「玲乃……ほんとにこれ好きだね」
「んー? 小さい頃からしてるから安心するのー」
ソファの上に寝そべる玲乃の頭を僕が膝枕して座る。
玲乃の緩めたネクタイの隙間から粉雪のように白い肌が見えて僕はそっと目線をずらした。何か見てはいけないようなものを見てしまった気持ちがして胸がざわめく。
「ねえ。よしよしして」
潤んだ瞳で見上げてくる玲乃の表情の破壊力に、僕は身体に雷が落ちたような衝撃を受ける。
『あれ』というのは、僕が玲乃のことを膝枕して頭をよしよしする行動を指す言葉だ。玲乃はこれがお気に入りらしく昔から何度もお願いしてくる。本人曰くとても癒されるのだという。
「……はいはい」
白く染められた玲乃の髪の毛を優しく撫でると、玲乃は気持ちよさそうに目を細めて口をにんまりとさせた。
玲乃の髪型は中華ウルフというヘアスタイルらしい。前に得意げに教えてくれた。最近のメンズヘアスタイルのトレンドらしい。
少し襟足が長いのもあってか、玲乃が中性的に見えるときがある。
玲乃が幼稚園生の頃は女の子と間違われたことも多かった。僕も然りで、玲乃と睦が公園で遊んでいると近所のおばちゃんたちが『かわいいお姫様たちねえ』と褒めてくれたものだ。
玲乃の髪の毛はブリーチしているにも関わらず傷んでいるようには見えない。おそらく日々のヘアケアに気を遣っているんだろうなとおしゃれに無知な僕でもわかった。
「なんか玲乃、これしてるとおっきな赤ちゃんみたいだよ」
たまには少し意地悪を言ってみようと思い、前々から思っていたことを伝えてみると玲乃の返事は想像を遥かに上回っていた。
「俺、赤ちゃんに戻れるなら睦に育てて欲しかった。睦の作ってくれる離乳食なら一生懸命食べる。そしたらこんな悪い子に育ってないのに」
「……っいや、玲乃はそんな悪い子じゃないよ。良い子だよ」
思わず髪を撫でていた手を止める。手持ち無沙汰な心は空中に浮遊したまま。
「もしもの話。でも今の俺、睦にとって良い子ならいーよ」
いつもみたいな冗談かと思って玲乃の顔を見下ろすと、その表情は真剣そのものだった。
玲乃はときどき冗談の中に真剣な話を入れてくることがある。それは年に数回あるかないかの頻度で、決まって玲乃と2人きりのときに起こる恒例行事のようなものだった。だから僕はあまり深く考えずに微笑みながら返す。
「僕は玲乃のことおにいちゃんだと思ってるよ。今みたいにときどき赤ちゃん返りするときもあるけどね」
玲乃はくるりと僕に背中を向けて目を伏せて呟いた。
「……おにいちゃん、か」
「うん。小さい頃からいつも僕を引っ張って色んなところに連れて行ってくれるし、今日みたいに晩御飯も作ってくれるし。僕、ひとりっ子だけど玲乃みたいなおにいちゃんがいるから何があっても平気なんだ」
「……」
嘘偽りのない本心だった。微笑を浮かべてそう伝えると、玲乃の反応がなかった。
返事はなかった。
でも、胸元で小さく上下する呼吸に、僕は安心してしまう。
この距離が当たり前で、
この時間がいつまでも続くものだと、どこかで信じていた。
──きっと、間違ってなんていない。
そう自分に言い聞かせるようにして、僕は目を閉じた。
「んー? 小さい頃からしてるから安心するのー」
ソファの上に寝そべる玲乃の頭を僕が膝枕して座る。
玲乃の緩めたネクタイの隙間から粉雪のように白い肌が見えて僕はそっと目線をずらした。何か見てはいけないようなものを見てしまった気持ちがして胸がざわめく。
「ねえ。よしよしして」
潤んだ瞳で見上げてくる玲乃の表情の破壊力に、僕は身体に雷が落ちたような衝撃を受ける。
『あれ』というのは、僕が玲乃のことを膝枕して頭をよしよしする行動を指す言葉だ。玲乃はこれがお気に入りらしく昔から何度もお願いしてくる。本人曰くとても癒されるのだという。
「……はいはい」
白く染められた玲乃の髪の毛を優しく撫でると、玲乃は気持ちよさそうに目を細めて口をにんまりとさせた。
玲乃の髪型は中華ウルフというヘアスタイルらしい。前に得意げに教えてくれた。最近のメンズヘアスタイルのトレンドらしい。
少し襟足が長いのもあってか、玲乃が中性的に見えるときがある。
玲乃が幼稚園生の頃は女の子と間違われたことも多かった。僕も然りで、玲乃と睦が公園で遊んでいると近所のおばちゃんたちが『かわいいお姫様たちねえ』と褒めてくれたものだ。
玲乃の髪の毛はブリーチしているにも関わらず傷んでいるようには見えない。おそらく日々のヘアケアに気を遣っているんだろうなとおしゃれに無知な僕でもわかった。
「なんか玲乃、これしてるとおっきな赤ちゃんみたいだよ」
たまには少し意地悪を言ってみようと思い、前々から思っていたことを伝えてみると玲乃の返事は想像を遥かに上回っていた。
「俺、赤ちゃんに戻れるなら睦に育てて欲しかった。睦の作ってくれる離乳食なら一生懸命食べる。そしたらこんな悪い子に育ってないのに」
「……っいや、玲乃はそんな悪い子じゃないよ。良い子だよ」
思わず髪を撫でていた手を止める。手持ち無沙汰な心は空中に浮遊したまま。
「もしもの話。でも今の俺、睦にとって良い子ならいーよ」
いつもみたいな冗談かと思って玲乃の顔を見下ろすと、その表情は真剣そのものだった。
玲乃はときどき冗談の中に真剣な話を入れてくることがある。それは年に数回あるかないかの頻度で、決まって玲乃と2人きりのときに起こる恒例行事のようなものだった。だから僕はあまり深く考えずに微笑みながら返す。
「僕は玲乃のことおにいちゃんだと思ってるよ。今みたいにときどき赤ちゃん返りするときもあるけどね」
玲乃はくるりと僕に背中を向けて目を伏せて呟いた。
「……おにいちゃん、か」
「うん。小さい頃からいつも僕を引っ張って色んなところに連れて行ってくれるし、今日みたいに晩御飯も作ってくれるし。僕、ひとりっ子だけど玲乃みたいなおにいちゃんがいるから何があっても平気なんだ」
「……」
嘘偽りのない本心だった。微笑を浮かべてそう伝えると、玲乃の反応がなかった。
返事はなかった。
でも、胸元で小さく上下する呼吸に、僕は安心してしまう。
この距離が当たり前で、
この時間がいつまでも続くものだと、どこかで信じていた。
──きっと、間違ってなんていない。
そう自分に言い聞かせるようにして、僕は目を閉じた。



