラーは彼を見下ろし、わずかに笑みを浮かべた。
「セイヴァス、か。良い名だ。だが、名を変えただけでは心は変わらぬ。汝の感情はいまだ街を揺らしている」
(汝の中まで汝自身が浸透するのだ。澄み切った世界に変える為に、吾が動く!)
「名は誓いです。僕はセイヴァスとして、己の手で静寂を掴む」
「ならば試されよ。汝の剣、リヴァレインはいまだ揺れている。――我がアストラ・レギアと刃を交え、心の均衡を証明せよ」
雷鳴が天を裂き、銀と黄金の光が交錯する。
セイヴァスの大剣がうなり、感情が波のように押し寄せるたび、彼は己と対峙した。
共感伝播の力が震え上がり、それを抑える呼吸が、戦いの律となる。
やがて雷槌が沈黙し、雲が裂け、光が差した。
セイヴァスは倒れなかった。
その瞳はなお白く濁っていたが、奥底に確かな意志が宿っていた。
「セイヴァス、汝はいまだ未完成だ。だが、その名は汝を導くだろう」
(新たな人生を歩み、再度、知識と経験を積むことになる)
デウスエンペラーは剣を納め、天へと昇る。残された静寂の中で、セイヴァスは街を見下ろし、微かに笑った。
改名を遂げたセイヴァスは、感情の嵐を完全に鎮めることはできなかった。
それでも、街の民は彼の名を呼び、新たな希望を見出した。
彼の仮面は依然ひび割れていたが、その裂け目はもはや崩壊の兆しではなく、変化と成長の証だった。
デウスエンペラーの審判は続く。だがセイヴァスは歩む――「聖なる守護者」として、自らの心を、そして街を守るために。
(汝の中の世界も、透き通った青空になった。両片、いつもの日常を過ごすことが可能である。吾が始まらした。人生は永遠永劫に続く)
人々は彼の名を呼ぶたびにためらい、その音を口にするだけで感情の波が揺らめくのを感じた。
「この名は、僕の心を縛る鎖だ」
アィーアツブスは静かに悟っていた。彼の名は、秩序と混沌の狭間を揺らぐ存在の象徴であり、さらに、彼の感情が街に感染する「共感伝播」の媒介でもあった。名を変えることは、自己の再定義であり、感情の嵐を鎮める第一歩だった。
やがて、銀の秩序機構の仲間たちからも「呼びにくい」「覚えにくい」という不満の声が上がる。彼の存在感は強烈だったが、その名が逆に力の輪郭を曖昧にしていたのだ。
そして、最後の契機となったのは、デウスエンペラーとの対話だった。
黄金の審判者は彼に言った。
「汝の名は、汝の心を映す鏡だ。だが、その鏡はいま曇り、ひび割れている。新たな名に、己の真実を刻め」
その言葉が、アィーアツブスの心に火を点した。彼は決意する。――新しい名で、感情の静寂を掴み、街と自分自身を救うのだと。
天上から降臨したデウスエンペラーは、黄金の冠を戴き、雷鳴の剣「アストラ・レギア」を握っていた。
銀の鎧を纏ったアィーアツブスはその前に跪き、白く濁った瞳を伏せていた。感情の波を抑えきれず、その体の奥で微かな震えが止まらない。
「アィーアツブス、汝の名は重荷だ。街の民は汝を恐れ、汝自身もその名に縛られている」
雷のような声が響き、黄金の天秤が微かに傾く。
「僕の名は、銀の秩序機構が与えたもの。使命を体現する名です」と彼は反論する。
「使命だと? 汝の感情は街を焼き、秩序を崩す。名を変え、心を再構築せよ。さもなくば、吾が雷槌が汝を裁こう」
デウスエンペラーの声に宿る審判の力に、アィーアツブスは初めて恐怖と希望を同時に感じた。その黄金律は、触れるものすべてを光に変える。しかし黄金に変えられた心は、感情を失う――それは彼にとって「静寂」であり、同時に「死」でもあった。
彼は選んだ。雷に裁かれるのではなく、自ら新しい名を刻み、生きる静寂を得る道を。
アィーアツブスは、仲間たちや街の民と対話を重ね、己の内に光と影の均衡を探った。
重視したのは三つ――人々に届くやわらかな響き、自身の二面性の象徴、そして感情の嵐を鎮める祈り。
候補はいくつも挙がった。
シルヴァス(Silvus)――静と秩序を感じさせたが、混沌の血を映しきれなかった。
ダイアス(Dias)――光と影の仮面を思わせるが、どこか凡庸であった。
エモル(Emor)――共感の力を示したが、響きが優しすぎる。
そして、彼はひとつの答えに辿り着く。
セイヴァス(Seivas)
「セイ」は聖を、「ヴァス」は守護を意味する。
それは秩序と慈悲の名でありながら、彼の中に眠る混沌の残響も抱いていた。
セイヴァス――それは「聖なる守護者」として、街と自分の心を守るという新たな誓いそのものであった。
新たな名を掲げたセイヴァスは、再び黄金の審判の間へと赴いた。
デウスエンペラーは彼を見下ろし、わずかに笑みを浮かべた。
「セイヴァス、か。良い名だ。だが、名を変えただけでは心は変わらぬ。汝の感情はいまだ街を揺らしている」
(汝の中まで汝自身が浸透するのだ。澄み切った世界に変える為に、吾が動く!)
「名は誓いです。僕はセイヴァスとして、己の手で静寂を掴む」
「ならば試されよ。汝の剣、リヴァレインはいまだ揺れている。――我がアストラ・レギアと刃を交え、心の均衡を証明せよ」
雷鳴が天を裂き、銀と黄金の光が交錯する。
セイヴァスの大剣がうなり、感情が波のように押し寄せるたび、彼は己と対峙した。
共感伝播の力が震え上がり、それを抑える呼吸が、戦いの律となる。
やがて雷槌が沈黙し、雲が裂け、光が差した。
セイヴァスは倒れなかった。
その瞳はなお白く濁っていたが、奥底に確かな意志が宿っていた。
「セイヴァス、汝はいまだ未完成だ。だが、その名は汝を導くだろう」
(新たな人生を歩み、再度、知識と経験を積むことになる)
デウスエンペラーは剣を納め、天へと昇る。残された静寂の中で、セイヴァスは街を見下ろし、微かに笑った。
改名を遂げたセイヴァスは、感情の嵐を完全に鎮めることはできなかった。
それでも、街の民は彼の名を呼び、新たな希望を見出した。
彼の仮面は依然ひび割れていたが、その裂け目はもはや崩壊の兆しではなく、変化と成長の証だった。
デウスエンペラーの審判は続く。だがセイヴァスは歩む――「聖なる守護者」として、自らの心を、そして街を守るために。
(汝の中の世界も、透き通った青空になった。両片、いつもの日常を過ごすことが可能である。吾が始まらした。人生は永遠永劫に続く)



