静かな石畳の道を、ピサンザプラとシェリダーは並んで歩いていた。薄く漂う朝霧の中、シェリダーの白鎧が青白く光を反射し、まるで命を宿した彫像のようだ。彼の白髪は淡く揺れ、硬質な冷気を纏っている。その姿には、祈りよりも戒律を思わせる厳粛さがあった。
 対するピサンザプラは無言のまま、少年らしい華奢な体つきで歩調を合わせていた。彼の眼差しは一瞬たりともシェリダーを離さず、その動き、思考、呼吸のリズムまでも測るように観察している。その瞳には感情の揺らぎがなく、ただ真理を映す鏡のような静けさだけがあった。

 シェリダーの足音は規則正しく、まるで無機質なメトロノームのように空気を刻む。視線は前方へと固定され、道端の赤い花にも、色づき始めた木々の葉にも一瞥すらくれない。彼の心は「汚染」と呼ぶものすべてを排除しようとしていた。ピサンザプラはその横顔を見つめ、わずかに首を傾げる。彼の眼に映るのは、純白を崇める超信念の横顔と、その奥底に隠れた罅のようなものだった。

 そのとき、道の先に小さな影が現れた。泥だらけの服を着た少女が、赤いリンゴを手にして笑っている。
 シェリダーの足が止まった。淡い白の瞳が少女を捉え、氷のように硬く光る。「純白の秩序」が発動する予兆が、空気をわずかに震わせた。ピサンザプラは一歩、静かに近づく。観察を続けるために。

 「……穢れだ」
 低く響く声とともに、長剣〈セラヴィエル〉が鞘から抜かれようとしたその瞬間、ピサンザプラの指先がシェリダーの腕に触れた。白い鎧にかすかに響いたその感触が、彼の動きを止める。振り返ったシェリダーの眼に、一瞬だけ動揺の色が走った。

 「なぜだ」
 押し殺したような声が漏れる。しかしピサンザプラは何も言わず、ただ少女の方を指し示すだけだった。

 少女はリンゴをかじりながら、無邪気に笑っている。シェリダーの顔に、微かな亀裂が走った。
「純粋さ」を守ろうとする超信念が、今まさに少女の笑顔を「穢れ」と断じようとしている。その矛盾が、彼自身の内に鋭く食い込む。ピサンザプラはその変化を見逃さない。彼の無垢な瞳は、白の騎士の内に潜む恐怖と羨望を、揺らぎなく映していた。

 やがてシェリダーは剣を収め、少女を一瞥もせずに歩き出す。ただ、その足取りはわずかに乱れていた。ピサンザプラは無言で後を追い、彼の背を見つめ続ける。その背に宿る「白の純粋さ」の脆さを、静かに、確かに見極めるように。