無事に生八ツ橋作り体験を終えた僕たちは葉月先生と別れ、ホテルへ戻った。
今夜は、ホテルの窓から見える川辺の花火大会を3人で楽しむ予定だ。直接会場に行くのも面白そうだったけれど、人混みを避けて涼しい部屋から見るほうが落ち着いて楽しめそうだと、僕たちは一致して決めた。
夕食までの自由時間、冴島くんは友達の部屋に呼ばれてスナック菓子を持ち、楽しそうに出かけていった。
僕は最後の夜くらい、露天風呂でのんびりしたいと思った。
「お風呂行ってくるね」
ベッドに横になっている玲乃に声をかけると、少し間を置いてから、
「……俺も」
と玲乃。まさかついてくるとは思わず、内心で慌てながらも平静を装った。
露天風呂に着くと、人はほとんどいなかった。
汗を流すために服を脱ぎ、白いタオルを腰に巻く。温かい湯気が頬を包み、心地よい。端っこの木の椅子に腰をかけて、髪を洗い始める。
すると、隣に気配がした。顔を上げると、玲乃が僕の後ろに座り、静かに髪を洗ってくれる。手先はとても丁寧で、思わず息が漏れてしまう。泡を流し終えると、僕は振り返り、濡れた髪の玲乃と目が合った。
「ありがとう。あとは自分でやるよ」
「だめ。俺がリンスもやってあげる」
静かに、でも力強く告げる玲乃に、僕は目を閉じて委ねた。指先の優しい動きが心地よく、自然と肩の力が抜けていく。
髪を洗い終えた後、僕も玲乃の番になった。隣に座った玲乃の背中に向かい、泡立てたシャンプーで丁寧に髪を洗う。
息遣いや微かな吐息が伝わってくる。それだけで、互いの距離の近さにドキドキしてしまう。
温かい湯と泡、そして静かに交わす視線。肌のことは気にせず、ただお互いの存在を感じられる時間に心から安心していた。
リンスも終えてシャワーで泡を流すと、さっぱりした様子で玲乃がこちらを見つめていた。身体も洗おうとしてきたけれど、さすがにそれは困ると思い断ると、少しふてくされた表情で自分の身体を洗い始めた。
僕は決して玲乃の身体を見ないと心に誓い、素早く自分の身体を洗った。
大きな岩が敷き詰められた湯船に腰を下ろし、足先を温かい湯に馴染ませる。昨日は部屋の普通のバスタブに浸かっただけだからか、今日のお風呂は特別豪華に感じられた。
胸の辺りまでゆっくり湯に浸かっていると、すぐ隣に玲乃が腰を下ろした。
「ここ、少し良くなったね」
「ひっ……」
つう、と玲乃の指先が背中に触れた。村野と三上に怪我をさせられた時のことを気にしてくれているのだろうか。急に触れられるのは心臓に良くない。
「もう痛くない?」
ちゃぷ、と湯が音を立てる。玲乃が身体を少し湯に沈めたせいだった。僕はこくんと頷くことしかできない。好きな人がこんなに近くにいるなんて、普通はありえない。
悶々とした気持ちを抱えつつ、目を閉じて湯の温かさに身を委ねると、玲乃が濡れたタオルを僕の頭にそっとかけてくれた。
「いい湯だね」
まるで幼子をあやすような仕草に、少しやきもきしながらも、タオルを頭に載せたままにしておく。玲乃が僕のために何かをしてくれる、それだけで十分に幸せな気持ちになれた。
たとえ子ども扱いされていても、好意を向けられることは僕にとってかけがえのないことだった。
10分ほど無言で湯に浸かり身体が温まった頃、僕は湯船から出ようとした。すると、玲乃がすっと手を伸ばして僕の動きを止める。ちゃぷん、と水音が響いた。
玲乃の顔が目と鼻のすぐ先にある。思わずぎゅっと目を瞑る。数秒待っても何も起こらず、薄ら目を開けると、玲乃はただ肩を軽く抱き寄せているだけだった。どくんどくん、と胸の鼓動が大きく響く。
期待してた? 何を? なんでこんなこと考えちゃうんだろう。
僕は唇を強く噛んで、そっと玲乃の腕を外す。
「睦?」
くすくす、と玲乃は笑ったが、僕は少し寂しさが募っていた。
ちょうどその時、冴島くんたちが露天風呂にやってきたので、僕は逃げるように脱衣所へ向かう。玲乃も僕を追うように脱衣所へ来た。俯いたままバスタオルで体を拭き、服を着る僕を、玲乃は黙って見つめていた。
部屋に戻っても、僕は黙り続けていた。玲乃は少し気まずそうだ。
「ねえ、睦」
玲乃が声をかける。僕は体育座りのまま、ちらりと目だけ向ける。
玲乃はそっとベッドの端に腰を下ろした。
「ごめん。俺、何か嫌なことしちゃった?」
心配そうな顔に、僕はだんまりをやりすぎたかな、と少し反省し、首を横に振った。すると玲乃の表情が少し和らぐ。
「嫌っていうか……」
「うん」
僕のたどたどしい言葉にも、玲乃はゆっくり相槌を打ちながら耳を傾けてくれる。
「玲乃が、こういうことするのって……僕だけ?」
潤んだ瞳の中に玲乃の姿が映る。僕はぐす、と鼻を詰まらせ、震える唇から言葉をこぼした。
