白い街は、地平線の果てまで続いていた。
石畳の道は純白の雲のように柔らかく、建物の壁は銀の霧をまとう大理石でできている。風が吹くたび、街全体が淡く揺れ、光の粒がひとしずくずつ零れていくようだった。
空は永遠の薄曇り。太陽の光は刺すことなく降り注ぎ、影さえも白く染め上げる。ここは「銀の都」──銀衛団が守る聖域。争いの記憶は遠のき、静かな調和だけが息づいていた。
アルジーヌは無言のまま歩いていた。
屈強な体躯に白い髪が風に流れ、白色の瞳が周囲を鋭く観察する。胸元の銀徽章が巡回官としての誇りを示す唯一の証。腰には小さなポーチを一つだけ。
言葉を発さず、通りの隅々まで目を配る。その姿は、静寂そのものを守る影のようであった。
その隣を、アィーアツブスが穏やかに歩く。
白銀の鎧は柔らかな光を宿し、長い白髪が風にたなびく。淡い灰色の瞳は、すれ違う市民たちに微笑を返していた。背には双剣「情理ノ調和」
かつて紅く脈動した刃は、今や凪いだ銀光を放ち、調和の象徴として静かに息づいている。
彼は銀灯の守護官、上級巡回官。市民の心に寄り添う「微笑む哨戒官」だった。
二人は地平線をめざして歩く。言葉はない。
アルジーヌの冷静な観察が、アィーアツブスの静かな思慮を補い、二人の歩みはひとつの律動を刻んでいた。
やがて、街の中心広場に差しかかった。白い石畳の上で、子どもたちが遊ぶ。ひとりの少女が転び、膝を擦りむいて泣き出した。
アルジーヌの白色の瞳が素早く動く。異常か。脅威か。
だがアィーアツブスは歩みを止め、膝をついた。
「大丈夫だよ。痛いね。でも、みんながいるよ」
その声は静かに、しかし確かに空気を震わせた。
淡い灰色の瞳に宿る共鳴が少女の心を包み、悲しみが安らぎに変わる。少女は涙を拭い、微笑を取り戻した。
その瞬間、アィーアツブスの胸の紋章――「融和の仮面」が白光を放つ。
歓と哀が重なり合い、光と影の均衡が鎧の奥で息づいていた。
アルジーヌは一瞬だけ瞳を細め、少女を見つめた。異常なし。脅威なし。
彼は満足げに無言で立ち上がり、再び歩き出した。
やがて、街の外縁――白い畑が広がる。
風が強く、穂は波のように揺れる。老人の吐いた溜息が、風に溶けた。
アルジーヌは影を探るように鋭い眼差しを向ける。風の流れ、土の色、些細な異変を逃さない。
アィーアツブスは老人のそばに歩み寄り、双剣の柄に触れた。戦のためではない、心を救うために。
「悲しみもまた、分かち合えば光になる」
その言葉が風に乗り、畑を渡る。
感情共鳴が広がり、作物の葉が光を受けて一瞬だけ白く輝いた。
老人はまばたきをし、微笑んで立ち上がる。
アルジーヌはその様子を見届け、無言のまま頷いた。均衡が保たれた。街の調和は、完璧だ。
やがて、地平線が見えた。街の果ては白い霧に溶け込み、無限の平穏を約束している。
二人は立ち止まり、並んでその光景を見つめた。
アルジーヌの白い瞳に理が宿り、アィーアツブスの灰の瞳に情が灯る。
言葉はない。ただ、二人の守護が白い街を包み、静寂が永遠を誓った。
霧の向こうで、銀の灯が静かに瞬いた。
石畳の道は純白の雲のように柔らかく、建物の壁は銀の霧をまとう大理石でできている。風が吹くたび、街全体が淡く揺れ、光の粒がひとしずくずつ零れていくようだった。
空は永遠の薄曇り。太陽の光は刺すことなく降り注ぎ、影さえも白く染め上げる。ここは「銀の都」──銀衛団が守る聖域。争いの記憶は遠のき、静かな調和だけが息づいていた。
アルジーヌは無言のまま歩いていた。
屈強な体躯に白い髪が風に流れ、白色の瞳が周囲を鋭く観察する。胸元の銀徽章が巡回官としての誇りを示す唯一の証。腰には小さなポーチを一つだけ。
言葉を発さず、通りの隅々まで目を配る。その姿は、静寂そのものを守る影のようであった。
その隣を、アィーアツブスが穏やかに歩く。
白銀の鎧は柔らかな光を宿し、長い白髪が風にたなびく。淡い灰色の瞳は、すれ違う市民たちに微笑を返していた。背には双剣「情理ノ調和」
かつて紅く脈動した刃は、今や凪いだ銀光を放ち、調和の象徴として静かに息づいている。
彼は銀灯の守護官、上級巡回官。市民の心に寄り添う「微笑む哨戒官」だった。
二人は地平線をめざして歩く。言葉はない。
アルジーヌの冷静な観察が、アィーアツブスの静かな思慮を補い、二人の歩みはひとつの律動を刻んでいた。
やがて、街の中心広場に差しかかった。白い石畳の上で、子どもたちが遊ぶ。ひとりの少女が転び、膝を擦りむいて泣き出した。
アルジーヌの白色の瞳が素早く動く。異常か。脅威か。
だがアィーアツブスは歩みを止め、膝をついた。
「大丈夫だよ。痛いね。でも、みんながいるよ」
その声は静かに、しかし確かに空気を震わせた。
淡い灰色の瞳に宿る共鳴が少女の心を包み、悲しみが安らぎに変わる。少女は涙を拭い、微笑を取り戻した。
その瞬間、アィーアツブスの胸の紋章――「融和の仮面」が白光を放つ。
歓と哀が重なり合い、光と影の均衡が鎧の奥で息づいていた。
アルジーヌは一瞬だけ瞳を細め、少女を見つめた。異常なし。脅威なし。
彼は満足げに無言で立ち上がり、再び歩き出した。
やがて、街の外縁――白い畑が広がる。
風が強く、穂は波のように揺れる。老人の吐いた溜息が、風に溶けた。
アルジーヌは影を探るように鋭い眼差しを向ける。風の流れ、土の色、些細な異変を逃さない。
アィーアツブスは老人のそばに歩み寄り、双剣の柄に触れた。戦のためではない、心を救うために。
「悲しみもまた、分かち合えば光になる」
その言葉が風に乗り、畑を渡る。
感情共鳴が広がり、作物の葉が光を受けて一瞬だけ白く輝いた。
老人はまばたきをし、微笑んで立ち上がる。
アルジーヌはその様子を見届け、無言のまま頷いた。均衡が保たれた。街の調和は、完璧だ。
やがて、地平線が見えた。街の果ては白い霧に溶け込み、無限の平穏を約束している。
二人は立ち止まり、並んでその光景を見つめた。
アルジーヌの白い瞳に理が宿り、アィーアツブスの灰の瞳に情が灯る。
言葉はない。ただ、二人の守護が白い街を包み、静寂が永遠を誓った。
霧の向こうで、銀の灯が静かに瞬いた。



