創世紀 裂けた銀の都
遥か昔、白い街「銀の都」は、純白の大理石と銀の霧に守られた理想郷だった。
地平線まで続く白の石畳、雲のように柔らかな宮殿、永遠に薄曇る空の下で、人々は争いなく穏やかに暮らしていた。

その中心にそびえる「銀灯台」は、街を照らす永遠の光源であり、光は人々の心に調和をもたらし、感情の嵐を鎮める力を持っていた。

だが、約三百年前、「黒霧の災厄」が訪れる。
地平線の果てから湧き上がった漆黒の霧が銀灯台の光を呑み込み、都の心を蝕みはじめた。霧は人々の感情を歪め、喜びを狂乱に、悲しみを絶望へと変えていった。
やがて街は“歓の民”と“哀の民”に裂かれ、白い石畳は血に染まった。

この混沌の最中、初代の銀衛団が誕生する。
灯台の守護者「白銀の賢者」エリシオンが生き残った戦士たちを集め、銀の誓いを立てたのだ。

「光は裂けても、調和は滅びぬ。我らは銀の意志なり」

エリシオンは自らの白髪を銀糸へと変え、灯台の残光を鎧に宿す。
こうして集った十名の戦士たちは、白銀の鎧を纏い、双剣を携えて霧の中心へと赴いた。

創設の戦い 情と理の対立
銀衛団の象徴「情理ノ調和」の双剣は、この戦いに遡る。
エリシオンは灯台の聖晶から二振りの刃を鍛え上げた。

- 「情」:赤く脈動する刃。歓の民の情熱を増幅し、黒霧を焼き払う。
- 「理」:青く冷たい刃。哀の民の理性を呼び覚まし、混沌を凍らせる。

初代団員たちは二振りの剣を交互に振るい、互いの感情を補い合って戦った。
だが戦の果てに、エリシオンはひとつの真実に辿り着く。
黒霧とは、外から来た敵ではなく――都民自身の心の闇が具現化したものだったのだ。

霧を払うために必要なのは、情と理の対立ではなく、その融合。

最終決戦で、エリシオンは双剣を灯台の頂に突き立て、聖晶の光を解き放った。
赤と青の刃は融け合い、淡く輝く銀となる。
そうして生まれたのが、「情理ノ調和」であった。

霧は浄化され、銀灯台の光は再び蘇る。
裂かれた都は再生し、白の大地に静かな希望が戻った。

銀衛団の掟と紋章
この戦いの後、銀衛団は正式な秩序として組織される。
創設の教訓から、三つの掟が定められた。

1. 融和の誓い:感情と理性を均衡せよ。対立は滅びの種なり。
2. 共鳴の守り:市民の心に寄り添え。力は裁きではなく救済のために。
3. 白銀の沈黙:言葉より行動を。観察し、調和を保て。

銀衛団の紋章「融和の仮面」は、かつて対立した“歓”と“哀”の面が重なり合う意匠であり、光と影の均衡を象徴する。
その象徴は、今も団員たちの胸に刻まれている。

系譜と現代 アィーアツブスの継承
銀衛団は代々、灯台の守護官を上級巡回官として戴く。
エリシオンの血統はすでに途絶えたが、その意志は「感情共鳴」の力として受け継がれた。

三百年の時を経て、アィーアツブスが現れる。
彼は初めての「完全共鳴者」として、初代の双剣を再現し、赤い脈動を純銀の光へと昇華させた。

今日、銀衛団は都市中央の守護組織として、観察者アルジーヌのような記録者と、アィーアツブスのような守護者を擁している。
彼らは黒霧の再来を防ぐため、地平線を巡回し、白い街の調和を永遠に守り続ける。

銀灯台の光はいまも静かに瞬く。
起源の記憶を胸に、銀衛団は歩み続ける――
悲しみもまた、分かち合えば光になる。