なんで泣きそうなんだろう、僕。
今夜は、ホテルの窓から見える川辺の花火大会を3人で楽しむ予定だ。直接会場に行くのも面白そうだったけれど、人混みを避けて涼しい部屋から見るほうが落ち着いて楽しめそうだと、僕たちは一致して決めた。
夕食までの自由時間、冴島くんは友達の部屋に呼ばれてスナック菓子を持ち、楽しそうに出かけていった。
僕は最後の夜くらい、露天風呂でのんびりしたいと思った。
「お風呂行ってくるね」
ベッドに横になっている玲乃に声をかけると、少し間を置いてから、
「……俺も」
と玲乃。まさかついてくるとは思わず、内心で慌てながらも平静を装った。
露天風呂に着くと、人はほとんどいなかった。
汗を流すために服を脱ぎ、白いタオルを腰に巻く。温かい湯気が頬を包み、心地よい。端っこの木の椅子に腰をかけて、髪を洗い始める。
すると、隣に気配がした。顔を上げると、玲乃が僕の後ろに座り、静かに髪を洗ってくれる。手先はとても丁寧で、思わず息が漏れてしまう。泡を流し終えると、僕は振り返り、濡れた髪の玲乃と目が合った。
「ありがとう。あとは自分でやるよ」
「だめ。俺がリンスもやってあげる」
静かに、でも力強く告げる玲乃に、僕は目を閉じて委ねた。指先の優しい動きが心地よく、自然と肩の力が抜けていく。
髪を洗い終えた後、僕も玲乃の番になった。隣に座った玲乃の背中に向かい、泡立てたシャンプーで丁寧に髪を洗う。
息遣いや微かな吐息が伝わってくる。それだけで、互いの距離の近さにドキドキしてしまう。
温かい湯と泡、そして静かに交わす視線。肌のことは気にせず、ただお互いの存在を感じられる時間に心から安心していた。
リンスも終えてシャワーで泡を流すと、さっぱりした様子で玲乃がこちらを見つめていた。身体も洗おうとしてきたけれど、さすがにそれは困ると思い断ると、少しふてくされた表情で自分の身体を洗い始めた。
僕は決して玲乃の身体を見ないと心に誓い、素早く自分の身体を洗った。
大きな岩が敷き詰められた湯船に腰を下ろし、足先を温かい湯に馴染ませる。昨日は部屋の普通のバスタブに浸かっただけだからか、今日のお風呂は特別豪華に感じられた。
胸の辺りまでゆっくり湯に浸かっていると、すぐ隣に玲乃が腰を下ろした。
「ここ、少し良くなったね」
「ひっ……」
つう、と玲乃の指先が背中に触れた。村野と三上に怪我をさせられた時のことを気にしてくれているのだろうか。急に触れられるのは心臓に良くない。
「もう痛くない?」
ちゃぷ、と湯が音を立てる。玲乃が身体を少し湯に沈めたせいだった。僕はこくんと頷くことしかできない。好きな人がこんなに近くにいるなんて、普通はありえない。
悶々とした気持ちを抱えつつ、目を閉じて湯の温かさに身を委ねると、玲乃が濡れたタオルを僕の頭にそっとかけてくれた。
「いい湯だね」
まるで幼子をあやすような仕草に、少しやきもきしながらも、タオルを頭に載せたままにしておく。玲乃が僕のために何かをしてくれる、それだけで十分に幸せな気持ちになれた。
たとえ子ども扱いされていても、好意を向けられることは僕にとってかけがえのないことだった。
10分ほど無言で湯に浸かり身体が温まった頃、僕は湯船から出ようとした。すると、玲乃がすっと手を伸ばして僕の動きを止める。ちゃぷん、と水音が響いた。
玲乃の顔が目と鼻のすぐ先にある。思わずぎゅっと目を瞑る。数秒待っても何も起こらず、薄ら目を開けると、玲乃はただ肩を軽く抱き寄せているだけだった。どくんどくん、と胸の鼓動が大きく響く。
期待してた? 何を? なんでこんなこと考えちゃうんだろう。
僕は唇を強く噛んで、そっと玲乃の腕を外す。
「睦?」
くすくす、と玲乃は笑ったが、僕は少し寂しさが募っていた。
ちょうどその時、冴島くんたちが露天風呂にやってきたので、僕は逃げるように脱衣所へ向かう。玲乃も僕を追うように脱衣所へ来た。俯いたままバスタオルで体を拭き、服を着る僕を、玲乃は黙って見つめていた。
部屋に戻っても、僕は黙り続けていた。玲乃は少し気まずそうだ。
「ねえ、睦」
玲乃が声をかける。僕は体育座りのまま、ちらりと目だけ向ける。
玲乃はそっとベッドの端に腰を下ろした。
「ごめん。俺、何か嫌なことしちゃった?」
心配そうな顔に、僕はだんまりをやりすぎたかな、と少し反省し、首を横に振った。すると玲乃の表情が少し和らぐ。
「嫌っていうか……」
「うん」
僕のたどたどしい言葉にも、玲乃はゆっくり相槌を打ちながら耳を傾けてくれる。
「玲乃が、こういうことするのって……僕だけ?」
潤んだ瞳の中に玲乃の姿が映る。僕はぐす、と鼻を詰まらせ、震える唇から言葉をこぼした。
なんで泣きそうなんだろう、僕。
