放課後は、内緒の幼馴染。

 「睦ー。ご飯できたよ」

 朝の歯磨き事件から一日。

 あんなに慌ただしかった朝が嘘みたいに、夜は静かに時間が流れていた。

 ダイニングテーブルの椅子に体育座りをして待っている睦は、ほっぺたをぷくっと膨らませている。

 完全に拗ねている顔だ。ハムスターみたいで正直かわいい。

 「……まだ拗ねてる?」

 そう聞くと、睦は視線を逸らしたまま口を尖らせる。

 「だって、朝忙しかったのに……それに、上顎やられるの、僕弱いのに……」

 小刻みにぷるぷる震えるその様子が小動物にしか見えなくて。

 理性が追いつく前に手が動いていた。

 よしよし、と頭を撫でる。

 あ、だめだ。反省してないって思われるかも。

 一瞬ひやっとしたけど、今さら手を引っ込められない。

 「ごめん。ほんとに。もうしないから」

 ちゃんと伝わるように、肩を落として素直に謝る。

 「……玲乃が反省してるなら、いい」

 渋々、という顔で睦の表情が緩む。

 その瞬間、胸の奥がほっとする。

 それから2人で夕飯を食べた。

 俺の特製ドリアとポタージュスープ、クリームチーズをのせたバケット。

 睦が俺の手料理を黙々と食べてくれる時間が、なんだか愛おしい。

 お風呂は別々。

 本音を言えば一緒に入りたいけど、そういうのは大事に取っておきたい。

 次に顔を合わせるのは洗面所。

 俺が睦の髪をドライヤーで乾かして、その間、睦はお利口に座って歯磨き。

 好きな人の髪に風を当てるだけで、どうしてこんなに満たされるんだろう。

 乾き終わると、今度は睦が俺の髪を乾かしてくれる。

 それが当たり前みたいになってることが、くすぐったくて幸せだった。

 22時を少し過ぎたころ。

 俺がベッドに入ると、空けてあるスペースに睦がするりと入り込んでくる。

 「……おやすみの、ちゅーは?」

 そう言うと、睦は少しだけ迷ってから、俺の頬にちゅっとキスをした。

 「え、頬だけ?」

 わざと不満そうに言って、睦の指を取って唇に当てる。

 「……ここは?」

 「っ……!」

 次の瞬間、ふにっとした感触。

 気づいたら睦は毛布を頭まで被って、もう動かない。

 「……できるじゃん」

 胸の奥がじんわりあたたかくなる。

 その夜は、いつもより深く眠れた。

 きっと、睦からのおやすみのちゅーのおかげ。

 朝、目を開けて。
 いちばん近くに睦がいることに、自然と息が緩む。

 このまま、ずっと隣にいられたらいい。

 カーテンの隙間から差し込む白い朝日が、俺と睦の頬を静かに照らしていた。