ふと目を覚ますと窓の外が暗くなっていた。スマホの時計を見ると午後の8時を指している。だいぶ眠り込んでしまったようだ。俺の目に飛び込んできたものに、思わず笑みが溢れてしまう。珍しく睦がローテーブルに両腕をのせて眠っていた。背中が寝息と共にゆっくりと穏やかに上下している。
「かわいい……」
俺は寝ている睦の後頭部をくしゃりと優しく撫でた。柔らかい羽毛のような艶びた黒髪が妙に色っぽい。
睦の艶々とした黒髪には部屋の照明に反射して天使の輪っかが浮かんでいる。いかにも清楚そうな黒髪のマッシュに近い髪型。前髪がほんの少し、気持ち程度目元にかかっていて、それがミステリアスな雰囲気を醸し出している。
俺はちょっかいを出したい気持ちを抑えながら、起こしてしまわないようにそっとベッドから降りる。
ベッドの端にかけてある白くてぽこぽことしたラビットファーのブランケットを睦の背中にかけた。
そのままダイニングキッチンへ向かい、夕食の準備を始める。
俺は今一人暮らしをしている。両親が俺が高校入学と同時にオーストラリアに転勤したためだ。
両親の本業はモデルで数度パリコレのランウェイを歩いた。本業の傍ら、サーフィンやウェイクボード、パラセーリングなどマリンスポーツのインストラクターとしても働いている。
父は祖父から受け継いだ不動産会社を経営していて、数字に明るい。母は弁護士として生計を立てている。
高校の弁論大会では全国1位になったのだと、酒がまわるとよく自慢する。口喧嘩では母の前では父も玲乃も両手を上げて平伏すのみだ。
家族仲は程よい距離で面倒見がよく、それでいて適切な距離で放任されていた。現在通っている私立の天満高校に入学することも両親は快く受け入れてくれた。あの日の父からの言葉が胸に浮かんだ。
『玲乃。学費は気にしなくていい。学生の間はとことん遊び尽くせ。そして信頼できる友人を数人でいい。見つけなさい。それはお前の人生を限りなく豊かにする手助けになるだろうから』
その言葉通り学生生活は順風満帆といったところだ。
交友関係を広げるために高校生になってから今まで非公開で投稿していたSNSを公開してみたら、ドカンとフォロワーの数が増えた。
鍵アカウントのときは顔見知りの繋がりで100人くらいしかいなかったのに、高校2年生の今はフォロワーが10万人を超えている。
何がそんなに刺さるのか自分に自覚がないから「無自覚クズ男」とレッテルを貼られカテゴライズされることも多い。だが特に気にしてはいない。
俺は『己は己、他人は他人』と割り切っている。それと『来る者拒まず去るもの追わず』という言葉も気に入っている。
玲乃の中ではたったひとり、大切な友人がいればそれでよかった。けれど高校に入学してからは友人として見れているかたまに不安に駆られることもある。
もっと近しい人間として家族のように安心して接することができる友人である睦を友人以上の存在として見てしまうのも確かだった。
俺にとって睦は、友人だ。
それ以上の言葉を当てはめる必要はない。
ぼーっとそんなことを考えている間にも手先は器用に下準備を進めていた。
さて。今日も睦のお腹を俺の手料理でぽんぽこりんにするんだ。
それができるのは、俺だけでいい。
フライパンにオリーブオイルを数滴垂らして熱する。時たま振る舞う睦への料理を作る時間がこの上なく幸せだった。
「かわいい……」
俺は寝ている睦の後頭部をくしゃりと優しく撫でた。柔らかい羽毛のような艶びた黒髪が妙に色っぽい。
睦の艶々とした黒髪には部屋の照明に反射して天使の輪っかが浮かんでいる。いかにも清楚そうな黒髪のマッシュに近い髪型。前髪がほんの少し、気持ち程度目元にかかっていて、それがミステリアスな雰囲気を醸し出している。
俺はちょっかいを出したい気持ちを抑えながら、起こしてしまわないようにそっとベッドから降りる。
ベッドの端にかけてある白くてぽこぽことしたラビットファーのブランケットを睦の背中にかけた。
そのままダイニングキッチンへ向かい、夕食の準備を始める。
俺は今一人暮らしをしている。両親が俺が高校入学と同時にオーストラリアに転勤したためだ。
両親の本業はモデルで数度パリコレのランウェイを歩いた。本業の傍ら、サーフィンやウェイクボード、パラセーリングなどマリンスポーツのインストラクターとしても働いている。
父は祖父から受け継いだ不動産会社を経営していて、数字に明るい。母は弁護士として生計を立てている。
高校の弁論大会では全国1位になったのだと、酒がまわるとよく自慢する。口喧嘩では母の前では父も玲乃も両手を上げて平伏すのみだ。
家族仲は程よい距離で面倒見がよく、それでいて適切な距離で放任されていた。現在通っている私立の天満高校に入学することも両親は快く受け入れてくれた。あの日の父からの言葉が胸に浮かんだ。
『玲乃。学費は気にしなくていい。学生の間はとことん遊び尽くせ。そして信頼できる友人を数人でいい。見つけなさい。それはお前の人生を限りなく豊かにする手助けになるだろうから』
その言葉通り学生生活は順風満帆といったところだ。
交友関係を広げるために高校生になってから今まで非公開で投稿していたSNSを公開してみたら、ドカンとフォロワーの数が増えた。
鍵アカウントのときは顔見知りの繋がりで100人くらいしかいなかったのに、高校2年生の今はフォロワーが10万人を超えている。
何がそんなに刺さるのか自分に自覚がないから「無自覚クズ男」とレッテルを貼られカテゴライズされることも多い。だが特に気にしてはいない。
俺は『己は己、他人は他人』と割り切っている。それと『来る者拒まず去るもの追わず』という言葉も気に入っている。
玲乃の中ではたったひとり、大切な友人がいればそれでよかった。けれど高校に入学してからは友人として見れているかたまに不安に駆られることもある。
もっと近しい人間として家族のように安心して接することができる友人である睦を友人以上の存在として見てしまうのも確かだった。
俺にとって睦は、友人だ。
それ以上の言葉を当てはめる必要はない。
ぼーっとそんなことを考えている間にも手先は器用に下準備を進めていた。
さて。今日も睦のお腹を俺の手料理でぽんぽこりんにするんだ。
それができるのは、俺だけでいい。
フライパンにオリーブオイルを数滴垂らして熱する。時たま振る舞う睦への料理を作る時間がこの上なく幸せだった。
