『純白秩序局史概論 ― 〈白の理想〉の変遷をめぐって ―』
初版:第八紀・蒼歴年 2024年
編纂:中央史学委員会「宗秩研究部会」
第一章 神話的起源と白き預言の時代
純白秩序局(The Bureau of Pure Order)の起源は、いわゆる「白き神託伝承(Oracle of the Pure)」に求められる。この伝承は、太古の多色信仰の崩壊期に生まれ、預言者セラヴィエルによる教示を中心として形成された。
古文書「白翼副録(Fragmenta Albalis)」によれば、セラヴィエルは「色を拒む白」を宇宙秩序の根本原理と定義したとされる。同時期の口伝資料では、彼が血肉を媒介として結界的な聖域を創出し、そこに「異色の浄化」現象を発現させたという記述が残る。この聖域が後世の「純白領域(Locus Albus)」の原型となったことは周知の事実である。
第二章 組織化と教義体系の確立(中世中期〜近代前期)
純白秩序局が宗教的団体から政治的・組織的権威を帯びるのは、およそ800年前、いわゆる「彩色の嵐戦乱」以後である。この戦乱は異端勢力の蜂起とされ、白の信徒による反乱鎮圧過程で「局(Bureau)」の名が公式に使用されたことが確認されている。
教義上、この時代に「白=絶対純」「他色=穢れ」とする価値体系が明文化された。結果として、白鎧をまとった聖兵「白衛士(Albian Guard)」が創出され、異端審問制度が確立する。しかし、同時代の地下文献には、「白の過熱信仰と内部腐食」の萌芽も確認され、すでに教団内部における精神的二重構造 ――すなわち「浄化」と「羨望」―― が指摘されている。
第三章 大浄化戦争と超国家的支配の成立(近世期)
大浄化戦争(1789–1815)は、後世の史学において局の歴史的転換点とされる。
当時、世界各地で勃発した「虹の連合(Coalition of Spectrum)」による多色主義の台頭に対応するため、局は全機能を戦時体制に転換した。伝承上の「銀将軍(General Argent)」の指揮下で実施された〈大領域展開〉作戦は、現象的には「高次純化波」の発動と解釈されるが、同時代の観測記録では環境変質や精神干渉現象も確認されている。
戦後、局は国家を超越した監察機関へと進化し、「異端検閲」「純白法典」といった行政的装置を整備した。19世紀末には大陸全域に白大聖堂が建立され、銀警官(Argent Officer)職制が制度化された。
第四章 世俗の侵入と信仰構造の崩壊(20世紀〜現代)
20世紀初頭、技術・思想両面での多様化が急速に進行した。局はこれを「穢れの拡散」と定義し、都市圏への「純白領域」展開を強化した。
しかし1947年、「灰色の反乱(Revolt of Grey)」が発生。内部改革派と過激排他派の抗争により数多の記録が失われ、信条体系の正統性は揺らぐこととなる。
21世紀初頭、局は表舞台から姿を消し、現在では主に非公的な「秩序維持局」または「陰の監察機構」として機能しているとされる。都市伝承の領域では、銀警官シェリダーの名が象徴的存在として語られ、彼の機械的な行動様式が「儀式化された監視」として記録されている。同時に、観測者ピサンザプラに関する証言は、局の末期的観察構造の暗喩と見なされている。
結語:純白思想の終焉と再定義
純白秩序局が掲げた理念――「色を拒むことによる秩序」――は、宗教的熱狂として生まれ、政治的制度として成熟し、やがて形骸化の果てに自己崩壊を迎えた。だが、残された史料の中で繰り返し確認されるのは、「白は穢れを浄化する」のではなく、「穢れなき定義に怯える」存在であったという自己矛盾である。
結局、純白とは「欠如」ではなく「選択」であった。その真意をどう解釈すべきか――今なお、研究者たちの間で論争が続いている。
参考文献
『白翼副録』写本C2章節、中央史料庫蔵。
「聖域創出の神学的分析」カレドン学派論文集(旧神学院、107頁)。
『彩色戦乱記録集』第八篇、対抗教団史料群。
ハルバ・ロニエ「純白神学の二重性」、旧秩序哲学紀要 Vol.14。
大浄化戦争記録Ⅰ:「銀将軍日誌抄録」、局史研究所刊。
『灰色の反乱証言録』未公開資料、E-47機密区画より。
「シェリダー報告集 ― 終章の巡回記録」、匿名筆写本、白望文庫所蔵。
