放課後は、内緒の幼馴染。

「さ、熱いうちに食うたろ。いただきます」

 冴島くんの言葉に続いて玲乃と僕が手を合わせる。

「いただきます……!」

「いただきます」

 まずはもんじゃを小さなヘラで掬ってふーふーと冷ましてから口へ運ぶ。舌触りがなめらかで濃厚な明太子の風味ともちもちとしたチーズともちが奏でるハーモニーに僕は悶絶していた。

 隣でもんじゃを口にした玲乃はその直後、すぐにまた一口、また一口ともんじゃをヘラに載せて口に運んでいた。表情はあまり変わらないが余程美味しかったようで、もんじゃの半分は玲乃が平らげてしまった。海鮮お好み焼きとオムそばは具材が豊富で食べ応えがあった。

「ごちそうさまでした……!」

 3人で店を出ると早速お土産屋さんを発見したので中に入ってみる。定番の抹茶バウムクーヘンや抹茶チョコレート、有名な八ツ橋がところせましと陳列されている。

 お店のおばちゃんが気前よく試食を勧めてくるので、3人で味見しながらお土産を選んだ。僕は定番の八ツ橋とラムネ味の水色の生八ツ橋、抹茶バウムクーヘンを購入しキャリーケースに詰めた。

 冴島くんには双子の弟がいるそうで、2人分の八ツ橋ときなこの煎餅を購入していた。玲乃はというと食べ物のお土産は生八ツ橋だけで、ご当地キャラクターのキーホルダーをまじまじと見つめていた。

「睦」

 不意に玲乃に声をかけられ、僕は後ろを振り向く。見ればちょいちょいと手招きされている。

「これ。おそろにしない?」

 玲乃が見せてきたのはご当地キャラクターの『八ツ橋くん』のキーホルダーだった。

 可愛らしい狐のキャラクターで羊毛フェルトでできているらしく、ひとつひとつ職人さんの手作りらしい。ころんとした手のひらサイズのぬいぐるみに心を奪われていると、玲乃が色違いの八ツ橋くんを僕に見せた。

「白と黒だったらどっちがいい?」

「白狐と黒狐がモチーフなんだね。どうしようかな……どっちもかわいいから選べないよ」

 苦笑しながら答えると、玲乃は自然に白狐を僕の手に載せた。

「お互いの髪の色を交換して持ちたい。この黒狐を見ればすぐに睦のこと思い出せるから」

「……っ」

 胸がきゅんとする。嬉しさと照れが入り混じった感覚に、僕はしばし言葉を失った。からかいのない真っ直ぐな瞳に見つめられて僕の胸がどきんと跳ね、自然と笑みがこぼれた。こんなに素直に嬉しい気持ちになるのは久しぶりだった。

 お互いの髪の色の狐を交換して持つことが玲乃にとって自分は特別な存在だと言われているようで幸せでいっぱいだった。

「うん。僕もこの白狐を見るたびに玲乃のことを思い出すよ」

 ふ、と微かに玲乃が笑った気がした。しかし数秒後にはまた普段の真顔に戻ってしまう。

 その後はホテルの露天風呂に入り、部屋で夕食をとった。僕は村野と三上に傷つけられた身体がまだほんのりと紅く色づいているので部屋のお風呂に入った。

 露天風呂は魅力的だったが、他のクラスメイトや客に痣の残る裸を見られるのは少し億劫だった。

 その日の晩、消灯時刻の23時を過ぎた頃。冴島くんは熟睡タイプのようですうすうと寝息を立てて深い眠りについている様子だった。

 僕は普段と違うベッドや枕だと寝付きが悪くなるため、無理やり目を閉じて明日に備えて眠ろうとしていた。その時だった。隣のベッドがもぞもぞと動いたのは。

 玲乃は静かに僕の毛布を剥ぎ取ると、我が物顔でベッドに入ってきた。身体を横にして僕の肩を抱き寄せる。突然の出来事に頭がショートして動けない。

「俺、ベッドと枕違うと寝付き悪いから。お願い添い寝して?」

 きゅううんと子犬のような眼差しで見つめられると追い払うことができなかった。僕は小声で玲乃に聞いてみる。

「冴島くんに見られたらどうするの?」

「そんなの気にしなくていいよ。俺が寝ぼけて睦のベッドに入ったってことにしておけば」

「……」

「冴島に見られると困ることでもあるの?」

 にやにやと頬を上げる玲乃を見て、意地悪モードが発動したのだと気づき慌ててそっぽを向く。

「困るっていうか……その……俺と玲乃は内緒の友達だから、こういうふうに仲良しなのがみんなにバレたくない」

「……へぇ。内緒の友達ね。じゃあ今日は特別だ」

 僕は照れくさくて、そっと視線を逸らす。

 そのまま二人で肩を寄せ合うと、暖かさと安心感がじわじわと心に染み込んでくる。

「……おやすみ、睦」

 耳元で囁かれる声に、僕の胸がきゅうっと締め付けられた。

 その夜は、二人並んで肩をくっつけたまま静かに目を閉じた。身体の距離が近いだけで、心はもう十分に満たされていた。

 僕は玲乃の柔らかな体温を感じながら、いつの間にか深い眠りに落ちていった。