放課後は、内緒の幼馴染。

 「おかえり」

 玄関を開けると、部屋着に着替えた玲乃がそう言って迎えてくれた。

 「……ただいま」

 その一言を口にするだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。

 家では、僕はいつも「おかえり」を言う側だ。誰かに先にそう言ってもらえるのが、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。

 「さ。おいで、睦」

 玲乃に促されて部屋に入り、ベッドの端に腰掛ける。

 視線を上げると、玲乃が真っ直ぐこちらを見つめていた。からかうでもなく、ふざけるでもない、静かで真剣な目だった。

 「……修学旅行、終わっちゃったね」

 「うん。でも、ちゃんと帰ってきた」

 それだけのやり取りなのに、気持ちが落ち着いていくのが分かる。

 玲乃は僕の隣に座り、そっと肩に手を置いた。

 「無理してなかった?」

 「大丈夫。玲乃がいたから」

 その言葉に、玲乃は少しだけ照れたように視線を逸らしてから、僕の頭を撫でる。

 「そっか」

 よしよし、と子どもみたいに撫でられて、思わず笑ってしまう。

 気づけば僕は、自然と玲乃の方へ身体を寄せていた。

 拒まれることはなく、玲乃は僕の肩を抱いて、そっと引き寄せてくれる。

 言葉はなくても、それだけで十分だった。

 「睦」

 「なに?」

 「……一緒にいられて、嬉しい」

 短い言葉なのに、胸の奥にまっすぐ届く。

 「僕も。すごく嬉しい」

 ベッドに並んで座ったまま、肩が触れ合う距離。

 それ以上何かをしなくても、心は満たされていた。

 そのまま横になると、玲乃は布団をかけ直してくれる。

 「今日は疲れたでしょ。少し休も」

 「うん……」

 目を閉じると、すぐそばに玲乃の気配がある。

 背中に回された腕が、守るみたいに優しかった。

 翌朝、目を覚ますと、玲乃はまだ眠っていた。

 静かな寝息と、規則正しい鼓動。

 僕はそっと、その手を握る。

 すると、眠ったままなのに、指先に少しだけ力が返ってきた。そして伏せられていた瞼がゆっくりと持ち上がる。玲乃の目は僕を捉えて離さない。

 「睦。好きだよ」

 朝起きてすぐ伝えてくれた言葉に、僕の胸がいっぱいになる。

 「うん。僕も」

 言葉にしなくても、ちゃんと伝わっている。

 ここが僕の帰る場所で、隣にいるのが玲乃なんだ。

 再び目を閉じながら、心の中でそっと願った。

 一生、大好きな玲乃の隣にいられますように。

 握った手は、最後まで離れなかった。