初版:第八紀・蒼歴年 2024年
編纂:中央史学委員会「宗秩研究部会」
第一章 神話的起源と白き預言の時代
純白秩序局(The Bureau of Pure Order)の起源は、いわゆる「白き神託伝承(Oracle of the Pure)」に求められる。この伝承は、太古の多色信仰の崩壊期に生まれ、預言者セラヴィエルによる教示を中心として形成された。
古文書「白翼副録(Fragmenta Albalis)」によれば、セラヴィエルは「色を拒む白」を宇宙秩序の根本原理と定義したとされる。同時期の口伝資料では、彼が血肉を媒介として結界的な聖域を創出し、そこに「異色の浄化」現象を発現させたという記述が残る。この聖域が後世の「純白領域(Locus Albus)」の原型となったことは周知の事実である。
第二章 組織化と教義体系の確立(中世中期〜近代前期)
純白秩序局が宗教的団体から政治的・組織的権威を帯びるのは、およそ800年前、いわゆる「彩色の嵐戦乱」以後である。この戦乱は異端勢力の蜂起とされ、白の信徒による反乱鎮圧過程で「局(Bureau)」の名が公式に使用されたことが確認されている。
教義上、この時代に「白=絶対純」「他色=穢れ」とする価値体系が明文化された。結果として、白鎧をまとった聖兵「白衛士(Albian Guard)」が創出され、異端審問制度が確立する。しかし、同時代の地下文献には、「白の過熱信仰と内部腐食」の萌芽も確認され、すでに教団内部における精神的二重構造 ――すなわち「浄化」と「羨望」―― が指摘されている。
第三章 大浄化戦争と超国家的支配の成立(近世期)
大浄化戦争(1789–1815)は、後世の史学において局の歴史的転換点とされる。
当時、世界各地で勃発した「虹の連合(Coalition of Spectrum)」による多色主義の台頭に対応するため、局は全機能を戦時体制に転換した。伝承上の「銀将軍(General Argent)」の指揮下で実施された〈大領域展開〉作戦は、現象的には「高次純化波」の発動と解釈されるが、同時代の観測記録では環境変質や精神干渉現象も確認されている。
戦後、局は国家を超越した監察機関へと進化し、「異端検閲」「純白法典」といった行政的装置を整備した。19世紀末には大陸全域に白大聖堂が建立され、銀警官(Argent Officer)職制が制度化された。
第四章 世俗の侵入と信仰構造の崩壊(20世紀〜現代)
20世紀初頭、技術・思想両面での多様化が急速に進行した。局はこれを「穢れの拡散」と定義し、都市圏への「純白領域」展開を強化した。
しかし1947年、「灰色の反乱(Revolt of Grey)」が発生。内部改革派と過激排他派の抗争により数多の記録が失われ、信条体系の正統性は揺らぐこととなる。
21世紀初頭、局は表舞台から姿を消し、現在では主に非公的な「秩序維持局」または「陰の監察機構」として機能しているとされる。都市伝承の領域では、銀警官シェリダーの名が象徴的存在として語られ、彼の機械的な行動様式が「儀式化された監視」として記録されている。同時に、観測者ピサンザプラに関する証言は、局の末期的観察構造の暗喩と見なされている。
結語:純白思想の終焉と再定義
純白秩序局が掲げた理念――「色を拒むことによる秩序」――は、宗教的熱狂として生まれ、政治的制度として成熟し、やがて形骸化の果てに自己崩壊を迎えた。だが、残された史料の中で繰り返し確認されるのは、「白は穢れを浄化する」のではなく、「穢れなき定義に怯える」存在であったという自己矛盾である。
結局、純白とは「欠如」ではなく「選択」であった。その真意をどう解釈すべきか――今なお、研究者たちの間で論争が続いている。
参考文献
『白翼副録』写本C2章節、中央史料庫蔵。
「聖域創出の神学的分析」カレドン学派論文集(旧神学院、107頁)。
『彩色戦乱記録集』第八篇、対抗教団史料群。
ハルバ・ロニエ「純白神学の二重性」、旧秩序哲学紀要 Vol.14。
大浄化戦争記録Ⅰ:「銀将軍日誌抄録」、局史研究所刊。
『灰色の反乱証言録』未公開資料、E-47機密区画より。
「シェリダー報告集 ― 終章の巡回記録」、匿名筆写本、白望文庫所蔵。



